西中洲に「串揚げ たつかわ」が現れたのは、今から9年前のこと。それから数回訪れましたが、そのたびに僕はこんな感嘆を漏らすのです──選りすぐりの食材と精妙な仕込み、そして技術があれば、串揚げはここまで優れた日本料理になるのだと。
創意に満ちたコースで美食家たちを唸らせ、福岡グルメに独自の地位を築いた「たつかわ」。その進化ぶりを見たくなり、西中洲のビル2階に続く階段をのぼりました。
店内はアッパーな割烹店を思わせる上質な雰囲気。そしてこの夜も、カウンターの向こうに店主・川田悠貴さんの姿がありました。最初はビジネス的な好奇心で串揚げを始めたものの、大阪の名店で修業するうちに、その奥深い世界にハマってしまったという職人です。
やがて精進する中で掲げた目標は、「懐石料理を串揚げで表現する」こと。単に素材を揚げるだけでなく、和食の品と格を持ち込まんと川田さんは努力を重ねているそうです。
「串揚げって、まだまだ皆さんの食事の選択肢に入りづらいですよね。だから僕の仕事が、少しでも串揚げのイメージアップやメジャー化の一助に繋がればと願ってます」
そんな大志を秘めた「季節のおまかせコース」(7,800円~)は約15品構成。串揚げは13品ありますが、最初に先付け、途中に口直しを挟んで進行します。
旬が香り立つこのお椀は本日の先付けで、具には釜揚げしらす、アオサノリ、筍のかき揚げを使用。出汁は鰹のえぐみまでしっかり取り、揚げ物に負けない強い旨味が抽出されていました。
こうして胃が温もったら、続いて13本の美味なるパレードの始まりです。この車海老とうずらの半熟卵、それに黒毛和牛の串は冒頭を飾る不動の3トップ。刺身でも食べられる活き車海老は、適切な水分と旨味を保持したままプリッと揚がり、そのうまさに早くも鼓動が高鳴ります。
噛んだ瞬間、黄身がトロリと舌にこぼれる卵も完璧な半熟ぶり。川田さんが定番に据えたのも納得の絶品串です。
同様に、揚げることでさらに旨味を増した黒毛和牛は九州産。しっとり&もっちりの歯応えは、なんとも独特の中毒性に満ちています。
楽しみだった創作系の串には、まずこちらが登場。梅肉で味付けしたとろろソースを敷き、その上にカダイフを巻いて揚げた真鯛が乗っています。見た目も個性的ですが、繊細かつ軽やかな歯触りと、和洋のエッセンスが自然に絡み合う風味には破顔するしかありません。
川田さんの自在な発想が生む創作串の中でも、一番人気を誇るのがこのジャガバター。トリュフと白トリュフ塩をバターに練り込み、じゃがいもに包んで揚げた定番です。頬張った途端、鼻腔に抜けるバターの香りの陶酔ときたら……。これは本当に忘れ難い1本でした。
「油がきつい」という経験や先入観から、世の中には串揚げを敬遠しがちな人も多いと思います。が、川田さんの串揚げに胃もたれは無縁。幅広い年代の老若男女が「たつかわ」を支持する理由の一つも、実はそこにあります。
衣は天ぷらと同じく小麦粉だけで、卵、牛乳、砂糖は使いません。しかもこの小麦粉は直径1mmの微小な特製粉。これをまぶして210℃という高温の菜種油で揚げると、非常に軽やかな仕上がりになるそうです。
もちろん旬の厳選食材に、丹念な仕込みを施す不断の努力も不可欠ですし、季節の野菜ソースやチーズソースを添えるなど、最後まで飽きさせない工夫も盛りだくさん。こうした精緻な舞台裏を知るほど、「懐石料理としての串揚げ」を目指す川田さんの一途な情熱に僕は心打たれるのです。
コースの終盤も「らしさ」に満ちています。シメの飯物で出されたのは、なんと串揚げ入りのお茶漬け。さらに名物デザートのサツマイモが供されて、感無量のコースは完結です。なかでも客が入店してから時間をかけてじっくり揚げる、このサツマイモは一食の価値ありですよ。
今回の訪問でも、串揚げの可能性や魅力を高らかに歌う品々を満喫できました。川田さんにそう伝えると、「油でできることは何でもやる揚げ物料理店、みたいな気持ちでやっていきますよ」と笑顔を返してくれました。串揚げの世界に価値ある一石を投じ続ける職人が、新鮮な串揚げ体験を楽しませる「たつかわ」。これからの活躍にも期待大です!
この記事は積水ハウス グランドメゾンの提供でお届けしました。
ジャンル:串揚げ
住所:福岡市中央区西中洲2-14第2フジクラビル2F
電話番号:092-751-0610 予約制
営業時間:18:00~OS21:00
定休日:日曜、その他不定
席数:カウンター9席
個室:なし
メニュー:季節のおまかせコース7,800円
URL:https://www.instagram.com/kushiage_tatsukawa/
この記事はいかがでしたか?
リアクションで支援しよう