「今は、その時ではない」。昨年の新語・流行語大賞にノミネートされた映画「侍タイムスリッパー」のラストで、主人公がつぶやいた言葉だ。幕末の「侍」が、現代の京都・太秦にタイムスリップし、斬られ役として活躍する物語で、インディーズ映画ながら異例のロングラン。劇場には若者の姿も多い。
RKBラジオ「昭和復刻ブラザーズ」の特番で安田淳一監督に話を聞いた。時代劇の今後を問うと「ステレオタイプな作風こそ新鮮に映るのでは」という。くしくも正月には「暴れん坊将軍」が復活し、Xトレンド1位と大いに盛り上がった。
近年、Z世代の昭和レトロブームもしかり、懐かしのコンテンツが若者たちの心をつかんでいる。動画配信のネットフリックスでは、名作ホームドラマ「阿修羅のごとく」のリメーク版が配信され話題となり、更に松竹のユーチューブショートで「男はつらいよ」名場面集が累計500万再生を超えたという。「今の時代にはない人のつながりやぬくもり」が新鮮に映るのだそうだ。SNS疲れも相まって、情報過多な世の中や、ドラマの考察ブームに乗らない作品が評価を高めている。
時代劇、人情劇、ホームドラマ。かつて人気を誇った昭和的ジャンルが令和に再び脚光を浴び始めた。そう、「今がその時」なのかもしれない。
1月25日(土)毎日新聞掲載
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