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「子ども・子育て支援金」負担増で少子化対策にはむしろマイナス!?

潟永秀一郎

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衆議院の特別委員会で4月18日、公的医療保険に上乗せして「子ども・子育て支援金」を徴収することを含む「少子化対策法案」が、与党の賛成多数で可決された。岸田首相はこれまで、加入者一人当たりの負担は平均で月額約450円だと国会などで答弁してきたが、この試算では年収400万円でも500円を超えることが分かり、批判が高まっている。元サンデー毎日編集長・潟永秀一郎さんが4月19日、RKBラジオ『立川生志 金サイト』で「言いにくいことはぼかして、突っ込まれたらボロが出る」と批判した。

制度の趣旨に賛成でも国や制度は信用できない

少子化対策が喫緊の課題だということに、異を唱えるつもりは全くありません。むしろ、遅きに失したとすら思っています。また、そのために何らかの国民負担が生じることも、やむを得ない面があるとも思っています。

ただ、だからこそ政府は正直に、丁寧に説明を尽くして国民の理解を得るべきなのに、なんですか、これは? 言いにくいことはぼかして、突っ込まれたらボロが出る。これじゃあいくら制度の趣旨に賛成でも、国や制度は信用できませんよね。

改めて経緯を振り返ります。少子化対策の財源を確保するため、政府は公的医療保険=いわゆる健康保険を通じて、国民や企業から徴収する「支援金制度」を作り、2年後の2026年度から運用を始める計画です。集めるお金は、初年度の26年度は6000億円、27年度は8000億円、28年度から先は1兆円を予定しています。

多くの国民は物価高で収入は目減りしている

では、それが健康保険料にどう跳ね返るのか。岸田首相は2月の国会で「2028年度に加入者1人当たり500円弱」と述べ、3月に公表した試算では約450円になるとしていました。また、賃上げで給料が上がる分「実質負担は生じない」とまで言っていたんです。

それが、野党の再三の求めで試算の詳細を公表したところ、最終段階の2028年度には、会社員や公務員などが加入する被用者保険の場合、年収400万円で月額約650円、600万円で約1000円、800万円だと約1350円の負担。また、自営業者らが入る国民健康保険の場合、年収400万円で月額約550円、600万円で約800円、800万円だと約1100円です。

日本の勤労所得は平均四百数十万円ですから、会社員は平均年収レベルで3月に政府が示した450円より200円も高く、国民健康保険の方でも同じく100円高くなっています。年収600万円なら2倍前後、800万円なら3倍前後ですから、そりゃあ「話が違う」となります。

それでも岸田首相は「既存の歳出を削減した範囲内で、新たな政策の支出に回せば、国民に新たな負担は生じない」「支援金を導入しても社会保障負担率は上がらない」と言うわけですが、私には何を言っているのかよくわかりません。だって、ほかの予算もカツカツだから支援金制度作るんですよね? また、もし本当に「社会保障負担率は上がらない」とすれば、介護とか年金とか、ほかの社会保障費を削るしかなくて、その分は国民に跳ね返って負担になりますからね。

「子育て支援」であり未婚率対策になっていない

さらに「そもそも論」に立ち返ると、今回、岸田首相が言う「異次元の少子化対策」ですが、これって「子育て支援策」であって、必ずしも少子化対策になっていません。折しも、それを裏付けるこんなデータが発表されました。

先週、国立社会保障・人口問題研究所が発表した「世帯数の将来推計」です。それによると、未婚化の影響で2050年には1人暮らしの単身世帯が、半数近い44%を占めるまでになる、としています。

ではなぜ、結婚しない人が増えているのか。大きいのは経済力の問題です。よく「失われた30年」と言われますが、平均年収の推移をみるとそれは明らかで、バブル崩壊当時の1992年の平均年収は455万円だったのに対し、30年後の2022年は457万円。わずか2万円しか増えていません。それどころか、ピークだった1997年の467万円と比べると10万円も減っています。

一方で、92年当時3%だった消費税率は10%に上がり、健康保険や年金など社会保険料の負担率は、会社員の場合、約10%から15%になり、これらを差し引いた手取り額はほぼ下がり続けています。30代独身で年収500万円だと、92年当時は約410万円あった手取りが390万円に、20万円も減りました。

増税には抵抗感が強いので、主に社会保険料を上げてきたわけですが、結果、国民負担率=個人や企業が稼いだお金のうち、税金と社会保険料で持っていかれる割合=も上がり続け、2022年は48.4%。ほぼ半分です。

