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ボランティアで報酬なし、担い手不足の「民生委員」に求められる新たな仕組み

5月12日は「民生委員・児童委員の日」です。民生委員は、困窮する地域住民を行政や福祉サービスにつなぐ重要な役割を持っていますが、支給されるのは交通費や電話代などの活動費のみ。報酬なしのボランティアです。定年延長で年を重ねても働き続ける人が増える中、その担い手不足が深刻です。OB・OGの情報網で現役の民生委員を支えている地域もあるものの、抜本的な解決には新たな仕組みづくりが求められています。


◆行政や福祉サービスに“つなぐ”ことが仕事
福岡市中央区で民生委員を務める黒瀬茂美さんです。活動は今年で17年目を迎えました。「民生委員の黒瀬と申します」「風邪などひいていませんか」「大丈夫です。ありがとうございます」「何か困りごとはないですか?大丈夫ですか?」「ベランダで滑って腰を痛めました」

この日は75歳以上の高齢者の自宅を訪問。暮らしの様子を1軒1軒丁寧に聞き取って回りました。

民生委員は国から委嘱された非常勤の地方公務員。見守りの対象は、高齢者や障害者のいる世帯、最近ではひとり親世帯やヤングケアラーなど多岐にわたり、相談に乗ったうえで必要に応じて行政や福祉サービスにつなぎます。福岡市によると、これまでに自宅で倒れている高齢者を発見し救命につながったケース、困窮するシングルマザー世帯に気づき関係機関と連携して食料などを支援したケースなどがありました。

黒瀬さん「来なくていい、なんで来たの?と言われることもあります。まず第一に安否確認が第一の目的でやっています。頼りにしてくれていることが何よりです」


◆任期は1期3年、ボランティアのため報酬はない
地域福祉の重要な担い手である一方で支給されるのは交通費や電話代などの活動費のみ。ボランティアのため報酬はありません。任期は1期3年ですが最近は担い手の減少が深刻で、中には、黒瀬さんのように10年以上続けている人もいます。

黒瀬さん「皆さん働いておられるからですね。定年も65歳から70歳くらいまで上がってきているでしょ。その中でボランティアだけでやれるのはほんの一握りかなと思います」

これまで担い手の中心だった60代が定年後も働くことが増え、地域に対する関心も薄れていることなどから、福岡県内60市町村のうち、7割近くの45の自治体で民生委員が不足しています。福岡市では200人あまりが足りず、孤立する人が増えないか危機感を抱いています。

福岡市地域福祉課・久田惣介課長「民生委員からもしかして家の中で倒れているんじゃないかなどと通報を頂くことがある(新型コロナの影響などで)閉じこもりがちになっている高齢の方を支援していくためにも民生委員の確保は大切なテーマだと考えています」


◆「今こそ民生委員」OB/OGのネットワークが現役に情報提供
民生委員の不足を補うための取り組みも始められています。春日市で25年近く民生委員を務めていた門田昌子さん。高齢のため84歳で退任しましたが、これまでの経験を活かして自主的に地域の見守りを続けています。

門田さん「ご近所で見かけない方や新聞がたまっている方はいますか」「うちのところは気がつきませんけど」

春日市では門田さんたち約25人のOB/OGがネットワークを作り、身近なつきあいや暮らしの中で得た情報を現役の民生委員と共有するなどしてサポートしているのです。

相談した女性「困ったことでも信頼していればこそ相談できる。もちろん(門田さんは)引退されましたが無理のない範囲で、できればお助け頂きたいなと思っています」

門田さん「コロナで高齢者の生活も変わってきています。より閉鎖的になっている人もいるので、今こそ民生委員の働きが重要なので、私たちはあくまでサポートという形で支援していけたらと思っています」

専門家は、民生委員の不足が今後、孤独死する高齢者など地域で孤立する人を増やしかねないと指摘します。そのうえで、地域全体で見守る新たな仕組みを作ることが重要だと訴えます。

九州大学・高野和良教授「民生委員だけに頼っていくということではなくて、みんなで気を配りながら、民生委員とともに地域を支えていく関係や雰囲気をさらに作っていくことが必要だと思われます」

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