車がやっと離合できるかできないかぐらいの細道が入り組んだ今泉エリア。建ち並ぶマンションの1階、灰色の壁に小さく掲げられた“大所”の看板が目印です。料理人として店を切り盛りするのは店主の重富大さん。鮮魚店で働いた後、和食の世界に飛び込んだ重富さんが作る料理は、県外にまで評判が及ぶほどです。
両親が寿司店を営む家に生まれ、料理が身近にある環境で育った重富さんですが、周りのすすめもあって勤めた鮮魚店が料理の世界への入口となったそう。「今、自分の店を持てたことを考えると、鮮魚店での経験は大きかった」と話します。
その言葉通り、「大どころ」の料理は海の幸が柱。8000円、1万円、1万3000円の3つのコースを用意し、どのコースにも刺盛りや魚介のしゃぶしゃぶが入ります。店で使う魚介類はすべて、鮮魚店時代の兄弟子が営む店から仕入れ、重富さんは「兄さんが選んだ魚に間違いはない」と絶対的な信頼を置いています。もちろん、自身も鮮魚店に勤めた経験から確かな目利きができる上、そんな信頼の置ける仕入先があるのは大きな強みでしょう。
重富さんは和食一筋に、いくつかの店を渡り歩いてきたそうで、現場で学んだ基礎を大切にしている印象。
今回いただいたのは8000円のコース料理。野菜が主役の前菜には和食店での修業で培った、“引き算”の考えが随所に見て取れます。
この日は京壬生菜と白マイタケのおひたし、熊本県産栗を使う揚げ栗、同じく熊本県産のサツマイモ・紅あかりの蜜煮、千葉県産生落花生の塩ゆで、呼子産アラのほぐし身を使う魚のチーズ。どの料理にも言えるのが、食材本来の味わいを大切にした味付けにしていること。余計な味を加えることはせず、素材が活きるよう調理しているのは料理人としての知識が深いからだと感じました。加えることは簡単でも、削ぎ落とすことは難しい。これはどんな業種でも言えることではないでしょうか。
コースの最初の主役は刺盛りです。旨味を引き出すために10日ほど寝かせた呼子産のアラ、昆布締めにした太刀魚、五島産のツムブリ、長崎産のメダイ、糸島産のサワラの5種をいただきました。客が自分でする本ワサビをはじめ、海塩など、薬味や調味の仕方にもこだわりが光ります。どのネタにもさりげない工夫を凝らすことを大切にしている重富さん。中でも衝撃を受けたのが醤油漬けにした青唐辛子を添えたツムブリです。普段目にしないマイナーな魚でも、こんなにおいしいとは。季節の草木で彩りを添えるなど、美しい盛り付けもポイントです。
コースのハイライトは、魚介のしゃぶしゃぶでで、この日はアラをいただきました。しゃぶしゃぶというと薄切りをイメージしますが、こちらはかなりの厚切り。「これが、しゃぶしゃぶ?」と思ってしまいますが、熱々の昆布出汁に通して食べてみると、魚の味わいがしっかり! これは、感動的なおいしさです。「刺身でも食べられる魚をしゃぶしゃぶにするわけですから、魚のおいしさを味わってもらわないと意味がない。それで厚く切っています」と重富さんは話します。最後は橙をベースにした自家製ポン酢と昆布出汁を割って、吸い物のようにいただくのも最高です。
店はカウンターをメインにテーブルを2卓用意。照明を極限まで落とし、ゆらゆらと揺れるろうそくの灯りも幻想的な雰囲気を演出しています。料理の味わいはもちろん、隠れ家的な店の雰囲気を含めて、非日常のひと時を過ごせることは請け合いです。
※価格はすべて税別
ジャンル:日本料理
住所:福岡市中央区今泉2-3-38 ピュア天神1F
電話番号:092-724-9600
営業時間:18:00~23:00
定休日:日曜、ほか不定休あり
席数:カウンター12席、テーブル8席
個室:なし
メニュー:8000円コース、1万円コース、1万3000円コース
※価格はすべて税別
URL:https://tabelog.com/fukuoka/A4001/A400104/40036894/
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