父が亡くなってから、この春で2年がたつ。ちょうど満開の桜が散り始めた時期だった。父の死後、心にぽっかりと穴が開いた。これが喪失感というものかと受け止めながらも、時間がたてば穴は埋まるものと何となく思っていた。しかし、2年たっても埋まらない。別にいつまでも感傷に浸っているわけではないのだが、大きな穴は今も開いたままの状態だ。
人は悲しいこと、辛いことなどを経験するたびに、大小さまざまな穴が心に開いていくのかもしれない。そして心は、トムとジェリーに出てくるチーズみたいに、いくつも穴が開いた状態のまま、時の経過と共に熟成していくのだろう。あのチーズの穴は、チーズアイと呼ぶそうだ。その穴を受け入れられるようになった時が、心が熟成した時なのかもしれない。だからその穴は、無理に埋めるものではなく、開いたままでいいのだと思えるようになり、少し気が楽になった。
心の穴は、自分だけが開いているわけではない。心の穴と折り合いをつけ、日常を過ごしている人がたくさんいるはずだ。中には平気そうに見えるけど、心の穴を受け入れられずに苦しんでいる人もいるかもしれない。そういう心の変化に気づける自分でありたいし、心の変化に寄り添える放送を心掛けたい。そんなことを考える桜の季節。
3月30日(土)毎日新聞掲載
この記事はいかがでしたか?
リアクションで支援しよう