つまり、正社員でも給料は増えず、それどころか手取りは減って、まして非正規雇用だと収入が増えていく未来図も描けず、そこに「子ども・子育て支援金」が健康保険料に乗せて徴収されるわけです。

繰り返しになりますが、私は子育て支援制度そのものを否定しているわけではなく、必要だと考えています。結婚する意志がある人や、すでに結婚している人が、子どもを持つことや2人目、3人目を産むことへの不安や負担を軽くする効果は見込めるからです。

ただ、経済的理由などで結婚を諦めている人にはどうでしょう。負担増は逆効果かもしれず、むしろ奨学金の返済で困らないよう全て給付型にしたり、独身者も含めて若年層向けの住宅支援をしたりする方が効果的かもしれません。先週もお話ししましたが、防衛費の増額分、年間5兆円あれば、支援金も含めて、これらはすべて賄えます。

若い世代にのしかかる「保守的な結婚観」

さて、では結婚をしない、したくない理由は経済的問題だけなのか? 「いや、むしろマインドの問題が大きい」と、毎日新聞のインタビューに、東京大名誉教授で社会学者の上野千鶴子さんは指摘します。「なるほど」と感じ入ったので、一部をご紹介します。

男性の経済力が婚姻率と相関する背景にある原因は、保守的な結婚観です。男性は妻子を養わなければならないから経済力がつくまで結婚の資格がない、資格がないから最初から結婚願望を持たない、付き合う意欲もなくなる――。こうした保守的な結婚観が今の若者にもあります。

他方、女性の方には、家事・育児をすべて自分が背負わなければならないという保守的な結婚観があります。これが「結婚は損」という考え方に、若い女性を導きます。その結果、結婚に興味がない、子どもは持ちたくない、という女性が増えています。

経済要因の背後にある、この保守的な結婚観、ジェンダー観を男女ともに捨てない限り、結婚へのインセンティブ(誘因)は生まれません。だから若い男女に結婚・出産してもらおうと思ったら、家族手当などの金銭的インセンティブではなくて、もっと根本的な社会の構造改革、家父長制からの脱却が必要ということです。まずこれが第一です。

データが示す「孤立と貧困」 上野千鶴子さんが読む世帯数の将来推計(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20240412/k00/00m/040/083000c

男の立場で言うと、専業主婦が多かった私らの世代は明らかに「養う」責任というか義務感がありましたし、その世代に育てられた子ども世代にもそれが根強く残るとしたら、私も責任を感じます。

また、女性に関して言うと、例えば女性の育児休暇取得率は8割を超えているのに男性は1割ほどにとどまり、休業期間も女性は9割以上が半年以上なのに、男性は約半数が2週間未満です。家事や育児に費やす時間も、共働き家庭の女性が1日平均約7時間なのに対して、男性は1時間ですから、女性が「結婚は損」と考えても仕方ないと思います。

上野さんが言っているのは、つまりそういうことで、夫婦別姓制度すら今も認めず、性的マイノリティの差別を禁じる法案に反対して骨抜きにしたり、各地の裁判所で違憲や違憲状態という判決が出ている「同性婚」を「社会が変わってしまう」と認めなかったり――。いずれも今の若者世代の多くが「認めるべき」と考える社会の姿をかたくなに拒む結婚観やジェンダー観が、重く、どんよりと彼らにのしかかっていると、私も感じます。

国民負担なしでできる少子化対策だってある

これは以前もお話ししましたが、G7(先進7か国)で一番出生率が高いフランスで、その回復に大きな役割を果たしたと言われるのが、未婚のカップルにも結婚と同等の権利を認める「パックス」という制度で、フランスでは出生数の実に6割が未婚のカップルから生まれています。同性婚でも養子縁組が認められ、子どもを持つことができます。

今言ったすべて、こうした制度改革には、基本的におカネはかかりません。国民負担なしにできるわけですから、少子化対策が喫緊の課題だと言うのなら考えるべきだと思いますが、面倒な話は先送り。裏金問題も真相解明にはほど遠く、内輪の処分でお茶を濁し、負担金の件も含めて、なんだかその場しのぎばかり。

私には今の日本、親が聞く耳を持たない家で、子どもが「ああはなりたくない」と絶望しているようにも映ります。責任の一端がある昭和世代として、少子化問題はこれからも考え続けたいと思います。

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この記事を書いたひと

潟永秀一郎

1961年生まれ。85年に毎日新聞入社。北九州や福岡など福岡県内での記者経験が長く、生活報道部(東京)、長崎支局長などを経てサンデー毎日編集長。取材は事件や災害から、暮らし、芸能など幅広く、テレビ出演多数。毎日新聞の公式キャラクター「なるほドリ」の命名者。