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「痛みは、永遠に続かない」女子大学生が作った短編映画の“その後”

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福岡市出身の大学生・木村ナイマさん監督した『ファースト・ピアス』は、女子高校生の鮮烈な青春が描かれた短編映画だ。RKB毎日放送の神戸金史解説委員長は「無力な女の子の私が、信じられない」と話す木村さんの言葉を、RKBラジオ『田畑竜介 Groooow Up』で紹介し、「痛みは、永遠に続かない。」という映画のメッセージを伝えた。

ドキュメンタリーを学ぶ大学生が作った短編映画

西南学院大学で2024年度からドキュメンタリー制作の授業が始まります。それに先立って、ドキュメンタリー制作の先進地・上智大学の学生が制作したドキュメンタリーの上映会が3月2日に西南学院大学で開かれました。同世代の上智大学生が制作した作品を西南学院大生が観る、という会です。

上智大学文学部新聞学科の水島宏明教授はテレビ局の元ディレクターで、彼の教え子たちが作るドキュメンタリーは質の高さで全国的に知られています。その上智大学水島ゼミの学生が、ドキュメンタリーではなく、オリジナルの短編映画も自主的に作っていて、その上映もありました。

2年前に水島ゼミの5~6人で制作した『ファースト・ピアス』。女子高校生が主人公の短編映画(26分)で、映画祭でグランプリを取るなど高い評価を受けていて、現在U-NEXTで配信中です。
https://video.unext.jp/title/SID0091303

 

監督の木村ナイマさん(22歳)は福岡市出身。ゼミの同級生でプロデューサーを務めた荒尾奈那さん(歳)とともに、西南学院大で『ファースト・ピアス』を見せてくれました。

木村ナイマ監督:本日はこのような機会を与えていただき光栄です。ありがとうございます。よろしくお願いします。

荒尾奈那プロデューサー:お集まりいただきありがとうございます。プロデューサーの荒尾と申します。これから流す『ファースト・ピアス』という作品はちょうど2年前、大学3年生の時に、水島ゼミの友達同士で「みんなで映画作ろうよ」と言って始まったプロジェクトで、その第1作目になります。温かい目で見ていただいたらうれしいです。よろしくお願いします。

木村ナイマ監督(フリーの映画監督、上智大学5年)
福岡市出身。上智大学文学部新聞学科在学中。水島宏明ゼミ所属。2021年、大学の友人たちと映画制作を始める。初監督・脚本作の『ファースト・ピアス』が西湘映画祭でグランプリ受賞。同作はTOKYO青春映画祭にも選出され、現在U-NEXTで配信中。歌舞伎町のガールズバーに潜入取材しながら『天使たち』の脚本を執筆。映像は主にMV制作、そのほかにもイベント主催やDJ活動、「スナック梅」のママとしても活動中。

荒尾奈那プロデューサー(CM制作会社勤務)
クリエーティブディレクター北尾昌大の弟子として活動中。水島ゼミOGで監督の木村とは大学の同級生。2020年上智大学のミスコンを廃止し「ソフィアンズコンテスト」を新設、運営代表を務めプロデュース業の魅力に気づく。前作『ファースト・ピアス』でもプロデューサーを務めた。自らもドキュメンタリー制作を行い、『亀と余生と、しあわせと』が鶴川ショートムービーコンテストに入選。

 

映画『ファースト・ピアス』の鮮烈さ

主人公は、退学寸前の女子高生マリア。親友の羊(ヨウ)といる時間が唯一の生きがいです。平日の朝、 人が自転車で学校ではなく、河原に向かいます。少し騒音がうるさい高架下で、学校をサボって話をしているシーンが出てきます。

 

マリア(河野聖香):本当にそろそろ退学になるんじゃないの、うちら。

羊(佐藤たら):うーん、そうだねー……。退学になったら何する?

マリア:退学になったら?

羊:うん… うちはねー、映画館でバイトでもしながら、マックでもバイトして、キャバクラもする。

マリア:柄にもなく、現実的じゃん。

羊:てか、マリアは?

マリア:何が?

羊:だから、退学したら何したいのって話。

マリア:うちは特に何もないけど……。

羊:へえー。

マリア:強いて言えば……もっと悪いことする。

羊:え? (マリアが立ち上がって走り出す)え、待ってよー!

