PageTopButton

不完全で、やっかいで、でもどこか愛おしい。ある家族の三十年にわたる“嘘”と“愛”の物語(2026年1月9日公開)

憎らしいけど愛おしい、
「嘘」が紡ぐ家族のカタチ

不完全で、やっかいで、でもどこか愛おしい――。

本作は、そんな家族の“嘘”と“絆”を、約三十年にわたる時間の中で丁寧に映し出していく。原作は、『川のほとりに立つ者は』で本屋大賞にノミネートされた寺地はるなの同名小説。家庭に積み重なる嘘や違和感の奥にある愛情をすくい上げ、互いを傷つけながらも残り続けるつながりを描いている。文庫化もされた人気作を映画化したのは、『愛に乱暴』で世界の映画祭を沸かせた森ガキ侑大監督。繊細で抑制された演出の中で感情の機微をすくい上げるその手腕は、本作でも健在だ。

主演は、高杉真宙。確かな演技力と柔らかな存在感で物語を支える。共演には、正反対の女性像を体現する伊藤万理華と深川麻衣をはじめ、母・雪乃を演じるシンガーソングライターの安藤裕子、姉・紅役の向里祐香、父・淳吾役の安田顕。そして祖母役に余貴美子、祖父役には柄本明ら幅広い世代の実力派俳優たちが集結した。

物語の中心にいるのは、長男・山吹。弟を失い、空想の世界で生きるようになった母のため、 “嘘の手紙”を書き続けてきた。母、父、姉、祖父、祖母――それぞれが不都合な真実から目をそらしたまま寄り添い合う羽猫家で、山吹はただひとり、家族と向き合いながら成長していく。

この物語に派手さや涙を誘うような劇的な展開もない。ただ、小さな違和感や沈黙の中に積み重ねられる嘘と、それをほどいていく過程に、じんわりとした温かさと希望が宿る。そしてラストには、観る者の心に清々しい余韻が広がっていく。

積み重なった噓は、愛の裏返し。それに気づいたときに見えてくるのは、近づきすぎず、離れすぎず、それでも確かに結ばれている家族のカタチ――。 それでもときに「家族をやめたい」と願ってしまう、その思いの先にあるものを、この映画はそっと見つめている。

不完全さを抱えたままの
愛おしい集合体である“家族”の
三十年を描き出す

1988年、佐賀県のある街。 小学三年生の羽猫山吹は、事故で弟を亡くしたその日から、家族の“嘘”に寄り添い、みなに合わせて生きてきた。現実を受け入れられず、空想の世界で溺愛していた亡き子を追い求め続ける母。その母を慰めるため、山吹は“弟になりすました手紙”を書き続ける。そんな母を受け入れられず、愛人のもとに逃げる父、裏山に遊園地を作ろうと夢を語る祖父、家族の中では比較的まともに見えるが、骨董屋の仕事で“嘘”を扱っている祖母。姉の紅は「嘘と嘘つきが嫌い」とすべてに対して反抗している。

1993年、中学二年生になった山吹。祖父が亡くなったこと以外、ほかの家族に変化はない。山吹は今も心を病んだ母を支えるために嘘を書き続けていた。成績不振の山吹は、塾に通い出し、そこで出会った一歳年上のかな子に初恋をする。母親と別れ、塾を営む叔父のもとで暮らす彼女に、山吹はどこか自分を重ねていた。そんなある日、高熱を出した山吹を気にかけない母に、紅は『お母さんなんて大嫌い』と言い放ち、家を出て行ったまま消息を絶つ。

1998年、19歳。専門学校に進学した山吹は、実家を出た後も母に手紙を書き続けていた。そしてバイト先で、引越しで疎遠になっていた小学校時代の幼馴染・頼と再会する。

