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妊娠を望む健康な男女が避妊をせずに 性交しているが1年間妊娠しない=『不妊』 不妊治療の現場は!?患者・経験者の生の声は!?

「4,4組に1組」…これは『不妊』の検査や治療を受けたことのある夫婦の割合。日本産婦人科学会は「妊娠を望む健康な男女が避妊をせず性交しているが1年間妊娠しないもの」を「不妊」と定義しています。不妊治療を取り巻く状況の今とこれから、そして不妊治療当事者の声から見えてきた課題をお伝えします。

国内の体外受精の実施件数は、年間およそ45万件とされていてこの数字は世界最多となります。内閣府の資料によると不妊治療の平均費用は体外受精でおよそ20万円から70万円。しかし、1回の治療で妊娠に結び付くとは限りません。ですのでかなりの経済負担になります。こうした中、少子化対策として昨年4月から人工授精や体外受精などの不妊治療が保険適用になりました。先進医療については、今も保険適用外ですが、国が認め保険診断と併用可能な11の治療について、福岡県は今年度から費用を一部負担することを決めました。

福岡市天神の井上善(いのうえぜん)レディースクリニックには、年間およそ450組の夫婦が不妊治療のために受診しています。この日、受診していたのは結婚9年目、35歳の女性で、今年に入って不妊治療を始めたそうです。
「1人目の子供が小学生になるので2人目を希望しているができない。費用は前は保険が適用されていなかったので高額になると思っていたが、(今は)保険適用なので思っていたより負担がない」と話していました。

一般不妊治療と呼ばれるのが、排卵のタイミングに合わせて性交を行うタイミング法や、精液を子宮に注入器で直接注入して妊娠を図る人工授精。
それでも妊娠しない場合、体外で受精させた受精卵を子宮に移植する体外受精、人工的に注射針などで精子を卵子に注入して受精させる顕微授精と、高度な治療に進んでいきます。治療費は、一般不妊治療であれば1回につき数千円から3万円ほどですが、体外受精や顕微授精になると1回20万円から70万円ほどかかります。
 

8年に及ぶ不妊治療を経験した40歳の女性。2回の流産をきっかけに、夫婦で不妊の検査をしましたが、原因は見つからなかったそうです。クリニックを5軒転々とし、あらゆる治療を試したそうです。
「子供を授かって育ててみたいという夢が叶わない日々、なんで自分だけ?みたいな気持ちが膨らんで…。一番負担が大きかったのは精神面と、でもそれと同じくらい金銭面が辛かった。1回病院に行ったら5、6万円とか、治療によっては20万円とか。病院に行って頑張れば力を借りたらすぐに妊娠できるんじゃないかと安易な気持ちで考えていました。」

晩婚化や晩産化が進み、現在、4・4組に1組の夫婦が不妊の検査や治療を経験しています。日本の体外受精の実施件数は年間およそ45万件にのぼり、世界で最も多い状況です。(2018年、日本産科婦人科学会)
去年、国内で生まれた子供の数は、1899年の統計開始以降、初めて80万人を割り込みました。(出生数は79万9,728人と過去最少を更新・厚生労働省)
少子化が深刻化する中、2019年には体外受精で生まれた子供の数が6万598人と過去最多を更新。今や14人に1人が体外受精で生まれていることになります。
 

こうした中、国は少子化対策として、去年4月から人工授精や体外受精などを保険適用にしました。これに加え、福岡県では、先月の議会で保険適用外の先進医療費について一部助成することを決めました。

近年、不妊治療の先進医療としてよく使われるようになった『タイムラプス』。受精卵の培養庫の中にカメラがあり10分間隔で自動撮影するしくみです。成長を細かく観察でき、より状態のよい受精卵を選ぶのに役立ちます。
井上善レディースクリニックでは、タイムラプスを3年前から導入しています。先進医療のため全額自己負担で1回につき2万3000円かかりますが、妊娠率をあげるため体外受精を受ける全ての患者に取り入れています。
福岡県が助成するのは、タイムラプスを含む11の先進医療で、国が認めている、保険診療と併用可能なものが対象です。開始時期などは調整中ですが、1回につき自己負担額の7割、上限5万円を助成します。妻が40歳未満の場合1子ごとに6回まで、40歳以上43歳未満は1子ごとに3回まで利用できます。

井上院長は「(不妊治療が)保険適用になりかなりのハードルは下がった。今までは若い人で収入的に厳しいと敬遠していた人が増えた。そういう意味では先進医療にも助成が出るとなると裾野は広がるかもしれない。」と話していました。
 

保険適用や先進医療の一部助成で、費用面の課題は見直されつつありますが、その一方で、仕事と不妊治療の両立の難しさは改善されないままです。
不妊体験者を支援するNPOのアンケート調査によりますと、仕事と治療の両立は困難と回答した人が95・6%。そのうち働き方を変えざるを得なかった人のおよそ半数が退職を選択しています。「頻繁かつ突然の休みが必要なこと」「通院スケジュールを立てるのが難しい」「まわりに迷惑をかけるのが心苦しい」などが主な理由です。

治療開始から8年後に待望の長男を、そして去年次男を授かった不妊治療経験者の女性は「採卵日が近づくと頻繁に病院に状況をチェックしてもらいに行くから日にちも時間も結構とられてしまう。働かないとお金もない。でも治療費はどんどんいるのが現状。」と話していました。さらに、会社では不妊治療のことを話せず、仕事と治療をなんとかやりくりしていたため、「(治療の自己)注射の時間が決められているから”今なら打てる”という時間を探して会社のトイレで注射をする日々があって…。誰にも話せない出口が見えないトンネルの中にずっといる気持ちでした」と。

少子化が止まらない中、子供を産みたい人が妊娠・出産しやすい社会に。仕事と不妊治療の両立は喫緊の課題です。
井上院長は「子供を産みたいという人が治療を普通に受けられて安心して子供が産めるように社会的な社会的な認知が絶対に必要だ。」とおっしゃっていました。
 

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