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”上野万太郎の「この人がいるからここに行く」”オシャレ過ぎる文房具店を営む高山啓太さん。4つの“逃げ”から広がった新しい世界。

文房具店「PLASE.STORE」(プレイズストア)

福岡市南区大楠に文房具店なのか雑貨屋なのかひときわ異彩を放つ個人経営の店がある。
「PLASE.STORE」(プレイズストア)だ。

オーナーは今年40歳になる高山啓太さん。
9年前に知り合い、日頃からお店に通っているのだが、この個性的なお店を訪れるたびに、一体なにが今の彼を造り上げこの先どこを目指しているのかずっと不思議に思っていたので、今回「muto」で取材させてもらうことにした。

「スターバックスコーヒー」で待ち合わせて取材開始

日曜日の朝9時、高山さんと待ち合わせしたのは「スターバックスコーヒーパセオ野間大池店」。彼が出勤前によく仕事をしている場所だ。待ち合わせ時間前に着いたので「ちょっと早いけど到着しました」と連絡すると「もう中にいます」と返事。店内に入ると高山さんは、中央の大きなテーブルにノートを広げて何かしらペンで書きこんでいる。高山さんが出勤前にスタバでノートを広げて何かを書いているという話は数年前に本人からも聞いていた。

「PLASE.STORE」(プレイズストア) 高山啓太さん

「出勤前にノートにアイデアなどを書き出すんですよ。言うなれば、このノートに自分の頭の中を吐き出すというか、そんな感じですね。だから、出来るだけノートは大きなものを使っています。小さいノートだと発想も小さくなると思うんで」。

「後で見返すと毎日同じようなことを書いていたりもするのですが、それでも良いんです。ブレない自分を再確認することにもなるし、リフレッシュにもなっていますから」。

とにかく彼はノートが好きなのだ。そしてそのノートを使うことの楽しさとメリットを身をもって証明したいという気持ちもあるらしい。

「PLASE.STORE」(プレイズストア) 「PLASE.STORE」(プレイズストア) 写真:店舗より提供

「PLASE.STORE」は“逃げ”から生まれた

高山さんがセレクトする魅力的な商品群が人気を呼び、今では福岡でも注目の文房具店となった「PLASE.STORE」だが、誕生の経緯はどういうものだったのか。「大きな目標を実現したというより僕の“逃げ”から生まれたたまたまの結果なんですよ」と高山さんはいう。

高山さんは1983年に南区大楠に生まれ、その後すぐに飯塚市(旧筑穂町)に転居し少年期を過ごした。小さい頃からモノを作ることやデザインが好きだったそうだ。

大学卒業後、家具店、写真スタジオなどでの勤務を経て、岩田屋にある家具や雑貨の店「ザ・コンランショップ福岡店」に就職し、商品ディスプレイや空間演出を担当した。そこで学んだディスプレイのノウハウは当然ながら今にも生かされている。
写真スタジオ時代の同僚から言われたことがいまでも記憶に強く残っているそうだ。「高山さんはモノを作るより、モノを紹介することの方が似合っているし得意のような気がします」という一言。小さい頃からモノを作ることに憧れていたが、この一言で何か吹っ切れたような気がして商品の展示や販売にハマっていったそうだ。

しかし、その後人間関係に悩むことがあり、「コンランショップ」を退職することになる。それを機に「こうなったら自分のお店を開こう」と突然の開業を決意する。これが最初の“逃げ”である。

1つ目の“逃げ”によって桜坂のマンションに開業した「PLASE.STORE」

最初のお店は、中央区桜坂にあるオートロック付きマンションの4階。以前働いていた写真スタジオの先輩と共同で借りていた一室にした。自分でもなんでこんな場所に?と思わないこともなかったそうだが、「突然の開業だったので店じゃないけど場所はあるし、とりあえずここでやってみるか」といった感じだったそうだ。
商品は、雑貨や文房具など、自身がセレクトした商品。開業前に2週間、スウェーデン、オランダ、イギリスに買付けにいった。何のコネもツテもないので現地の蚤の市などを回って気に入ったものを仕入れてきたという。

当時、世の中で流行りだしてきていたtwitterやブログを使ってお店の宣伝を開始したが、そこはオートロック付きのマンションの4階、そう簡単にお客さんが来ることはなく、友達や知り合いがやってくるのが関の山。そのため、最初の数カ月は営業時間外にアルバイトしながらの営業だったそうだ。そんな感じでスタートしたので、「何屋さん?」と聞かれたら、文房具店ではなく自分がお気に入りのモノを売っている雑貨屋だったかもしれないと高山さんは当時を振り返る。

