熱い視線と期待を浴びて、ザ・リッツ・カールトン福岡がデビューしたのは今年6月のこと。その威風堂々な姿は早くも天神の新ランドマークとなっています。
世界的ラグジュアリーホテルだけに、無論グルメにも贅沢な愉しみがたっぷり。それは18階のレストラン「Viridis」や、24階のバー&ラウンジ「Bay」の訪問でも証明済みですが、もう一つ訪ねるべき店がありました。それが18階で客を迎える日本料理レストラン「幻珠」です。
フロアは会席・鮨・鉄板焼と3つの独立したスペースに分かれ、とくに東京の一つ星店「鮨 将司」がプロデュースする鮨は、すでに予約困難な人気ぶりとか。鉄板焼はカウンター8席、鮨はカウンター10席を持ち、高層階ならではの絶景が一望できます。会席・鮨共用の個室もあり、そちらは最大8名まで利用可能です。
鮨と鉄板焼にも惹かれますが、今宵は会席にて20,000円コースを予約。通されたテーブル席はゆったりした空間で、博多織をモチーフにした装飾がモダンな輝きを加えています。ガラス越しには街の灯と大濠公園が見え、心潤う非日常を描いていました。
なお、こちらも2~12名収容の個室が用意され、最近はお食い初めや顔合わせなどの慶事に重宝されるそう。大事な瞬間を祝うのに最高のチョイスでしょうね。
さて、今宵のコースは全7品。「その土地が秘めた素晴らしい食材を紹介する」とのコンセプトを掲げ、店名にも“至宝”を冠した「幻珠」の料理にも、九州の魅力が余さず盛り込まれます。
その先陣を切るのは、志賀島の天然車海老、糸島のわさび菜、宮崎産椎茸を用いた先付。半生に茹でた車海老と、おひたしにした椎茸という旨味の濃い具材を、酸味と清涼感あるゼリーが包みます。ゼリーは枕崎の鰹節をベースに、ラディッシュや酢を加えたもの。残暑厳しい夜には嬉しい、爽やかな1品目でした。
蓋をあけた途端、ふくよかな香りに襲われる椀物も印象的。博多スギタケ、白舞茸、黒あわび茸など9種ものキノコを投じ、一口ごとに異なる風味と食感が楽しめます。秋の味覚を「喰らう」ような勢いある一杯ですが、それを優しく中和する淡い出汁が全体に気品を添えていました。
どの料理も旬の食材を主役にし、たおやかに美味を花開かせたものばかり。「これぞ和食の醍醐味」と鮮やかな手際に唸っていたら、その風雅な世界を生みだす料理長がまだ30歳と聞いて驚きました。
早良区西新生まれの中島弘貴さんは、京都の名店「和久傳」で技法を学び、その元料理長が営む東京の「銀座ふじやま」でさらに精進。そこで手にした目標が、日本古来の“侘び寂びの美”を感じる料理でした。
「だからこそ、僕は何より引き算を大切にします」と中島さん。そんな職人の技術と感性に惚れたのが、このホテルの総料理長・早坂心吾さんです。偶然の縁から中島さんと知り合うや、すぐに自ら「幻珠」にスカウト。「四季折々の風景が目に浮かぶ料理」──中島さんの持ち味を、早坂さんはそう表現します。
その言葉を裏付ける好例が、一品一品が強い存在感を放つ八寸です。この日は焼魚のカマス、イカとタイの酒盗、ムカゴと銀杏、佐賀の白石蓮根、サツマイモのレモン煮など。それぞれに意図や役割を持たせた構成で、酸味や塩味の均衡が取れた味わいも好印象です。また八寸には珍しく、焼物・揚物はしっかり温かいままで提供。そんな些細な気遣いからも、食材や客への慈しみが伝わる気がします。
これは福岡産の春菊とハモを刻み、道明寺粉をまぶした豊年揚げ。小品ながら軽快な歯触りが楽しめます。「これから始まる稲刈りに合わせ、豊作を祈願する一品のイメージで作りました。こういう文化的に根ざした料理を、もっと前向きに取り入れたいですね」と中島さん。
その後も冷菜、炊き合わせ、銀鮭の炊き込みご飯に栗大福と、「日本料理」に期待するすべてがコースの随所に詰まっていました。日本人の琴線に触れてやまない柔和な味は、穏やかにたゆたう音楽のよう。外国人ゲストにも、この料理は良き食文化のアンバサダーになるはずです。
「インターナショナルホテルの役割として、それは常に意識しますね」と中島さんも言葉に力を込めます。いずれは「福岡で独立を」と夢見る俊英ですが、その日まではこの店で、陶芸や農業なども含めた九州クラフトマンシップを結集し、数々の“至宝”を見せてくれるでしょう。
この記事は積水ハウス グランドメゾンの提供でお届けしました。
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