昭和から変わることなく、居心地の良さを届ける珈琲喫茶

引っ越すとき物件探しのマスト条件ではないけれど、ご近所にあるとうれしいのが“良い喫茶店”です。“良い”とはいろいろで、味だったり、お値段だったり、雰囲気だったり……。でも何より大事なのが、居心地が良さだと思っています。

引っ越し先の福岡で見つけたのが「珈琲フッコ」。大濠公園駅近くの路地裏にある昭和の雰囲気漂うアパート「花田荘」の1階にあります。「フッコ」は、現在のマスター・市原道生さんのご友人が1980年に大名ではじめた喫茶店です。

「友人に声をかけてもらって、立ち上げから手伝うことにしました」と市原さん。「当時の大名は、クセがある若者のまち。喫茶店や古着屋、アジア雑貨など、アパートの一室を改装してできたアングラっぽい雰囲気のお店が多くありました」と振り返ります。恋人の名前だったのではと予想していた店名は、アンティーク好きのご友人がつけたもので、「復古」が由来。堅苦しくならないように、カタカナで「フッコ」となったそうです。

若者のサブカル文化の中心ともいえる大名で産声をあげた「フッコ」ですが、当時は喫茶店ではなく、焙煎豆の販売が中心。販売スペースの隅に少しだけあったスペースで、カウンター7席だけの喫茶ルームを作ったのが喫茶店としてのスタートでした。開業して数年で、ご友人は店を閉店することを決めたのですが、その際に受け継いだのが市原さんです。

その後、2005年にあった福岡西方沖地震で店が入っていた建物が被害を受けたことから同じく大名エリアで移転。喫茶スペースが広くなったため、オーブンを導入し、焼き菓子の提供もはじめました。しかし時代の流れから家賃が上昇し、一度は閉店を決意したといいます。そんなとき、紹介で今の物件に出会い2018年に今の地へ移りました。

扉を開くとふわっとコーヒーの香りが迎えてくれる「フッコ」。入ってすぐの場所には、店で焙煎した珈琲豆が並んでいます。そして正面にはカウンター席。さらに進むとブルックリンスタイルのフロアに、テーブル席が用意されています。

この日は、珈琲を入れる様子が間近で見られるカウンター席へ。メニューは、ブレンドコーヒーや豆本来の味が楽しめるストレートコーヒー、お酒が入ったものもあるアレンジコーヒー、さらには紅茶まであってドリンク1杯を選ぶのもワクワクします。

オーダーしたのは、おすすめの「スタンダードブレンド」（M140ml／600円～、写真はL220ml／700円）。「フッコ」のブレンドコーヒーは、焙煎具合を変えることで苦味がまろやかなものから、しっかり利いたものまで３種あり、スタンダードブレンドは一番まろやかなタイプです。酸味はほのかで、えぐみがなくすっと体に溶けるように馴染む毎日飲みたい味。一口飲むとふっと体の力が抜けていき「ほ～っ」と息が漏れました。

せっかくなので、「ベーコンと玉ねぎのピザ風トースト（600円）」をコーヒーと合わせることにしました。ピザトーストは喫茶店の定番メニューですが、「フッコ」でも大名の喫茶ルーム時代から提供しているのだそう。分厚いトーストで食べ応えは抜群！　コーヒーとの相性は言わずもがなで、1杯があっという間になくなってしまいます。でもご安心を。ブレンドコーヒー、ストレートコーヒーは２杯目から200円引きでオーダーできるので、軽食を楽しんだ後はおかわりして、ゆっくりと過ごしましょう。

また、スイーツもおすすめ。濃厚な味の「ベイクドチーズケーキ」（400円）やほんのり温かいとろとろチョコレートが入った「フォンダンショコラ」（400円）など、オーナー手作りのスイーツが人気です。

「大切にしているのは『変わらないこと』。実は、ちょっとずつ変わっているんだけれど、お客さんは気づかなくていいし、訪れるたびに『ここは変わらないね、安心する』と言ってもらえて、長居できる店でありたいですね」そう話す市原さんの隣には、娘さんの姿が。店の後継ぎとして、学んでいる最中なのだそうです。昔ながらの喫茶店のバトンは父から娘へ。この心地よい空間がこれからも変わらずに続く嬉しさに、じんわりと心が温かくなりました。

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