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キャンプに絶好のシーズンといわれる秋が到来しました。コロナ下で裾野が広がり1人で行うソロキャンパーたちも増えましたが、悩みは荷物の多さ。こうした悩みを解決するソロキャンプ向けのキャンプギアが注目を集めています。ペラペラの製品を開発したのは、元々は門外漢だった“鉄の都”の技術者たちでした。
重さ207グラムのグリル
ソロキャンパーに特化したキャンプギアを作っているのは「HID(エイチアイデー)」
本業はロボット設備の開発・設計を行う会社で、鉄の都・福岡県の北九州市の八幡地区で2000年に創業しました。キャンプギアを担当する竹口勇介さん(40)と半田浩憲さん(37)が開発したキャンプギアのひとつが、ワンタッチで開閉できる「パコットグリル」 ノートパソコンサイズという「薄さと軽さ」がこだわりで、調理にも焚き火にも使えて重さは207グラム、DVD4枚分と同じです。なぜこれほど薄く軽くできたのでしょうか。
薄くて軽い秘密は柔軟性が高い‘バネ材’
竹口勇介さん
「薄さ0.15mmのステンレスのバネ材を使っています。また部品と部品を組み合わせる所でも、蝶番などは使わずに薄い板を組み合わせることによって、薄く収納できる焚き火台になりました」
蝶番を使わないと溶接工程も省けるため、折り畳み式にこだわったというキャンプギア。
欠かせない素材は、ステンレス製の「バネ材」です。一般的なステンレスとは違うといいます。
竹口勇介さん
「バネ材ではないステンレスは、ちょっと曲げただけでも戻らなくなるんです。一方バネ材はグッと曲げても元の形状に戻ります。
バネ材の弾性こそが、極薄ペラペラの秘密ですが、この素材を使っているキャンプメーカーはほとんどないといいます。HIDでは、ロボット設備の開発や設計を行う中で、ステンレス製バネ材をつかう機会が多く、その特性を熟知していたことに加え、バネ材を製造する企業とも取引がありました。
技術者2人が新規ビジネス部門へ
竹口勇介さん(40)と半田浩憲さん(37)も、機械設計やシステム開発が専門の技術者。
転機になったのは、会社が新規ビジネスへの参入をめざして新しく「企画開発課」を立
ち上げた2018年です。まず竹口さんが異動を命じられ、続いて半田さんが加わりま
した。
竹口勇介さん
「企画を始めた時は、ロボットとかをうまく活用して何かできないかと考えていましたが、せっかく新規事業としてやるなら、全然やったことがないことをやっていこうということになりました」
半田浩憲さん
「今まで専門の業者とのやり取りしか経験していなかったのですが、お客さんの反応を
直に聞くことが出来るのは励みになります。ゼロからイチを生むのは中々難しく感じることもありますが、自分の生み出したものが世に出ていくと、やりがいや達成感を強く感じましたね。
竹口さんも半田さんも趣味はアウトドア
実は、2人ともアウトドアが趣味。技術者魂で「どこにもない薄くて軽いキャンプギアを作ること」を決意します。
「後発メーカーとして挑むなら・・・」
2人を後押ししたのは、HID・会長の原田哲朗さんです。毎週水曜日を「企画会議」と称し、
地元の焼き鳥屋に集合します。ソロキャンプに特化したキャンプギアをつくることも、ここで決まりました。
HID・会長 原田哲朗さん
「自分が再びキャンプを、勿論ソロで始めたんですけども、道具を買いに行った時に
ファミリーキャンプ用の、やや小さいサイズのものしかなかったんです。新規ビジネスを後発メーカーとして挑むのであれば、ソロキャン用の道具だろう、と思いました。それに、アニメで「ゆるキャン△」とかあったじゃないですか。
ぼく、結構リンちゃん(志摩リン…主人公の1人)のファンで(笑)」
楽しい会話からユニークな商品が生まれる。
そして、2020年「CGK」というブランドを立ち上げキャンプギアの販売を始めたのです。記念すべき第一号のキャンプギアは「ヤドカリグリル」という不思議なネーミング。
ステンレス板を組み立て、小型ポケットストーブの上に載せると焼き肉グリルになるというものです。
キャンパーご用達の小型ストーブにピッタリ!
竹口勇介さん
「ポケットストーブは、キャンパーさんが結構持っている固形燃料用のストーブなんですが、これに合うサイズ、ということでつくりました。皆が持っているのならば、このストーブに合うように作ったらいいじゃないかと。だから「やどかり」グリルです。
人気ユーチューバーも大注目
他社の商品にお宿を借りる「ヤドカリグリル」は、キャンプギアグッズを紹介するユーチューバー・FUKUさんが自身のチャンネルで取り上げたこともあり、知られるようになりました。FUKUさんは自分で購入したキャンプギアを使いながら忌憚のない感想を伝える動画を発信しており、38万5000人のチャンネル登録者を持っています。当初の見通しの20倍にあたる2000個を売り上げました。
ユーチューバー FUKUさん
「全然関係ないキャンプ道具にヤドカリするというのが面白いじゃないですか。図々しいという言葉を、もうちょっといい言葉に替えたいんですけど…。ポケットストーブって本来は固形燃料で湯を沸かす程度の能力しかないものなんですけど、ヤドカリグリル乗っけると焚火グリルになるんですよね。ポケットストーブって凄く普及してたから、その流れを掴んで開発したというので面白いメーカーだなって思いましたね」
竹口勇介さん
「いいものはそのまま良いものですからね、それを拡張するような形で何かいいものが
作れたらとりあえず皆ハッピーかなと。悪く言えば乗っかっているだけなんですけど」
ついに名刺サイズの製品が完成
薄くて軽いキャンプギア作りが身上の竹口さんと半田さん。ついにわずか3枚のステンレス板からなる、名刺サイズの「エアストーブ」を開発しました。1人分のカップ麺に必要なお湯が沸かせます。現在は、キャンパーご用達のステンレスマグカップに収まる「固形燃料用 風防兼五徳」なるニッチな商品も開発中だということです。
竹口勇介さん
「このサイズのマグカップを持ってる方が多いんですよ。カップは湯沸かしに利用し、
その中に、コップと固形燃料と五徳と風防とライターなどすべて収めて持ち運ぶんです。
キャンパーには、収めたい!みたいな欲求があるんですよ」
半田浩憲さん
「こういうのスタッキングっていうんですが、丁度良くハメられていくと気持ちいいじゃないですか(笑)」
バリバリの技術マンが作る、唯一無二のキャンプギア。
ペラペラな極薄のキャンプギアに、重厚なこだわりと情熱が詰まっています。
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