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“5年で300万円”報酬を支払って得た「自由の制限」 利用した夫婦が語る「成年後見制度」

高齢者や知的障害など判断能力に不安がある人の代わりに裁判所から選任を受けた人が契約や財産管理を行う「成年後見制度」の特集です。 弱者を守るための「成年後見制度」ですが、「利用を始めると原則やめられない」、「利用者本人のためにお金を使うことができない」など問題点が多く挙げられています。

「成年後見制度」の利用で不自由な生活に


阿南貞子さん「お父さんこれわかる?よう頑張ったねお父さん。後見外れたよ。後見外れた。旅行行けるよ。ケーキ食べていいってよ。頑張ったね。お母さんも頑張った。お母さんよしよしは?」


病床の夫に語りかけるのは、大分市に住む阿南貞子さんです。

夫の浩直さんは、今年2月までのおよそ9年間、「成年後見制度」を利用していました。

阿南貞子さん「喜んでました。孫が一生懸命『じいじよかったね。温泉行けるよ。頑張ってよくして一緒に行こうねって』それからですよ、みるみる上向きになってきて」


高齢者や知的障害など判断能力に不安がある人の代わりに裁判所から選任を受けた人が契約や財産管理を行う「成年後見制度」。

阿南さん夫婦は、弱者を守るための「成年後見制度」を利用したことにより、不自由な生活を強いられることになってしまったのです。

13年前に「成年後見制度」利用 「財産管理」は司法書士と弁護士が選任

 

阿南貞子さん「きょう何食べたい?」
阿南浩直さん「ぎょうざ」
阿南貞子さん「ぎょうざ食べたいと。そうね」


浩直さんが仕事中に脳梗塞で倒れたのは、13年前です。

労災に関する裁判を起こす関係で成年後見制度を利用することになりました。

後見人の役割は、利用者の財産を管理する「財産管理」と生活や療養を支える「身上監護」です。

「財産管理」の後見人には、司法書士や弁護士がつくことが多く、家庭裁判所は、浩直さんの「財産管理」の後見人に司法書士を「身上監護」の後見人に貞子さんを選任しました。

貞子さんは、「財産管理」の後見人から必要以上に切り詰めた生活を求められたといいます。

阿南貞子さん「この人が甘いもの好きだからケーキ買って、レシートを後見人に渡すと、『こんないらないもの買わないでください』って。甘いものが一番おいしいって味覚がわかるから、本人食べたがるから。後見人は『そんなん言ったら無視してください』って」


「成年後見制度」は、一度利用すると原則やめることができません。

浩直さんを温泉に連れて行こうとした際にはこう言われました。

阿南貞子さん「『温泉に行ったからって病気は治るんですかって。治るって言うなら医者から証明書もらって提出してください』って」


浩直さんの「財産管理」後見人は、3年ほどで辞任。

2人目の後見人として弁護士が選任されました。

2人の後見人は、一度も浩直さんに会いに来ません。

「身上監護」の後見人、貞子さんは、財産管理の状況や後見人が、浩直さんから受け取る報酬の額も知ることができませんでした。

阿南貞子さん「後見人は寄り添ってくれない。いまだに一度も会いに来てくれませんよ。赤の他人様がどんどん報酬をもっていって。誰が一番喜んでる?この制度。こんな理不尽はないと思う。正直言って後見制度って何?って」

阿南さん夫婦に大きな転機 後見人が外れる


2か月前、阿南さん夫婦は、大きな転機を迎えていました。

阿南貞子さん「おかげさまで後見人が外れました。裁判所から書類が届いたのがこれです」


原則、利用をやめることができない「成年後見制度」ですが、障害や症状が回復したと医師に診断され家庭裁判所が取り消しを認めると利用をやめることができます。阿南さん夫婦は、去年の夏ごろから取り消しの手続きを進めていました。

阿南貞子さん「申請は昨年の6月30日に後見を外したいという診断書を医者から取って裁判所に出しました」


浩直さんは、ケーキなどの好物を食べたり温泉旅行に行ったりすることが可能となりました。

しかし、体調を崩し、入院することになったため温泉旅行は、実現していません。

貞子さんは、複雑な思いを抱えています。

阿南貞子さん「正直なところ(後見人が)外れてうれしいんですけど、申請をした日にちから外れるまで掛かりすぎ。12月とても元気だった。(12月に外れていたら?)それはすぐ温泉に行きましたよ。孫と行くことをすごく喜んで楽しみにしていて」


貞子さんが、情報公開制度を使って浩直さんから後見人に支払われた報酬を調べたところその額は、5年分で300万円近くに上っていました。

阿南貞子さん「年間70万円の報酬をもらうとするでしょ。10年間後見人がついたら700万円ですよ。なんで赤の他人に十年間そんなお金を払わなきゃいけないんですか」

成年後見制度問題の専門家「会えば、後見じゃないと気付いたと思う」

一般社団法人「後見の杜」宮内康二代表「司法書士と弁護士は専門家になってるんだから、阿南さんと会えば、後見じゃないんじゃないって気付いたことあると思う。気付いて診断書を取って、裁判所に出せばもっと早く取り消したと思う」

「成年後見制度」国も見直し開始 2026年度までに関連法の改正目指す 


問題点が指摘されている「後見制度」については、国も見直しに向けて動き始めています。

今年2月、法制審議会は、後見の必要がなくなれば利用をやめられるようにすることや、後見人の交代を可能にすること、後見人への報酬のあり方について専門家に意見を仰ぐことを決めました。

ここでの議論を踏まえ、国は、2026年度までに民法などの関連法を改正することを目指しています。

 

成年後見制度に詳しい学習院大学法学部・山下純司教授「法制審議会の今回の見直しのポイントはいくつかあるが、重要なものとしては、本人の自己決定を尊重する観点から過剰な本人保護をやめ、本人の判断能力が不十分であっても、必要のない場合には後見を開始しない、必要がなくなったら後見を終了するなど、本人単独で取引する能力(行為能力)への制約を必要最小限に抑えることが目指されている」
「専門職の後見人は、訴訟をするなど必要な場合に限ってお願いし、日常的な財産管理などはボランティアによる市民後見人にまかせるか、あるいは後見をやめて日常生活自立支援事業の利用によることができれば、経済的負担が軽くなる。このような柔軟な制度利用の可能性も今回の審議会で話し合われるのではないかと思う」
「後見の利用を必要最小限にするという改革の方向性を実現するには、専門職の後見人に頼らずに、本人の財産管理を適切におこなえる仕組みが必要。市民後見人の育成や、日常生活自立支援事業の拡大を地方行政が後押ししていく必要がある」

阿南さん夫婦 報酬を支払って得たものは“自由の制限”


「成年後見制度」の利用をやめることができた浩直さん。

退院して温泉旅行に行くことを目標にして生活しています。

阿南さん夫婦にとって「成年後見制度」は、お金を支払って自由の制限を受けるという信じられないような苦難の制度でした。
 

 

阿南貞子さん「家族がこれだけしっかりついてて、フォローしてるのに、なんで
後見人つけなきゃいけないんだろう。利用する方には一切メリットがない。ただ苦しめられた9年間でしたね」

 

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