「子供たちの“サードプレイス”に」福岡県筑後市に民間図書館開設
目次
学校に行きづらい子供たちの居場所を作ろうと、民間図書館「みんとしょかたる」が福岡県筑後市に今年4月オープンした。家でも学校でもない「サードプレイス」をめざす取り組みだ。6月11日のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』でRKB毎日放送の神戸金史解説委員長が紹介した。
民間民設図書館の「みんとしょかたる」
病院の一角や、お寺、カフェなどを活用し、子供たちや高齢者の居場所となる「民間図書館」が広がっています。全国の民間図書館が登録されている「まちライブラリー」というサイトで検索すると、福岡県内には22の民間図書館がありました。意外と多い印象です。
https://machi-library.org/?where
福岡県筑後市に開設2か月の「みんとしょかたる」を一昨日(9日)訪ねてみました。場所はJR鹿児島線・羽犬塚駅のすぐ前です。
「みんとしょかたる」
住所:福岡県筑後市山ノ井138-23 MEIJIKAN1階
運営:一般社団法人 KATARU
電話:050-3000-5530
連絡先:info@mintosyokataru.org
「ひと箱本棚オーナー」に支えられ
館長の「ウッシー」こと牛島道太さん(48歳)が案内してくれました。
神戸:駅前のいい場所にあるんですね。
牛島道太さん:そうですね。いろんな子供たち、いろんな方が来られるように。
神戸:ホテルの1階にドアを開けて入ると、本屋さんみたいな。
牛島さん:オーナーの厚意でお借りして、ここを民設民営の図書館に。普段の日中は、子供さんが来てくれています。
神戸:民設、民営…。駅前の民間図書館ということですか。
牛島さん:本棚ひと箱ごとにオーナーさんがいらっしゃいます。本棚を借りていただいて、オーナーさんお薦めの本だったり、物品だったりを置いて、家賃みたいな形で運営させていただいています。例えばこちらは、地域の企業さまが借りている棚。すごく本好きの社員さんがいらっしゃるみたいで、おすすめの本として『星の王子さま』やエッシャーの本が置かれています。
神戸:エッシャーというと、だまし絵作家ですね。それぞれ本棚を借りている人たちが、お好きな本を並べて、子供たちに提供する。
牛島さん:図書館という形で、本を借りることもできるので、ここで読むこともできます。
神戸:棚にそれぞれ「A15」などのナンバーが付いていますね。どのぐらいの方が本棚を借りているのです?
牛島さん:本棚が56棚あるんですが、大体50棚ぐらい埋まっています。個人の方もいれば、法人の方にも借りていただいています。
牛島さん:この辺りの棚には、漫画だったり。
神戸:ああー、『風の谷のナウシカ』や、(手塚治虫の)『ブッダ』。
牛島さん:近くのお寺の副住職さんに、借りていただいています。
神戸:あ、名刺を出して、誰が借りているのかわかる棚もあるんですね。
ちょうどオーナーさんが今月の家賃を払いに来ました。“家賃”は月2000~5000円だそうです。
「かたる」=「参加する」
コロナ禍で閉まってしまったブックカフェを利用して開設されました。室内はコンクリートの打ちっぱなしで、すごくおしゃれ。「かたる」とは「参加する」という意味の方言で、本を通していろいろなことに「かたる」場所と考えています。お話を聞いていたら、筑後市内に住むご夫婦が訪ねてきました。
神戸:ちょっとのぞいてみたかったんですか?
女性:そうなんです、まずは。
神戸:オーナー募集の紙も…。
女性:自分にはちょっと余裕はないかな…。でもいろいろな方のセレクトには興味はありますよね。
(遊ぶ子供たちの声)
女性:図書館みたい。
神戸:お近くの方なんですか。
女性:はい。
偶然訪ねてきた親子連れ
取材中、ちょうど小学生の兄弟とお母さんがやってきました。こちらも初めて訪ねてきたそうです。
母親:こんにちはー。
神戸:RKBラジオです。どんなところなのか知りたくて、来てみたんですよ。
母親:うちもそうです。(小学6年生の長男が)「ボードゲームがいっぱいやりたい」と言って。
牛島さん:いっぱいありますよ。
神戸:どうして来たいと思ったんですか?
