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おひとりさま高齢者はどこへ 消える有床診療所 引き金は10年前の医院火災 

今、かかりつけ医の機能と入院機能を併せ持つ「有床診療所」が減っています。引き金になったのは2013年に福岡市の医院で入院患者など10人が死亡した火災。有床診療所がなくなるとどうなるのか。その影響を一番に受けるのは、今後増えるとみられる「おひとりさま高齢者」です。

義務となったスプリンクラーの設置がネックに

 

2016年当時、八田内科医院もスプリンクラーの設置を迷っていました。当時院長だった
八田喜弘さんは、取材にこう話していました。

 


八田内科医院 八田喜弘院長(当時)
「ドクターとしての使命感、地域の人たちへの思い、責任感、そういうものがないと有床診療所は続けていけない、ちょっと気力が落ちてくると弱気になってしまう。スプリンクラーの問題はそれにもう一つ問題を投げかけたところがあると思います」

その後、八田内科医院は2018年に約1000万円かけてスプリンクラーを設置しました。センサーが熱や煙を感知した場合、部屋全体にスプリンクラーの消火液が流れてくるしくみです。設置から5年、父の喜弘さんが第一線から退いた今、八田弓子院長は、非常勤の医師の力も借りながら診療を続けていますが、将来への不安がなくなったわけではありません。

24時間365日かかる人件費も負担

 

八田弓子院長
「まだ父は理事長として診療しているんですけれども、これが完全に分担できなくなった時に、私ひとりでやっていけるのか、という問題はあります。夜間・休日の対応を続けていけるのか。解決策を見つけなければこれから難しい。かといって解決する方法が簡単に見つかるとも思えない」

さらに八田院長を悩ませているのが、人件費の問題です。八田内科医院では夜間、看護師と施設管理担当の2人態勢で当直を行っています。入院施設を維持するには24時間、365日人件費はかかり続けます。

八田弓子院長
「人件費も高騰していて、実際いろいろな分野で人材不足があると思うんですけど、医療介護分野も非常に、人の確保が難しい。その中で物価も高騰して経費も上がっている、その中で維持していくことが難しいという状況です」

低い診療報酬が壁に

 

医療機関の収入は、国が定める「診療報酬制度」で決められています。有床診療所の診療報酬は、規模の大きな病院に比べて低く設定されていて、医師や看護師の確保を難しくしています。

八田弓子院長
「診療報酬は少しずつ見直されてはいるんですけど、われわれ現場の感覚としては十分に評価されている感覚はないんですね。状況の変化に追いついていないのと、せっかく(診療)点数がついてもクリアすべき条件がかなりハードルが高かったりして、利用しづらい。支援を受けられる医療機関が限られているために、有床診療所をやめざるを得ないという決断をする診療所が増えているのではないかと思います」

医師会も「対策を急いで」

地域医療を支える「有床診療所」の減少。福岡県の医師会も危機感を抱いています。

 



福岡県医師会 瀬戸裕司専務理事
「経営基盤の構築が不可欠、これが最大限必要。そのためには適切な入院基本料の引き上げは必須であると考えています。対策を急いで歯止めをどこかでかけないと有床診療所の存続が非常に苦しい時代となっている」

「来年はどうなるか、分からない」院長の不安

おひとりさま高齢者がさらに増えるとみられる日本。医療と介護のはざまに置かれる人が安心して身を委ねる場所はこのまま消えてしまうのでしょうか。

 


八田内科医院 八田弓子院長
「いくら『頑張りたい、やりがいを感じている』といっても、自分自身の体力や年齢や周りの状況、経営的なもの、すべて考えてのことなので、きょうそう思っていても来年どうかというのは何の確証もないんですよね。ただとにかく一日一日今この役割を1日続けることができたと日々思いながらこれからもできることをやっていく、この地域でやっていくことだと思っています」

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