歌手、財津和夫さんとのラジオ番組「虹の向こう側」が始まったころ、私はバンド「チューリップ」の知識はほとんどない若手アナウンサーだった。しかし、この2年半、130回の放送を重ねて学んだことがある。それは財津さんの歌や言葉は「魔法」ということ。耳にしたファンに一瞬で青春時代をよみがえらせ、そして光が差し込
むように心を救う大きな力があるのだ。私はその魔法を、求めているファンの所に虹のように橋を架けられたらという思いで番組を担当してきた。
そんな中、この9月で番組を離れることに。私事だが、産休に入るのだ。やっと定着してきた矢先のこと、そして50周年ライブの追加公演を控えたお忙しい時期に申し訳ないという思いでいっぱいだった。しかし、ご報告した時、財津さんは拍手をしながら、満面の笑みで何度も「めでたい!」と言ってくださった。その笑顔は、新しい命の誕生を何より喜びなさいと、一瞬にして私の心を晴れやかにしてくださったのだ。これが魔法かと、最後にまたファンの皆さんの気持ちに近づけた気がした。
今後は下田文代アナに番組を託し、新生活に入る。まだ実感は湧かないが、あの時の財津さんの笑顔を宝物としてポケットに忍ばせ、時折勇気をもらいながら、新しい命と向き合っていきたい。
9月30日(土)毎日新聞掲載
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