母親:ちょっと長男が、学校に行きづらい部分もあって。本も大好きだし、「とにかくいろいろなボードゲームをやってみたい」と言うので、「ここだとそろってるよ」と。家にいるとどうしてもタブレットが多くなるので、少しでも本とかボードゲームとか行けるところがあるとこがいいな、と。
神戸:本がある場所、ボードゲームがある場所はどう?
長男:雰囲気があって、いいと思います。
居場所を求める子供たち
牛島さんの本業は、筑後市のスクールソーシャルワーカーです。民間図書館を開設したのには、自分が見てきた子供たちの現実がありました。
神戸:どうしてこういう「民営図書館」を開こうと?
牛島さん:スクールソーシャルワーカーは、不登校だったり虐待を受けていたりするお子さんとか、家庭の課題がいろいろあるお子さんの支援をさせてもらっているんですが、なかなか子供が日中に過ごせる場所がない。自分が関わっている中学生に、すごく本好きな女の子がいました。学校にもちょっと行けなかったので、「自由に過ごせる図書館があればいいなあ」と言っていたので、「じゃあ、図書館作ろうか」と。勢いで、図書館をこんな形で運営をさせていただく形になっています。日中、不登校の子もたくさん来ています。
神戸:利用は、誰でもできる状態?
牛島さん:はい。子供、学生は無料で、それ以外の方は月500円でサポート会員になって、ここの運営のサポートをしていただける形になっています。3月31日にオープンし、2か月ぐらい。やっと少しずつ、子供たちが来てくれるように。いろんな方が協力してくれて。
神戸:順調ですか?
牛島さん:そうですね、思ったよりは。「大丈夫かな…」と思っていたんですけど、ボランティアや会員になってくれた人たちが協力してくれて。ここの留守番、「図書係」をボランティアさんがしてくれて、日替わりでいろんな方が協力してくれている形です。
居場所を求めている子供たちは、どこにでもいます。筑後市でもそれなりの数がいるみたいですが、それ以外の子も来て、いろいろな交流をしています。「消しゴムはんこを作ろう!」なんてイベントも企画したり、地域の方と大学生や大学の先生などが語り合う場を作ったり。「語る」という場になっている、筑後市の「みんとしょかたる」です。
【ちっごあかでみあ】
日時:6月15日(土)午後2時半~4時半
テーマ:『子どもの居場所ってどんなとこだろう?』
内容:子供の居場所つくりをしている大西良・筑紫女学園大学准教授と一緒にお話ししながら考える
定員:20人
大人:1000円
ゴロゴロできる“小上がり”スペースも
本棚だけではなくて、子供たちが楽しめるような工夫もありました。
牛島さん:子供たちがすごくボードゲームが好きなので、自由にボードゲームをできる場所にと、ボードゲームを置いています。
神戸:よく見るものもありますね。オセロ…あ、人生ゲーム!
牛島さん:これは寄付でもらったものです。けっこう寄付でいろんな方からいただいたのをここに置いています。小さい子供さんから、中学生・高校生もできるようなものもたくさんあるので、日中に来たらみんなでボードゲームしています。
神戸:ちょっと遊んで、本を読みたければ読んで。
牛島さん:自由に子供たちが過ごせるという形で。子供さんがゴロッとでしたいということを言っていたので、「じゃ、こたつを置ける場所を作ろうか」と。今は夏なのでこたつはないんですけど、いずれちょっと冬になったらこたつを置こうかなと思っています。横になって本が読めるみたいな形にさせてもらっています。
ゴロゴロしながら本も読めるし、ボードゲームもでき、子供の声が平日はかなりこだましているそうです。開館時間は午前10時~夕方5時まで。駅前のいい場所ですし、大切だなと思いました。
民間図書館は各地で広がっているようですが、筑後市では初めて。見学に行ってよかったです。勉強になりました。人が作る本棚を見るのは楽しいですよ。利用者がもっと増えたらいいなと思いました。
この記事はいかがでしたか?
リアクションで支援しよう
この記事を書いたひと
神戸金史
報道局解説委員長
1967年、群馬県生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。現在、報道局で解説委員長。