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「月に1冊も本を読まない」6割…どの世代でも進む“読書離れ”

山本修司

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文化庁が9月17日に公表した2023年度の「国語に関する世論調査」で、月に1冊も本を読まない人が6割を超えていることが分かった。5割を超えたのは初めてだ。スマートフォンやSNSの普及が原因という分析がされているが、ここまで読書離れが進むと何か対策が必要ではないだろうか。9月20日、RKBラジオ『立川生志 金サイト』に出演した毎日新聞出版の山本修司さんがコメントした。

どの年代でもまんべんなく読書離れ

これは衝撃の数字でした。まずは、なぜこうなったのかという分析をしてみたいと思います。出版社社長としましては重大なことですので。

「国語に関する世論調査」は毎年行われていて、例えば「うがった見方をする」は本来、「物事の本質をとらえた見方をする」という意味ですが、「疑ってかかるような見方をする」と誤った理解をする人が60%いる――などということが取り上げられていました。また今回は、擬態語の「がっつり」とか「もふもふ」とか「まったり」が定着してきたことなどが取り上げられていました。

本題に戻ります。2008年からは1か月に読む本の冊数を訪ねる質問を5年ごとに実施していて、前回2018年度は「1冊も読まない」人が47.3%、その前は46%台でした。この5年で15.3ポイントも急に増えたことになります。

調査では、読書量が減ったかどうかを聞いていて、今回は69.1%に上り、前回調査から1.8ポイント増加していました。7割程度の人は読書量が減っているわけですね。その理由も聞いていて、これまでの調査では「仕事・勉強で多忙」がトップでしたが、今回は「スマホ・タブレットなどに時間が取られる」が減少要因として初めてトップになりました。全体の43.6%ですから半数近く上ります。仕事や勉強は38.9%ですが、これも4割に上ります。

これを年代別に見ると、10~20代は「スマホ・タブレットなど」が減少要因のトップで、30~40代では「仕事・勉強で多忙」が最多、50代以上になると「視力低下など健康問題」を挙げる人が増え、70歳以上ではトップです。

ざっくりとまとめてみると、どの年代でもまんべんなく読書離れが進んでいる中で、若い世代ではスマホ・タブレットのおかげで本を読む時間がなく、中高年は仕事や視力低下など健康問題によって本を読まないということができると思います。

そうなると、この5年での大きな変化は、スマホやタブレットに時間が取られ、本を読む時間がない人が急増したことです。本がスマホやタブレットに取って代わられたということがいえます。

小中学生はよく本を読んでいる

ただ、この調査は16歳以上ですから、小中学生は入っていません。ここでは別のことがいえます。

毎日新聞が開催している青少年読書感想文全国コンクールで、最新の数字では小中高生から265万点の応募がありました。全国の小中高生は約1,200万人ですので、4人に1人が応募している計算になります。高校生の応募は小中学生に比べれば少ないので、小中学生に限ればもっと大きな数字になると思います。要は、小中学生はよく本を読んでいるという数字もあるということです。

これだけの点数の応募の裏には、熱心な学校の先生方や家族の努力があります。子供に本を読んでもらうため、いい本を選んで、読書の楽しみを教えて、感想文を書くことでより深い理解を促すのです。その後、本を読まなくなってしまう子供も少なくないのですが、何かのきっかけがあれば、また本を読むようになるのではないかと思います。

インスタグラムを運営するアメリカのメタは、10代の利用者を対象に、1日当たりの利用時間が1時間を超えるとアプリを閉じるよう求める通知が届くなど、機能を制限するサービスを始めると報じられていましたが、本を読む時間がなくなるほどの利用はやはり問題でしょうから、プラットフォーム業者のこうした取り組みも有効かもしれません。

なぜ本を読むことが大事なのか

ところで、ここで根本的なことに触れておかなければなりません。なぜ本を読むことが大事なのか、ということです。もちろん、それまでに持っていなかった知識を得るということはありますが、たとえば小説などで主人公などに気持ちになって感情を共有し、自分ならどうするだろうかと我が身に置き換えて考えることは、人間形成のうえでとても重要です。本との出会いが人生を変えることさえあります。

教育現場からは、SNSの普及によって、長い文章を読む能力が著しく落ちているということも聞きます。調査では、インターネットで記事などを毎日読む人は75%いることから、必ずしも活字離れが急激に進行しているわけではない、ということは言えるのですが、情報の質の問題はとりあえずおいておくとしても、ネット上の記事は短文で、量の問題でも本や新聞に比べて少ないですから、やはり読書が長文の読解力には必要といえます。

この点について、「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」という新書の著者で文芸評論家の三宅香帆さんは、毎日新聞で「読書離れの原因は、日本人の『長文離れ』というべき現象、つまり長文を読めなくなっている人が増えているため」と推測し、さらにその原因を「SNS特有の、文脈のない細切れの短文に慣れたため」としていました。

それでも、私は少し光を感じています。いま、毎日新聞出版が出している三笠宮彬子さまの「京都ものがたりの道」という本がちょっとしたブームになっているのですが、特に彬子さまがテレビに出演し、自らの体験と本の内容について自然な語り口で話されたところ、番組終了後にどっと売れたのです。魅力ある著者がいて、本について説得力ある言葉が届けば、本を手に取ってくれるということがよく分かりました。

まずは読者が手に取ってくれるような魅力ある本を出版し、それを届ける努力をすることが第一で、並行して本と人をつなげるための取り組みを進めていくことが必要です。業界で、また社内でも議論しながら、5年後の国語世論調査で「月に1冊も本を読まない人」のパーセンテージが下がっている状況を作っていきたいと思います。

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この記事を書いたひと

山本修司

1962年大分県別府市出身。86年に毎日新聞入社。東京本社社会部長・西部本社編集局長を経て、19年にはオリンピック・パラリンピック室長に就任。22年から西部本社代表、24年から毎日新聞出版・代表取締役社長。