そんなある日、「シティ情報ふくおか」のライターだった古後さんがブログを見て取材に来てくれたそうだ。その時の記事に『文房具専門店』として紹介された。それを見た高山さんは違和感があったのでいつもなら訂正するところなのに、「あ、うちは文房具屋なんだ。まあそれも良いか」と思い受け入れたらしい。そのこともひとつのきっかけになり、商品群も、より文房具寄りなモノにシフトしていったそうだ。「文房具に特化していったきっかけは明らかに古後さんの記事でしたね。今思えば有難かったです」と語る。

それでも場所の不利はどうしてもぬぐうことは出来ず売上をのばすことが難しく、早々に移転を決意。「路面一階の店舗に移りたいんだけど」と物件をシェアしていた写真スタジオ店主に相談。城南区鳥飼に見つけた店舗へ写真スタジオと一緒に移転となった。

「これが2つ目の“逃げ”ですね」と高山さん。桜阪で開業して1年しか経っていない時だった。

2つ目の“逃げ”で鳥飼店へ

2012年2月「PLASE.STORE」鳥飼店オープン。
高山さんが28歳の時だった。言うなればこれが本格的な開業だったのかもしれない。国道から一筋裏の住宅街へ入った商店街の店舗。住人も多く、買い物お客や通勤通学人たちが行き交う通り沿い。以前に比べたら来店客は比較にならないほど増え、業績は好調に転じた。

「PLASE.STORE」(プレイズストア)

再スタートした「PLASE.STORE」。文房具や雑貨の店である。

喫茶店や飲食店ではあるまいし、毎日来てもそうそうに買うモノはないのが当たり前。それなのにオシャレな空間と高山さんの雰囲気もあってか、常連客で賑わう文房具屋さんとなっていった。しかし、賑わってもそれに比例して売上が増えるわけではない。買い物をしないお客さんの相手をするのが高山さんの仕事になってきた。もちろん、そう言いながらも売上には貢献してくれる常連客ではあるのだが、そもそも接客が得意とは自覚していない高山さん。新たな考えが生まれてきた。「ちょっと環境を変えたお店もやってみたい」と。

3つ目の“逃げ”である。

3つ目の“逃げ”で大楠店開店

そんな時、近所から南区大楠に移転した「うーぱんベーカリー」の店主さんから「うちが入居したビルの隣が空いてるよ」との連絡があった。高山さんはすぐに物件を見に行った。

最初に書いたが高山さんは大楠生まれなのだ。実は鳥飼店を出店する前にも生まれた大楠での物件を探していたらしいのだ。「これは、何かの縁だ」とすぐに契約することに。鳥飼店を出店して2年後のこと。鳥飼店はそのまま残し大楠店は2号店として出店した。

店舗開設資金については高山さんの奥様の協力があった。
「今思えばあの時は何を血迷ったんだろう。あのお金があれば新しいマンション購入の頭金に出来たのに・・・」と奥様から今でも言われるネタだ。

そうやって現在まで続く「PLASE.STORE」はスタートとしたのだ。

「PLASE.STORE」(プレイズストア)

大楠店では文房具、雑貨に加えて、喫茶営業の許可もとってコーヒーの販売もはじめた。常連客からすれば、「コーヒーを注文すれば毎日来ることができる。そしていくらかの売上にも貢献できる」と嬉しい限りである。

「PLASE.STORE」(プレイズストア) 「PLASE.STORE」(プレイズストア)

取扱商品は、高山さんのメガネにかなうとにかく見た目がワクワクするモノであること。機能性がどんなに良くてもデザインがワクワクしないものには興味がないそうだ。そこが一般の文房具店とは違うところかもしれない。よって、取り扱うメーカーはドイツ、アメリカ、イタリア、フランスや北欧諸国のものが多い。僕も文房具や雑貨が好きなので、色や形などデザインがカワイイと思うと、不謹慎な言い方かもしれないが、不要なモノでも買ってしまうことがある。


「PLASE.STORE」(プレイズストア) 「PLASE.STORE」(プレイズストア)

「使う、使わないも含めて、ワクワク出来るモノに囲まれて生活するってとても幸せなことだと思うんですよね。そんな共感を出来る人に少しでも僕が選んだ商品を届けて幸せになってもらえたら嬉しいですね。言いすぎかもしれないけど、逆にこれを使わずして生活することは人生を少し損していますよと思うくらいです(笑)」高山さんのワクワク商品への思い入れは相当に強い。

オンラインショップへの取り組み

5年程前より世の中、オンラインショップが盛んになってきていたが、高山さんはあえてそれには飛びつかなかった。というのも、自分がセレクトした商品が好きすぎて、「見て触ってみないとこのワクワクするような良さは伝わらない!!」と考えていたからだ。今思えばどれだけ頑固だったんだ、と本人が思うくらいだったそうだ。

