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間借り営業10年で移転オープンした「珈琲花坂」。珈琲と音楽と自分。

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2016年5月、大名のど真ん中のビル5階にオープンした「珈琲花坂」。僕が最初に行ったのは2016年2月。「ペトロールブルー」というバーのお昼を借りて営業するという間借りスタイルだった。その「珈琲花坂」が、開業10年を過ぎて2026年2月に間借り営業をやめ、自店での営業スタイルとして移転オープンをした。

10年間ワンオペで自家焙煎珈琲をネルドリップで淹れ続けて来た花坂和英さん。移転を機にあらためて今までの人生について聞いてみた。

大名時代の「珈琲花坂」

宮崎県高鍋町出身の花坂さん

1983年宮崎県児湯郡高鍋町生まれの花坂さん。中学生の頃から音楽やレコードが大好きで、高校時代は宮崎市内のクラブにハマってDJをしていたそうだ。

花坂さん 高校時代は大人の夜の遊び場にもぐりこんでました。いわゆる不良でした(笑)

ー それは不良とは呼ばないでしょうけど、子供らしからぬ趣味に走っていたのは間違いなさそうですね。

花坂さん 高校卒業後はとにかく東京に行きたくて数か月宮崎でアルバイトしてお金を貯めて何の宛てもなく上京しました。

― 東京でやりたい仕事があったんですか?

花坂さん いえ、とにかくレコードや音楽が大好きだったので、東京に行けば宮崎では買えないようなレコードがたくさんあると思ったんです。若者文化や音楽に触れやすい場所ということでなるべく新宿に近くて安いアパートを探して世田谷区の代田橋に住んで日雇いの仕事をしながら過ごし始めました。

― レコードは買えましたか?

花坂さん よく考えたらお金がないのにそんなに買えませんよね。日雇いの仕事では暮らしていくのが精一杯です。たまにレコードが買えたらずっと眺めて愛でてました(笑)
ということで休みの時はいつも喫茶店に入り浸ってました。買ったレコードを持っていってコーヒーを飲みながら自分のレコードを触りながらライナーノーツを読んだりしていました。その時間がとっても幸せで楽しい時間でしたね。

― そこで喫茶店の登場ですね。

花坂さん そうですね。喫茶店には通い詰めていましたからね、ある意味自分の中で喫茶店に対する特別感はここで生まれたのかもしれません。

大名時代の「珈琲花坂」

珈琲業界へ

― コーヒーを仕事にするきっかけは何だったんですか?

花坂さん 音楽に囲まれた中での生活の中でスケートボードもやっていたんですがそれで大怪我をしてしまって、日雇いの肉体労働が出来なくなったんです。だったらということでコーヒーや喫茶店が好きだったので飲食店で働き始めました。その頃は下北沢に引っ越していたんですが、あちこちにコーヒースタンドが誕生してきた時代でしたね。あの有名な「BEAR POND ESPRESSO」が下北沢に出来たのもその頃でした。

― 「BEAR POND ESPRESSO」はアメリカから“サードウェーブコーヒー”と呼ばれるものを早々に日本に持ち込んだお店ですね。

花坂さん そうです。それまでは、大好きな喫茶店に通っていたんですが、「BEAR POND ESPRESSO」を知って、コーヒー店っていろんな形があって良いんだなと思いました。喫茶店の自由さというか個人店の自由さに刺激を受けました。

― それから特にコーヒーに興味を持ったんですね。

花坂さん コーヒーには興味があってそれまでも自宅でコーヒー豆を焙煎したりしていましたが、「BEAR POND ESPRESSO」との出会いが喫茶店を生業にしようと思うきっかけになりました。それから三軒茶屋の「ムーンファクトリーコーヒー」で働かせてもらいました。そこは喫茶店スタイルのお店でハンドドリップなどを勉強させてもらいました。独立を考えているのを最初から話をしていて2年間という約束でしたが、結局2年半くらい働かせてもらいました。

― それからいよいよ開業ですか?

花坂さん いえ、とりあえず退職して福岡に引っ越したんですが、開業まではもう少し時間がかかりましたね。

開業に向けて福岡へ

― 宮崎出身の花坂さんですが、開業は最初から福岡と決めていたんですか?

花坂さん 東京で知り合った妻が福岡出身だったという理由もあったかもしれませんが、商売するには宮崎は考えませんでした。しかし同じ九州ということで福岡は実家に帰りやすいのも良いですよね。そんな理由で仕事も決まってないのにとりあえず福岡に来ました。

― すぐに開業準備に入ったんですか?

