「警察官が問題ないと言った」マルチ会員が残した“夢リスト”残ったのは借金と罪悪感

若者を餌食にするマルチ商法グループ「ERA」のリーダーがついに摘発された。メンバーの多くは20代の若年層。入会するには75万円かかるが「稼いで返せる」から問題ないという。いかにもうさん臭い話をなぜ1万5000人もの被害者は信じたのだろうか。被害者は「広告塔になっていた元警察官が不安感の払拭に一役買っていた」と証言した―。

狙われた若者たち “夢リスト”に綴られた未来図

「証拠品の撮影に行ってくれ」それは、職場からの電話で始まった。警察署の武道場に着くと、大量のポスターやパソコンが目に飛び込んできた。ひと際目を引いたのが「夢リスト」と書かれた赤いファイルだった。

「旅行に行きたい」「お金持ちになりたい」「高級ブランド品をたくさん買いたい」と屈託のないというか、無邪気というべきか、そんな言葉が並ぶ。そして同じ人物の筆跡が延々と続くのだ。何かに憑かれたように100個も用意された欄。夢は隙間なくつづられていた。異様だった。

これらは、巨額マルチ商法事件で押収されたファイルだ。件の「夢」は被害者が記したものだった―。

「正直ひっかからないと思っていた」75万円を借金して加入

摘発されたのは福岡や大阪などを拠点とするマルチ商法グループERA(イーラ)のメンバー。2022年9月から11月にかけて、リーダー格とされる伐渡アーマッド裕樹(36)被告を含め、20人以上が特定商取引法違反(連鎖販売取引における書面の交付違反)などの疑いで検挙された。

警察によるとERAの被害者は全国で1万5000人、被害額は62億円に上る。ネットで「ERA」と検索すると「ERA金を返せ」「ERAにだまされた」などの無数の書き込みがヒットする。

「自分は引っかからないだろうと正直思っていた」と話すのはIT企業で働く20代の会社員Aさんは“だまされた”一人だ。マッチングアプリで出会った女性からERAに入るよう誘われ、2021年8月に入った。

IT企業のAさん「精神的に不安定で、貯金もなくお金が欲しかったんです」

Aさんは“女性”から送られてきたメッセージを見せてくれた。「スマホで稼ぐ」「セレブ」などの甘い文言が並ぶ。そんな言葉に興味をもったAさん自身も説明会に足を運んだ―。面食らったのは「登録料」だ。ERAに入るには75万円もの大金が必要だという。「こんな金額が払えるわけがない」と動揺していると、女性は「みんなお金を借りて登録して、稼いでから返している」と相手にしない。結局、Aさんはその日のうちに消費者金融から借金して75万円を支払った。

元警察官が広告塔?「公務員でもできる仕事です」

ERAのメンバーには福岡県警の元警察官が入っていたこともわかっている。捜査関係者によると、2022年9月に特定商取引法違反の疑いで逮捕された男だそうだ。男は「元警察官」という肩書きを前面に出して、勧誘を繰り返していたとされる。

Aさんは振り返る。「元警察官が問題ないと言ってたからこのERAに入ったという人もいましたね」組織の“箔付け”効果は絶大だったようだ。元警察官と一緒に説明会を開いていた人物は証言する。

「元警察官ということや副業禁止の公務員もできる仕事だと説明会の度にうたっていました。皆さん警察官や公務員がやっても特に問題がないという話を聞いて安心していたようですよ」

この人物は、組織が20代の若者に絞って勧誘していたことも明かした。

「独身や彼氏、彼女がいない20代をターゲットにしています。説明会を聞いて独身でなかったら、誰かに相談して、加入しない可能性があるからです。新社会人や新しい環境に慣れず仕事に不安や不満をもつ若い人は、始めやすいといった指導もあった」

「こう聞かれたらこう答える」高度にシステム化された問答集

Aさんは75万円を支払い会員になると、様々な“講師”から「勧誘方法」の手ほどきを受けた。「こう聞かれたらこう答える」といった想定問答集が整備されていたのはもちろん、勧誘する人の代わりに「受け答え」を考える人もいたと証言した。

「本当に自分がいいと思ったことであれば、マニュアルや他人の言葉を使わずに勧誘できるはずだ」と考えるAさん。しかし実態は上意下達で高度にシステム化されていた。

「洗脳され、正しい活動だと信じ込まされているのではないか」と感じた。自分が勧誘する番になったらと考えると、友人の顔が浮かんだ。働きだしたばかりの人もいれば、奨学金で大学院に通う人もいる。

彼らに“マニュアル”のうたい文句を投げかけ、75万円払って入会するよう 勧められるだろうか?Aさんは、うしろめたい気持ちになり、徐々に活動から離れるようになった。入会から3か月後、“マルチ商法”から手を引いた。

75万円の登録料を返金するよう求めたものの、ERAの言う返金期間が過ぎていたため金は戻ってこなかった。泣き寝入りだ。「友人の忠告を振り払って加入したことを後悔しています」と肩を落とした。

マルチ商法に手を出す者は、ほとんどの場合、加害者と被害者の両方の側面を持ち合わせることになる。ターゲットにされERAに入った多くの若者たちは、手元に借金が残り、罪悪感に苛まれているはずだ。かつて自分がつづった「夢リスト」を見て、何を思うのだろうか―。

※映像はRKB毎日放送で11月1日に放送した企画ニュースです。

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