心の故郷といえば、どこを思い浮かべますか?私は、鹿児島にある母方の祖父母の家です。子どもの頃、夏休みになると母と2人で帰省し、約1カ月間過ごしました。いとこも集まり、昼は川や海、公園で一緒に遊び、夜は大人数で食卓を囲む。一人っ子の私にとって、兄弟がいる感覚を疑似体験でき、鹿児島で過ごした日々は宝物です。
そんな鹿児島の家に、両親が定年退職後に移り住むようになり、祖父母の家が私の実家になりました。盆や正月には我が子を連れて帰るようになり、今では子どもたちに私の幼少期と同じような体験をさせられているのは、幸せなことです。
今は、母が1人で暮らすこの家。事態が急変したのは、春のこと。相続先を決めなければならなくなりました。この4月から相続登記が義務化されたためです。事の子細については省きますが、親族での話し合いの結果、「実家じまい」をすることになりました。母の姉弟は遠方で住めない。福岡で働く私も引き継げない。気持ちとしてはいつまでも残したいけど、維持管理できない。理想と現実のはざまで、非常に悩ましく、難しい決断を迫られます。現在、空き家問題の対策が社会の課題になっていますが、深刻化する背景には、一軒一軒の家庭の事情も複雑にからんでいると実感する今日このごろ。さびしい限りです。
7月20日(土)毎日新聞掲載
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