最近、“焼き鳥”ならぬ“鶏焼き”を扱う店に出会うことがあります。そう、鶏肉を焼肉のごとく鉄板で焼いて楽しむ料理のこと。いずれ福岡でブームとなる日が来るかもしれません。
そんな将来性あるジャンルの先駆店を聞かれたら、僕なら「とりやき八」と答えます。2008年オープンの鶏料理専門店で、使用する鶏肉は鹿児島産の「さつま知覧どり」のみ。そのうまさに心酔し、店舗まで構えた八坂学さんがオーナーを務める人気店です。
そこの看板料理が、この日の僕のお目当ての「とりやき」。近頃は焼鳥屋通いが多く、ちょうどこんな“変化球”が欲しかったんですよね。
場所は日赤通りのそばですが、小路にあるせいか隠れ家感はやや高め。小綺麗な店内にはカウンターと掘りごたつ席が完備されています。
さて、「とりやき」との対面の前に、気の利いた一品料理をつまんで気分を盛りあげましょう。その1品目に選んだのが創業以来の定番「もものたたき」(1,200円)です。固すぎず柔らかすぎない飼育450日程度の身と、自家製ポン酢を使うのがポイントで、ギュッと歯に食い込む感覚は真に極上。素材本来の甘味と食感をさらに突き詰めた一皿になっています。
同じく450日飼育のもも肉に、胸身を加えた「ユッケ」(900円)も好評。こちらはピリ辛タレや韓国海苔などを混ぜて食す一品で、ピリッとした食味が効果的な“味変”を演出してくれます。
土鍋でグツグツ煮える「ワンタン鍋」(900円)は、注文後に鶏ガラと鰹出汁を合わせて仕立てたスープのうまさがたまりません。気づけばすべて飲み干していたほどに……。鶏ミンチとニラの餡を包んだワンタンも、自家製鶏辣油(チーラーユ)を垂らすと格段に風味がアップ。正直どの料理もレベルが高く、これ以上の注文を抑えるのが大変でした(笑)。
そしてついに大本命! 客の9割が頼むという超定番「焼もの盛り合わせ」(1,500円)です。左上から時計回りに「もも」「とりとろ」、口直しに添えた「和牛はらみ」、「ささみ」「砂肝」、そして中央に「白肝」という内容でした。連日鹿児島から届く朝引きの「さつま知覧どり」を、これだけ一度に味わえる店も市内にそうはないでしょう。
「まずは“もも”からお召しあがり下さい」とアドバイスをくれたのは店長の金森慎也さん。知覧どりの魅力がもっとも凝縮した部位で、創業当初はこのネタ1本で勝負した時期もあったとか。
皮目をカリッと焼き、身はミディアムで仕上げたもも肉を頬張ると、絶妙な弾力に思わずため息。しかもジュワッとあふれる脂の甘いこと! この最強コンボに魅了され、単品の「もも」(1,200円)だけを3人前頼むコアなファンもいるそうですが、そんな逸話も納得の鮮烈な美味でした。
が、うまさの点では他の部位も譲りません。1羽から2個しか取れない「とりとろ」の歯応えに唸らされ、100羽に1個のレア素材と言われる「白肝」にはフォアグラ顔負けの品格があります。どこを切っても「うまい!」が顔を出す「さつま知覧どり」。さすがは若鶏の10倍──すなわち750日以上の飼育期間を経た贅沢素材です。
これを「ベストな状態で届けたい」と、できる限りテーブルを回って“焼き”をサポートする金森さんたちスタッフの尽力も印象的でした。このブランド鶏にかける「八」の慈しみや愛情が、こちらにもひしと伝わります。
嬉しいことに麺や丼ものもあり、今宵は「鶏そば/醤油味」(550円。塩味もあり)で締めることにしました。鶏ガラと醤油の返しで作るスープは期待以上の完成度。これで心残りなく家路につけそうです。
どの料理も「さつま知覧どり」の持ち味を生かし、丹念に仕上げた逸品揃い。“鶏焼き先駆店”にふさわしい貫禄と口福に浸れるひとときでした。
なお2015年からはコの字カウンター(18席)のみの「とりやき八 薬院店」も営業中。接待にも使えるモダンな雰囲気と、より研ぎ澄まされたサービスを備える大人の隠れ家です。
ジャンル:居酒屋、肉料理、焼肉・ホルモン焼き
住所:福岡市南区向野2-1-8
電話番号:092-561-2808
営業時間:17:00~OS22:00
定休日:なし
席数:カウンター7席、掘りごたつ16席
個室:なし
メニュー:焼もの盛り合わせ1,500円、もものたたき1,200円、ユッケ900円、ワンタン鍋900円、鶏そば550円、鳥わさ700円、親子丼700円、とりやき八コース3,800円
URL:https://fazz300.gorp.jp
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