それでもブログを見た人から通販で購入したいという電話問い合わせが増えてきたので、最初は電話受付で1日10件だけの限定で通販に応じていたらしい。確かに通販対応は受注・梱包・発送など業務負担も増えるものだ。簡単に請けるのも通常業務に支障がある。そういう意味でも1日10件限定というルールを作っていたのだろう。

しかしその後も電話による通販が好調になったので、次はインスタグラムで商品紹介を毎日1投稿して、そこでまた1日10件のみの注文を受け付けた。ただ、この場に及んでもインスタグラムのメッセージではなくあくまでも受付は電話のみ。商品の説明を電話口で行い、納得したお客さんにだけ販売するというこだわりようだった。どれだけの頑固者だったのかと高山さんの商品への思い入れが伺えるエピソードだ。

そうは言ったものの、電話通販を継続するうちに、お客様の満足度アップにつなげるにはオンラインショップ開設は必要なことだと納得しはじめたそうで、COVID-19のちょっと前にネットショップを正式に開設することになった。それにより遠方のお客様に喜ばれることも多くなった。

「PLASE.STORE」(プレイズストア) 「PLASE.STORE」(プレイズストア) 写真:店舗より提供

そもそも接客業務が得意なわけではないのに、対面販売の商品説明にこだわりが強すぎたと高山さんは反省する。コンランショップや写真スタジオでの経験を生かしたディスプレイや写真撮影が得意だったのだから、最初からオンラインショップという形態にまさにピッタリの能力と適正を備えていたのだ。高山さんがそのことに自身で気づいたのは最近のことだったようだ。

その結果、雑誌「ブルータス」にて「信頼できるオンラインショップカタログ。」という特集に取り上げられるなど、オンラインショップの効果が出てきたようで、現在は来店客の半分くらいが福岡県外のお客さん。COVID-19前にオンラインショップを開いたのも今考えると良いタイミングだった。オンラインショップから入ってきたお客さまが店舗にも足を運んでくれるようになったのだ。

COVID-19後の開き直り

「COVID-19の影響もあり、商売のやり方も自分の考え方もリスタートできました。お客様に合わせる商品を揃えるという考え方から、僕が気に入った商品だけを発信し、そこにアンテナを張って共感していただける方がお客様になってくれる、それで良いんだという開き直りが出来ました。もっともっと自分というものを全面に出して商品を選んでいこうと思うようになりました。文房具屋でも雑貨屋でもなく、『僕屋』で良いんじゃないかと思えるようになったんです」。

鳥飼店は2022年5月に入居していた建物の取り壊しのため退去を迫られ、現在は大楠店が「PLASE.STORE」本店となっている。「鳥飼店を閉めたのは残念ですが、逆にそれも今思えば、スタッフに任せていた仕事も自分ですべて対応できているという良い点もあります。やはりお客様は僕が選んだ商品を僕から買いたいと思ってくれているところも強いですからね。まさに『僕屋』として個性をだせる店になったのかもしれません」と高山さんは語る。

「PLASE.STORE」(プレイズストア)

今後の計画

「いくつもの困難から逃げてきた結果、今自分の店で自分が好きなモノをだけ販売していけているのですから、どの逃げにも無駄はなかったと思います」と高山さん。

今後具体的な計画はありますか?と聞いてみた。「先ほどとは逆の話になりますが、僕の代わりに店を任せられる子が、ひとりいるんですよね~。昔うちでバイトしていた人で僕と商品や接客などの感覚がとても似ている子なんです。その子なら僕が店頭にいなくて『僕屋』が維持できそうなんですよね。その子が入ってくれたら、僕はここを離れてちょっとやってみたいことがあるんですよ」と。
「え~?また店を作るってことですか?」と返すと、「それはまだ公表できませんが、それが4つ目の“逃げ”になるかもしれませんね」とニヤニヤと楽しそうな高山さん。

その“逃げ”が吉となるか凶となるかとても楽しみだが、どちらにしてもそれが新しい「PLASE.STORE」となることは間違いないだろう。「高山啓太が逃げる先には新しい道が開ける」。そんな予感がする。

ある意味、逃げることは攻めることなのかもしれない。そう考えると、人生逃げることもそんなに悪くないと思えてくる。

INFORMATION

店名: PLASE.STORE(プレイズストア)
住所: 福岡市南区大楠3-7-16
TEL: 092-753-8275
店休: 日・水曜
時間: 12:00~17:00
席数: 3席(お一人様でのご利用のみ)
業務内容: 雑貨・文房具・ノートの販売、喫茶店営業(ドリップコーヒー)
WEB: PLASE.STORE
オンラインショップ: オンラインショップ
instagram: instagram

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この記事を書いたひと

muto(ミュート)

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