※今回ご紹介のお店
Osteria e Bar La Luce(大名)
久作味(小倉南区朽網)
福岡の食を支える「中村学園」の卒業生
2024年に創立70周年を迎えた、“食の中村”こと「学校法人中村学園」。1954(昭和29)年に「福岡高等栄養学校」を開校したのがそのはじまりで、多くの料理人や食産業に携わる人材を輩出していることで有名です。
UMAGAでは学園創立70周年を記念し、卒業生が営む店、活躍する店をご紹介しています。連載の第3回目は、こっそりと通いたくなる隠れ家的なイタリアンと日本料理店を訪ねました。
大名の隠れ家イタリアン
大人が集う「Osteria e Bar La Luce」
最初にやって来たのは中央区役所の側、大名に店を構える「Osteria e Bar La Luce」(オステリア エ バール ラ ルーチェ)です。賑やかな中心地にありながら、店が入居する古いビルの2階はちょっとした静けさがあり隠れ家的。1階に出された看板を見逃さずに細い階段を上ってくださいね。
扉を開くと「中村学園三陽中学校・高等学校」出身のオーナーシェフ・大神将輝さんが笑顔で迎えてくれました。店名に冠している通り、ここは居酒屋やバールの気軽さで本格的なイタリア料理やイタリアワインを楽しめるお店。店内はカジュアルながらも落ち着いた雰囲気で、一人でも立ち寄りやすいカウンター席も用意されています。
大阪の大学へ進学し、イタリア料理店でアルバイトを始めたことが料理の道へ進むきっかけになったという大神さん。スペイン料理店、兵庫県芦屋市にあるイタリア料理店「オステリア・オ・ジラソーレ」での修業を経て帰福し、29歳で福岡市・大宮に自身の店「オステリア オオガミ」を開店しました。それから約5年後の2015年には、より居心地が良く自由度の高い店にしたいとの思いで大名へ移り、店名も改めて現在に至ります。
「23歳の頃、働かせてください!と飛び込んでから5年間お世話になった『オステリア・オ・ジラソーレ』は、元々客として通っていた大好きなお店でした。狙った味へ持っていくためにきちんと手順を踏み、下ごしらえから仕上げまで工程を積み重ねる。そんな杉原一禎シェフに学んだ料理に対する考え方が、僕の基盤となっています。行き当たりばったりの料理はしません。お客さんにおいしいと言ってもらえるように、メニューに載せる前には必ず一皿すべて試食して、塩分のバランスや食後感なども確かめるようにしています」と大神さんは話します。
それでは自慢の料理をいただきましょう。グツグツという音、食欲をそそる香りと共に運ばれてきた「トリッパのトマト煮込み」(1,000円)は、そんな大神さんの丁寧な仕事が伝わる人気メニューです。きっちりと下処理された牛のハチノスは臭みなく、食べ応えのある大ぶりサイズ。何といっても火入れの加減が絶妙で、柔らかさの中にも程よい弾力が残る食感がたまりません。
ソースには裏漉ししたトマトピューレとフルーティで味が濃いイタリア産の完熟ミニトマトの水煮を使っているそう。香りよく、ギュッと凝縮された旨味が広がり、ワインもぐんぐん進みます。
ワインに合う小皿料理から旬野菜・肉・魚料理といった多彩なメニューに目移りしながらも、続いていただいたのは「からすみのスパゲティ」(2,000円)。こちらは大神さんのスペシャリテで、味の決め手はオイル煮した太刀魚を裏漉して作るソースにあります。このソースがむっちりとした麺の1本1本にしっかりと絡み、口に運べばたちまち香りと旨味が炸裂! 太刀魚の上品でまろやかな味わいがたっぷり削ったカラスミの濃厚な旨味を引き立て、一口、また一口とフォークが止まらないおいしさです。
大神さんの料理に対する真摯な姿勢がグルメな大人の心を掴んでいる「Osteria e Bar La Luce」。“いい店あるよ”と人を誘いたくなる、そんな隠れ家へぜひ出かけてみてください。
小倉南区の里山でひっそりと
季節の料理を拵える「久作味」
