数ある江戸前寿司の店の中でも、昭和の時代に「銀座御三家」と称されたうちの一軒が「銀座 久兵衛」。稀代の食通・北大路魯山人や作家の志賀直哉が贔屓にし、ウニやイクラの軍艦巻きを考案した名店として知られています。
その屋号から一文字を譲り受けて暖簾を受け継いだ店が、薬院にある「久太郎」。そう聞くとさぞかし敷居の高い店かと思われそうですが決してそんなことはなく、気さくな雰囲気の寿司屋です。
大将の福間邦浩さんは下関の出身で、高校を卒業した18歳の時「銀座 久兵衛」に弟子入り。江戸前寿司のレジェンドの一人である初代・今田壽治氏から直接薫陶を受け、「ホテルオークラ・アムステルダム」の日本食レストラン「山里」でも腕を振るった生粋の寿司職人です。1998年に郷里に近い福岡で独立開業し、王道の江戸前寿司が食べられる店として四半世紀にわたって営業を続けています。
カウンターに座り、つけ場に立つ大将と対面。かなり久しぶりの訪問だったにも関わらず、憶えてくださっていたのに感激しました。御年74歳になるといいますが、鯔背な風情に矍鑠とした佇まいは、以前とまったく変わりません。
つまみやにぎりはお好みでも注文できますが、今回は10,000円のコースをお願いしました。内容は刺身の盛り合わせに2~3品の小鉢、にぎりが10貫ほどの構成です。
にぎりを出す順番は店によって異なり、店主の考え方や個性が表れます。「"寿司"はもともと上方のすしに当てた字で、魚へんに旨いと書くのが江戸前です」と、この店ではまず大トロから出てくるのが流儀です。ノルウェー産というマグロは脂ののりもよく、のっけからガツンとインパクトのある一貫。続くマダイは柔らかな歯ごたえにしっかり旨味があり、味の濃淡による対比が味わえました。
中盤に出てくる光りものは旬のサヨリと、江戸前寿司に欠かせないコハダ。ホロリとほどけるような絶妙な加減で握られたシャリには「砂糖を使わないのが江戸前です」と、白酢と塩だけの味付けです。最近では赤酢を使う店も多い中、「あれは醸造技術が発達していなかった時代のもの」と、あくまでも銀座で修業した流儀を貫いています。白シャリと強めの酢で締められたコハダにキリッと辛口の煮切り醤油が塗られたにぎりは、これぞ江戸前の味です。
これまた江戸前寿司に欠かせないコリコリとした食感の赤貝の後、最後に登場するのが真打ちの穴子。あっさりと煮た後白焼きにした穴子は、煮汁を煮詰めたツメと塩の2種類の味付けで出てきます。最初から最後まで決してブレることのない、王道の江戸前にぎりを堪能することができました。
にぎりの後は、かんぴょう巻きで口直しするのもお約束。多少の名残惜しさ感じつつも、サクッと切り上げるのが江戸前に倣った客のたしなみというもの。この道50年以上になる福間さんの"鮨"を食べに再訪すること誓い、店を後にしました。
ジャンル:寿司
住所:福岡市中央区薬院1-14-18 信興ビル1F
電話番号:092-741-3999
営業時間:18:00~22:00
定休日:日曜
席数:カウンター7席、小上がり8席
個室:4~8名
メニュー:おまかせコース8,000円、10,000円
URL:https://kyuutarou.com
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