花坂さん 30歳になってましたが平尾の「ウエスト」でしばらくアルバイトしてました。それから半年ぐらい経ったんですが何も具体的に開業に向けてやってなくて、「俺、何やってだろ」と思うようになったんです。実は「ムーンファクトリーコーヒー」の時のお客様が、福岡に行ったら大名に「ペトロールブルー」という良い感じのバーがあるよって教えてくれてたんです。それで行ってみたんですが、確かに好きな店だなぁと思ったんです。

― そこで間借り営業の相談をしたんですね。

花坂さん はい、3回目の訪問の時に「お昼に喫茶店として間借り営業をさせてもらえませんか」とダメもとで相談したんです。そうしたらその場で「良いですよ」と返事してもらったんですよ!

― え??花坂さんの身元とかお店の内容とか契約内容とかそんな話は?

花坂さん いえ、まったくいろいろ聞かれることなく何も言わずに返事をもらったのでこちらがビックリして、その後に自分の身元や考えを説明させてもらいました(笑)。それからバタバタと準備して2015年6月「珈琲花坂」を開業しました。31歳の時でした。

― それから10年ちょっと間借り営業を続けたんですね。

花坂さん 「ペトロールブルー」のオーナーには本当に感謝しています。10年間トラブルもなくお世話になれたことも良かったです。路面店でなくビルの5階という目立たない場所でしたけど、間借り営業スタート日から10年間、ノーゲストの日が1回もなくお客様に来ていただいたのは有難かったです。皆さんに大変感謝しています。

― そして間借りをやめて自店での開業ということになったわけですが、その願望は前々からあったんですか?

花坂さん いえ、特にありませんでした。お客様からは「自分の店としての独立はしないんですか?」など時々言われてましたが、商売としては個人事業主として独立しているわけで、それが間借りであるかどうかについては自分はあまり意識してなかったです。ゆっくりとした空間で美味しいコーヒーを飲んでもらえればそれで良いじゃないかと思ってたんです。それでも10年という区切りでもあったし、移転もありかなと自然と考えるようになったのでそのタイミングが来たと思ったんです。「ペトロールブルー」のオーナーにも言葉では言われませんが「そろそろ一人でやれるんじゃない?」とそっと背中を押してもらえたと思っています。

大名時代の花坂さん

2026年2月、移転オープン

移転後の店舗は、築50年くらいの鉄筋コンクリート造りの2階建ての2階にある。元々花坂さんが知っていた物件だったそうだが、たまたま空室が出ていたので不動産店に相談してすぐに契約したそうだ。

大名のど真ん中から桜坂の住宅街の中のアパートに2階へと環境や雰囲気はまったく変わっているが、シンプルでセンスの良いインテリア、そして大好きな音楽、そこに花坂さんがネルドリップで珈琲を淹れる姿を見ると全く違和感がない。逆にここで何年営業していたんだろうと思うほどしっくり馴染んでさえいる気がする。

カウンター内の壁際には古いオーディオセットが鎮座している。Technicsのレコードプレーヤー、marantzのアンプ、もちろん音源はレコードだ。心地良いジャズやボサノヴァが店内の静かな時間の流れを邪魔をしないように1960年代のJBLスピーカーから優しく聴こえてくる。

移転オープンした「珈琲花坂」

さて、珈琲豆の焙煎は、東京時代から使っている手回し焙煎機による自家焙煎。珈琲豆や出したい味の方向性で2種類の焙煎機を使い分けているという。珈琲はネルドリップ抽出の深煎りだ。

― 手回し焙煎機の良さは何でしょうか。

花坂さん 不揃いな焼きにならないように焙煎してますが、それでも現代的な大きな焙煎機に比べるとどうしても不揃いになるのは仕方がないですね。逆に不揃いになるのが面白かったりするし、手回し焙煎機を使わないのであれば、僕がコーヒー屋をやる意味はないとまで思っています。

メニューはコーヒーの他に、自家製のガトーショコラとチーズケーキが用意されている。珈琲チケットが用意されているのも興味深い。「珈琲チケット=常連客=街に密着」というのも昔の喫茶店スタイルで花坂さんの考える喫茶店の在り方が見えてきて面白い。

チーズケーキとガトーショコラ

花坂さんにとっての「珈琲花坂」

― 花坂さんにとって「珈琲花坂」とはなんでしょうか。

花坂さん 好きな珈琲と音楽と空間など自分の趣味を表現している場所でしょうか。あくまでも喫茶店ですが、映えるような要素は全く意識はしていません。ここでレコードを聴きながら自分が立って珈琲を淹れる。それが不変であることが一番大事だと思っています。

ー 最後になりますが、「珈琲花坂」としての夢はなんでしょうか。

花坂さん 日常的にお客さんに珈琲を飲んでもらえる場所でありたいです。大きな夢や野望のようなものはありませんが、自分を表現する場所として個人店にしかできないことをやりながら末長く街に愛される店に育てていくことが夢ですかね。

花坂さんは今でもイベントなどでDJとしてレコードを回すことがあるという。珈琲業界でもその選曲センスの良さは評判だ。そんな花坂さんが作りだす空間と音楽と珈琲。天気の良い日に桜坂を散歩しながら立ち寄ってみませんか。

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この記事を書いたひと

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