2003年、24歳。印刷会社に勤める山吹は、頼と共に児童施設を訪れるなど、彼女と一緒に過ごす時間が増えていく。山吹は頼と共に歩む未来を見つけようとしていたが、初恋のかな子の存在は、二人の関係に静かに影を落とし続けていた。やがて頼との結婚を決意した山吹は、長く消息を絶っていた姉・紅の居場所を調べて尋ねる。母のこと、亡くなった弟、青磁のこと。山吹は紅に対して抱えていたものをすべて吐き出した。

2008年、29歳、会社の倒産。不妊に悩む頼。祖母の死。重なる試練の中で、家族との距離はなおも揺らぎ続けていた。そして祖母の葬儀の日。母、紅、父――バラバラに生きてきた人々が顔を合わせる。そこへ、雨に濡れ、泣きながら現れるかな子。

そんなかな子を前に、山吹がとった行動は――。

オール佐賀ロケ
役者の表現力にも心を奪われる

舞台は原作者・寺地の故郷、佐賀。

家族の重みを背負う人々を繊細に演じた役者陣の演技にも心を奪われる。

山吹をめぐる三角関係。頼を演じた伊藤万理華は“不器用さの奥にある芯”を体現。かな子を演じた深川麻衣は、“汚れ役を引き受ける胆力”で魅せた。

姉・紅を演じるのは向里祐香。家族に反発して家を飛び出す紅は、力強さと孤独、その二面性を持つ。母・雪乃役はミュージシャンの安藤裕子。次男を失い心を病み、現実と夢のあいだを漂う母を淡く演じた。紅や山吹を見られない姿は家族の“ひび割れ”の象徴となった。

また、家長を演じた安田顕は、視線や煙草の所作ひとつに家族の歴史を刻み込み、祖母を演じる余貴美子は、佐賀弁を徹底研究しリアリティを宿した。祖父役の柄本明は、ちゃめっ気たっぷりに夢物語を語る存在。短い出演ながら温度をにじませ、過去と現在をつなぐ糸のような奥行きを与えた。

さらに本作は俳優にとどまらず、佐賀出身の芸人・はなわや同じく芸人のヒコロヒーも参加。

監督・出演者コメント

監督・森ガキ侑大
「家族」という集合体は、愛情や安心を与えてくれる存在であると同時に、葛藤や緊張の源にもなる。私にとってまだ得体の知れない存在です。そんな「やっかいで愛おしい家族」を、素晴らしいキャストとスタッフと共に佐賀の優しい風と風景の中で紡ぎました。

この映画は、ゆっくりと流れる川のように「時」が過ぎていく物語です。まさに人生そのもの。そして、その「時」のほんの一部に、観客のみなさんの人生を重ねていただけたら、これほど幸せなことはありません。ぜひ劇場で体験していただきたいです。

高杉真宙(羽猫山吹役)
家族のカタチは、それぞれの家庭にあり、他人には見えないだけで、順風満帆なだけのカタチはないと知らないだけで、そこにはそこの苦労があるんだと。それでも家族だから、カタチを維持するために、山吹含め、それぞれが嘘を抱えた家族の物語となっております。嘘と愛の物語です。よろしくお願いいたします。

INFORMATION

タイトル: 『架空の犬と嘘をつく猫』
出演: 高杉真宙、伊藤万理華、深川麻衣、安藤裕子、向里祐香、ヒコロヒー、鈴木砂羽、松岡依郁美、森田想、高尾悠希、後藤剛範、長友郁真、はなわ/安田顕、余貴美子、柄本明
監督: 森ガキ侑大
脚本: 菅野友恵
原作: 寺地はるな『架空の犬と嘘をつく猫』(中央公論新社刊)
公開日: 2026年1月9日(金)全国公開
公式サイト: https://usoneko-movie.com/

この記事はいかがでしたか?
リアクションで支援しよう

この記事を書いたひと

muto(ミュート)

homePagefacebookyoutubexinstagram

大人の好奇心を旅するwebマガジン。旅、グルメ、アート、インテリア、車、ファッション等の新着ライイフスタイル情報を毎日更新中!