マリアは羊に「もっと悪いこと」をしようと提案しました。学校をサボって街中でうろうろしている高校生の、ある意味キラキラした感じの青春が描かれていますが、実はマリアにはある秘密がありました。

 
 

歌舞伎町に生きる少女たちを描く続編『天使たち』

女子大学生が作った映画が配信までされているのはすごいことだと思います。今はこのマリアがその後どうなったかを描く続編映画『天使たち』を製作中なのだそうです。心にいろいろな痛みも感じている高校生が、東京・歌舞伎町で生きていく。木村ナイマ監督は歌舞伎町で何か月か自分で働いてみて、いろいろな人と話をしてみたそうです。

そこで知った歌舞伎町は「犯罪の街」とかいろいろなことを言われているけれど、傷つきやすい人たちが集まってくる、優しい人たちがいっぱいいる町だった、ということ。もちろん危険な一面もありますが、一概にそのように見てはいけないと思い、会った人たちの体験を続編に生かして作っているそうです。プロデューサーの荒尾奈那さんはこう話していました。

荒尾奈那プロデューサー:私がこの映画プロジェクトを続けている意味は、やっぱり木村ナイマが作る脚本や映像が、自分にとってすごく救いになっている部分もあって、特に次回作がそうなんですけど。大事にしたいポイントと考えていることは、映画を通じて知り合った、通じ合えた人たちとの関係性を本当に大切にしていくことだなと思っています。

『ファースト・ピアス』を2年前に作った時、本当に想像以上の人からの反響があって、それが今回の『天使たち』につながっています。その時たまたま上映会に来てくれた男の子や学生たちが、今回新しい映画を作ると言った時、『前回よかったからぜひ携わらせてください』と言って、前回は5~6人で作っていたのが今44人になっていて、みんなすごく通じ合っている。そういうご縁、気持ちを大切にしながら作っていくことを、一番大事にしています。

 

※『天使たち』のストーリー
舞台は新宿・歌舞伎町。夢も希望も持てず、ただ若さと美しさをお金と交換する子。自分の居場所を求めて、お金を稼ぐ子。承認欲求のゲームにハマった子。様々な女の子が働くガールズバーで出会った無気力な“なる”と居場所が欲しい“マリア”。夜を生きる少女たちの束の間の友情。なるはホストの男を助け、次第に惹かれていく。マリアはランキング維持のために裏引きを検討するが…。

「無力な女の子だからこそ」

みんなで借金までして制作しているそうです。ドキュメンタリーを作る大学のゼミで仲間になり、そしてドキュメンタリーだけではなく、劇映画も作ってみようと、さらに大きなチームになって続編映画を作っている。「すごいなあ、こんなことができる人の才能とはどういうものなんだろう?」と思いましたが、実は木村ナイマさん、自分のことを「無力な女の子」と言っていました。

木村ナイマさん:自分が無力な女の子だからこそ、女の子たちの声でものを作りたいというのがすごくあって。元々何もない私が、福岡にいて映画を作りたいという夢だけあって東京へ来て。でもその東京という場所が自分たちが思うような場所ではないので、それに挫折しながらも、現実と理想のギャップに悩まされることもあるけど、それでもこういう仲間が集まってきて、こういう映画を作ってそれを皆さんに観てもらえているということが、本当に信じられてなくて。無力な女の子だった私が作品を届けられることが、胸にちょっと……。もう、借金もあるし(笑) ですけど頑張っているので、ぜひ次回作も 観ていただけたらうれしいです。

 

私は才能をすごく感じました。『天使たち』という映画はもうすぐクランクアップするそうです。支援を求めるホームページもできています。

現役女子大生監督が新宿・歌舞伎町に生きる少女たちを描く。映画『天使たち』製作応援プロジェクト!
https://motion-gallery.net/projects/fallingangels

福岡出身でこんな才能を持って挑戦しようとしている、まるで映画の主人公のような、心に傷を負いながら、キラキラしながら前向きに生きている学生の姿。これ自体、ドキュメンタリーになるんじゃないかな、なんて思いました。

作品を見た西南学院大の学生さんたちは、これからドキュメンタリーを作っていくわけですが、「こんなことが同世代にできるのか」という顔で見ていました。映画『天使たち』が成功したらうれしいなと思っています。

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この記事を書いたひと

神戸金史

報道局解説委員長

1967年、群馬県生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。現在、報道局で解説委員長。