主婦が起業!「知識なくてもAI活用で」福岡から全国に展開へ 社会インフラの老朽化チェックを効率化
橋やトンネルなどの多くは高度経済成長期に整備されました。10年後には、橋や河川の管理施設の6割以上が、建設から50年以上経過することに…。インフラの維持に欠かせない定期的な点検を効率的に進めるシステムが、福岡市の企業によって開発されました。
きっかけはシングルマザーの「仕事が少ない…」という相談
福岡市博多区に本社を置く「オングリットホールディングス」。主に橋梁などの点検業務と点検に使うシステムや装置の開発を手がけています。森川春菜社長は、5年前にこの会社を立ち上げました。きっかけは、専業主婦だった時にシングルマザーの友人から「子育てしながら働ける仕事が少ない」と相談を受けたことでした。
森川春菜社長「当時夫がゼネコンに勤めておりまして、建設業界は長時間労働だったり、残業で補っているところがすごくあって、猫の手も借りたいという状況だったんですけど、『土木の勉強をされていない方はなかなか働けない業界なんだよ』みたいな話を聞いて、なら『未経験者が使えるツールがあれば、お互いの抱える課題をマッチングできるんじゃないか』という思いから、起業しました」
進む「社会インフラ」の老朽化…点検には手間ひま
RKB小畠健太「福岡市博多区の小さな水路に架かる橋です。コンクリートをたたいて、劣化がないかどうかの点検が行われています」
インフラを維持するには定期的な点検が欠かせません。
オングリットホールディングス研究開発事業部 福嶋隆之部長代理「鉄筋部分からコンクリートが浮いてきているので、今後はがれて落ちてくるのを事前に確認をするための点検です」
金づちの「音」でコンクリートに“浮き”がないか調べるほか、ひび割れの幅や長さを測ってチョークで書き込んでいきます。この日点検していたのは、幅2メートルほどの小さな橋ですが、それでも点検には半日ほどかかるといいます。
オングリットホールディングス 福嶋隆之さん「ひび割れの幅を確認して、長さがどれくらいなのか測って、一本一本していかないといけない。横も、外側も、上も全部です」
業務はこれだけでは終わりません。現場で撮影した写真を持ち帰り、点検した人が自らパソコンのソフトで報告用の図面を作成するため、業務が深夜まで及ぶことも少なくないといいます。
AIを活用した画期的なシステム
この問題を解決するため、オングリットホールディングスが開発したのが、「マルッと図面化」というシステムです。現場で撮影した写真をAIがつなぎ合わせ、さらに、画像からひび割れなどの損傷やチョークを読み取って自動で図面を作成してくれます。システムを導入したことで業務にかかる時間はこれまでの8分の1まで短縮されたといいます。
オングリットホールディングス 福嶋隆之さん「現場に行った後に図面を書かないといけなかったら、丸一日何もできないと思うんですけど、現場に行き、午後5時に帰ってきて、(自宅に)帰ることができるようになる」
「人の目」で確認する作業 障がい者施設に委託
ただ、2割ほどはAIでは判別できないものもあるため、人の目による確認が必要となります。こうした業務は、現在、障がい者就労支援施設に委託しています。
ホップ・ステップ・カムラック! 本村春征さん「ピンク色で書かれているところは、画面にチョークを書かれているところですね。そんなに難しくはないです」
人手が足りず困っていた技術者の業務から、誰でも分かる形にして作業を切り出し、さらに就職弱者と呼ばれる人たちの雇用も生み出しているのです。
ホップ・ステップ・カムラック!管理者 堀内規生さん「可能性はまだまだ広がっいくかな、と我々も考えていますし、携わる通所者もやりがいがあると思うので、非常にマッチしていて良いのかなと思っています」
オングリットホールディングス 森川春奈社長「就職弱者と呼ばれる方にお仕事を提供したいという思いが、元々起業の時からあって。特に、やっていることがインフラの関係だと分かりやすく、やりがいを感じていただきやすい。親御さんからお手紙をもらったりすると、本当にうれしい気持ちになりますね」
全国各地で「地域課題解決」「地域雇用」目指す
オングリットホールディングスは、街路灯を点検するロボットも独自に開発し、国土交通省の認証を受けようとしています。今後も、「現場での点検を効率化しながら新たな雇用を生み出していきたい」と森川社長は話します。
オングリットホールディングス 森川春奈社長「日本各地に拠点を出店していって、『地域の課題を解決しながら、地域での雇用を生んでいく』のを、今後進めていきたい」