続いて訪れたのは、豊かな自然や田園地帯が残る北九州市小倉南区朽網(くさみ)。山間部にある大きな池「昭和池」を過ぎた先に、季節料理の店「久作味」はあります。JR日豊本線の「朽網駅」から車で8分ほど南へ上っただけなのに、ここはまるで別世界。竹林や樹木、さらには梅・甘夏・ビワがたわわに実る果樹が四方を囲み、側を流れる川のせせらぎや野鳥の声が耳に心地よく響きます。
清爽な絹の暖簾の先には昔ながらの土間があり、靴を脱いで店内へと足を進めます。築50年以上という民家を活かした空間には野山で摘んだ草花がさりげなく飾られており、温かくも凛とした気配を纏っていました。
「数軒先に祖父母が暮らしていた家があり、幼い頃から山菜を摘んだり、果実をもいだりと野山を駆け回っていました。朽網は私の原点なんです」。
そう話すのは「中村学園大学 栄養科学部」の卒業生で店主の植田聡子さん。「将来は食にまつわる仕事に就きたい」との思いで同学科に入学し、卒業後は大学で学んだ知識や取得した管理栄養士の資格を活かして調理師専門学校の講師を務め、かつて浄水通にあった「食文化スタジオ」の企画運営にも携わっていました。しかし、その一方で「自分自身で料理を作りたい」という思いも長らく根底にあったのだそうです。そんな中、当時北九州市小倉北区にあった寿司店「小山」の大将との出会いが転機となりました。大将の元で料理見習いを始め、2020年からは週1回福津市津屋崎で間借りの料理店「く作味」を開くように。そして2022年10月、実店舗としての「久作味」をこの地に構えました。
こちらで味わえるのは、その日、その時の季節の恵みが詰まった「おまかせコース」(6,000円・3日前までの要予約)です。植田さんが周辺の野山で摘んだ山菜や畑で育てた野菜、季節の食材で拵える料理10品ほどの中から、今回は3品をご紹介します。
最初に供されるのは、店の味の基準を伝え、食事の助走の役割を担う「玄米のスープ」。じっくり炒った玄米に昆布と自家製の梅干しを合わせ、30分ほど“じわじわ”と炊いて漉したというシンプルなスープですが……一口いただいて思わず目をつむりました。鼻に抜ける玄米の香り、舌にじんわりと広がる滋味が実に心地よく「強張った体や心をほっとゆるめてください」という植田さんの心遣いを感じる味わいです。
「『小山』の大将には魚や食材の扱いをはじめ、たくさんのことを学びましたが、一番の教えは“余計なことはしない、無駄なものはいらない”ということでした」と植田さん。4品目に登場した「鮎の棒寿司、鮎の熟鮓、虎杖の塩漬け」は、そんな言葉通りの一皿でした。棒寿司の鮎は塩のあて方が素晴らしく、『小山』の大将から譲り受けて継ぎ足し熟成させている酢で切った酢飯の香りの良さにも驚きます。昨年の9月に仕込んだという熟鮓は、繊細な鮎の旨味と乳酸のまろやかな酸味が重なり合う清廉にして芳醇な味わい。虎杖の爽やかな青味、シャクッとした歯触りにも心躍ります。
7品目には焼き物が登場。「店を始めてからは、猟師さんに猪の本当のおいしさを教えてもらいました。この美味を余すことなく味わっていただきたくて、焼くときに溶け出した脂を熟鮓の米と合わせてソースにしています」。植田さんがそう言って出してくれた、猪の焼き物と山菜が主役の一皿です。クセがなく柔らかな猪肉は、力強い旨味と脂の甘味が格別。植田さんが摘んだ鬼日陰ワラビはほろ苦さの中にもほっこりとした甘味があり、ソースがそれぞれを優しく包んで引き立てます。コースの最後には土鍋炊きの白むすびも登場するのですが、これがまた堪えられないおいしさでした。
「毎日野山を観察しています。山からいただく食材の味も季節と共に日々移ろいでいて、そんな一瞬一瞬の煌めきを知ってほしい、人間本意ではない自然の味をお届けしたい。そんな気持ちで料理を作っています」と笑顔で話す植田さん。本当の意味での豊かさに気付き、満たされる、そんな特別な一軒へぜひ足を運んでみてください。
この記事は「学校法人中村学園」の提供でお届けしました。
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