贅沢すぎず砕けすぎない「ちょうど良さ」──今宵訪ねた「INCROCI」は、そう形容したくなるイタリア料理店です。コースもアラカルトもある自由なメニュー構成に、ランチでも使える利便性。さらには気品と気軽さが絶妙に溶け合う店の空気。それは上質なシャツを羽織るような、とても快い感覚でした。
場所は天神中央公園の向かいにあるホテルの2階。公園側からは店のテラス周りが見えるのですが、欧風のスタイリッシュな佇まいが、実は前から気になっていた一軒です。さて、どんな素敵な空間が現れるのか……。
そこは、白と茶を基調とした端正なフロアでした。が、外に視線をやると印象はロマンティックに激変。何しろ壁一面が、中央公園の豊かな樹々で埋まっていたのですから。夜の照明に浮かぶ眺めも良いけれど、緑まばゆい昼間も良さそう。とくに桜の季節は連日満席というのも頷けます。都心の店で、これほどの自然美が堪能できるとは驚きでした。
景観よりもプライバシー重視なら、奥にある8名収容の半個室がお勧めですよ。
そんな美観も人気の「INCROCI」のオーナーシェフは、老舗フレンチ店やイタリアンの「フォンタナ」などで腕を磨いた村山浩さん。2009年に構えた大名の「Osteria Incroci」で独立を果たし、2018年にはこの姉妹店をオープンしました。
「店名は“交差点”という意味です」と村山さん。九州と西洋の食材、洋と和の技法、そして多くの人々の感動が行き交う、福岡でしか楽しめない店にしよう──そんな決意を込めた屋号だと教えてくれました。
さて、今夜予約しておいたのは13,200円のディナーコース。最初のアミューズに続く前菜は、タルタル仕立てにしたマグロとアボカドの包み揚げでした。さらにカリフラワーのピューレ、仏バイヨンヌ地方の生ハム、伊ピエモンテ州の発酵バターなどが添えられ、優雅で柔らかなハーモニーを奏でます。
「味変にどうぞ」と出された伊産ホワイトバルサミコのスプレーボトルもユニーク。途中で噴き付けると、料理に甘やかな魅惑が加わりました。
次の魚料理には、毎回平戸から届く自慢の鮮魚が使われます。この日は有明産のイイダコとヒラメが、皿の上でうまそうな香りを漂わせていました。
鯛の骨などで取るフュメで炊いたタコも、焦がしバターで火入れしたヒラメも滋味満点。先の前菜と同じく、一見シンプルな中にも細かな手間が加わっています。思わず引き込まれる味わいに、村山シェフの誠実さを感じる人も多いでしょう。
このあと温菜を挟み、自家製のタリオリーニが登場。麺は福岡産小麦「みなみの穂」と飯塚産卵「げんきタマゴん」を素材に、博多ラーメン的なイメージでこしらえた名物パスタです。歯の間でプツッと切れる感覚はかなりクセになりそう! 鹿児島産マグロ頬肉のプッタネスカソースとの絡みも抜群でした。
この日のメインは熊本産あか牛のロースト。これもシンプルな料理ですが、「だからこそ良質な素材探しが一番大事なんです」と村山さん。あか牛は厳選に厳選を重ねた一級品で、付け合わせの野菜も有機農法にこだわる宗像の農園「ぶたちゃんの畑」のものだ。「有名店と遜色ない素材を扱っている自信はあります」と語る言葉には、一点の曇りもありませんでした。
なおコースには、他にデザート、コーヒー、小菓子が付いています。
「お客様の喜び」を形にするため努力を重ね、「INCROCI」を愛すべき店に育てあげた村山さん。常に心がけるのは「コンスタントに足を運んでもらえる店づくり」だそうです。なるほど、“リストランテ”の響きを良い意味で裏切る軽やかさはそこから来るのでしょう。
また若手育成にも熱心で、技術の継承や労働環境改善を通して「この仕事に夢を持って欲しい」と尽力中。残念ながら、テナント契約満了により大名店は5月20日に閉店しますが、次はスタッフたちとどんな“交差点”を見せてくれるのか楽しみですね。
ちなみに博多区では、ここのパスタやソースなどの各種商品を扱う直販店「村山商店」も営業中(博多区上呉服町2-121/092-985-7628)。商品の一部は店頭販売もしています。
この記事は積水ハウス グランドメゾンの提供でお届けしました。
住所:福岡市中央区西中洲12-18ホテルグランドルチェ博多2F
電話番号:092-741-2882
営業時間:12:00~OS14:00/18:00~OS20:30
定休日:不定
席数:カウンター4席、テーブル26席
個室:なし
メニュー:ランチコース3,800円・4,800円、ディナーコース8,800円・13,200円、バーニャカウダインクローチ風2,400円、アーリオオーリオペペロンチーノ1,400円、鮮魚のアクアパッツァ4,400円~
URL:https://ristorante.incroci.jp
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