飲食店がひしめき、全国の食通が注目する街・福岡。この街で、食を通して人々に笑顔を与えている、料理人やソムリエたちをゲストに迎え、ここ10年でのべ1万軒外食している弓削聞平と、世界中の食を語れるアナウンサーになりたい田中みずきの2人が、彼らの情熱の源に迫ります。
~RKBラジオ弓削聞平スマイルディッシュ(2021年3月に終了)より~
ここ数年でスパイスカレーの店が急増しました。
「8年ぐらい前からかな。天神の『ティキ』、高砂の『ガラム』がはしりで、もう今は追いかけられないくらいです」と、さすがの弓削さんもまだ足を運べていない店もあるそうです。「スパイスは、人を虜にしてしまうものがあります。素人の会社員がカレー作りにハマって、イベントに出店して楽しさを知り、会社辞めてお店出しちゃった、という人が結構いますもんね」
「そうそう! テレビ番組でご一緒しているリポーターのタケルくんもそう。カレー好きが高じて、お店始めてるんです!」と田中アナ。
さて、今回のゲストは福岡市中央区薬院の『回』。経営者の佐野俊彦さん・いずみさん夫妻にお話をうかがいました。大通りの喧騒からは想像できないほどゆっくり時間が流れる店内。「とても落ち着きますね。ちょっと古民家風で。奥に階段があって2階もゆったりとしたテーブルとソファが並びます」と田中アナ。今はスパイスカレーが人気の店ですが、スタートは家庭料理だったそうです。
「お婆ちゃんが作るような、体が喜ぶ田舎料理が好きで。旅行してはその地方の料理を食べ歩きました。そこで素材のおいしさに開眼し、昔ながらの調味料にたくさん出会いました。食べて元気になる料理を作りたいという思いは、当時も、そしてスパイスカレーを出している今も変わりません」
と話す、いずみさんは塩麹を作ったり、スパイスを調合したりするうちに、だんだんカレーを食べに来るお客さまが増えていったようです。そして『回』といえば開店当初から人気だったお茶やお酒。
「お茶やお酒は、スパイスと共通項が多いんです。お茶は味覚を研ぎ澄ませてくれるものですし、香りや味覚を楽しむという点では、ウイスキーなどのお酒もそうだと思います。ですので、今の流れは自然な感じがします。スパイスはちょっとパンチが強いんですけど、微妙な香りを使い分けていくところが面白くて、ずっと興味はあったんです」
佐野さんご夫婦はいわゆるマニアックなものが好きで、希少なお酒など、通好みを喜ばせています。
「こちらではどんなカレーがいただけるんですか?」と田中アナ。
「カレーを始めた頃はグリーンカレーやキーマカレーにアレンジで味噌や塩麴を使っていました。それが今のスパイスカレーのベースになっています。スパイスの使い方や配合を変え、夏はさっぱりと酸味を効かせ、冬はコク、深みが出るよう食材を使い分けています。旬の野菜だけでなく大豆や小豆も入ります。スパイスは作る方も食べる方もハマってしまう危険な食べ物ですね」といずみさんは笑います。
そして、食とそれを取り巻く音楽やファッション、アートなどさまざまな文化の関わりを大切にしてきた佐野さんご夫婦。これまでもたくさんのライブやイベントを企画、発信してきました。
「いろんな面白いものを見つけてきて『回』というフィルターを通してお客さんに届ける。お客さんは、『回』が見つけたものなら、おもしろいはずと参加するんです」と弓削さん。「そう思ってくださるお客さまがちょっとずつ増えたことは、とてもありがたいことですね」と俊彦さんに笑顔がこぼれます。田中アナも「ここではお腹だけでなく心まで満たされそうな感じがします」と言葉をかけます。
「コロナ禍で気持ちが沈みがちな今だからこそ、スパイスの力で元気になってもらいたいんです」と話すいずみさん。スパイスへの探求はカレーだけではありません。メニューを見つめる弓削さんと田中アナ、声を揃えて......、「スパイスコーヒー!? 初めて聞きました! 」
「はい。『Roaster's Coffee 焙煎屋』(福岡市中央区平尾・警固)の平山さんにご協力いただいて作りました。フルーティーなタイプのコーヒー豆にジンジャーやコリアンダー、チリ、花山椒を入れてブレンドしています。喉の奥で少しピリッとしますが、香り良く仕上がっています」話を聞くだけで一度飲んでみたくなりますね。
さらに2人の目を引いたのがクラフトコーラです。「まずは飲んでみてください」と目の前に出てきた茶色のドリンクを興味深く見つめる田中アナ。色がついているので何かスパイスが溶け込んでいるのが分かります。レモンとジンジャーの香りがすごくいい。一口飲んだ弓削さんは「新鮮ですね! スパイスの香りが複雑で爽やか。いわゆるコーラなんですけど、ジャンクな感じが全くしませんね」とにんまり。2人の表情がほぐれます。このコーラの複雑な味わい、決め手はやはりスパイスのブレンド。ナツメやクコの実、花山椒、コリアンダーなどのスパイスと紅茶を一緒に煮詰めたところに、レモンのシロップ煮や生姜もたっぷりと合わせています。
「このコーラなら朝から飲みたい! 体に良さそう」と田中アナも気に入ったようです。
佐野さんご夫婦は『回』を始める以前から大名で小さなバー『ベンフェート』を経営していました。弓削さんとは当時から20年のお付き合いがあり、お2人の店を幾度も取材したそうです。
「大名にこんな路地があるのかっていう場所に古いアパートがあって、そこを改装した隠れ家的なバーでしたよね」と弓削さんは当時を懐かしみます。現在は『SPICE STAND & GALLERY BEM』と名前を変えました。こちらでもクラフトコーラやチャイなど、スパイスドリンクが飲めます。
「幅広い世代間で交流ができる場所としてのカフェ、貸しギャラリー、バー。いろんな要素を取り入れていきたい」と俊彦さんは話します。いずみさんも「飲んで元気に。スパイスを食べて元気に。そしてアートを心の刺激として元気に。この3本柱でこれからも面白いことができたらいいなと思っています」お2人の新しい発信はまだまだ続きます。
最後にこれから飲食業界を目指している若い人へメッセージをいただきました。
「今はコロナなど本当に大変な時代なので、道の途中でちょっと心が折れそうになることもあるかと思います。けれど、自分がやりたいことをしっかり見据えて、身近な人の意見も時には聴きながら、絶対に諦めないでください。そうすることで素晴らしいものが生まれ、周りから認められ、喜んでいただけることになります。頑張ってください!」
常に時代の先を歩いて来られた佐野さんご夫婦。温かいメッセージをありがとうございました。
RKBラジオ「弓削聞平スマイルディッシュ」番組公式Twitter @rkbyuge 2021年2月放送
#回 #スパイスカレー #佐野俊彦 #弓削聞平 #田中みずき
ライタープロフィール:本田淑子
フードディレクター
食の企画あれこれ。魚食を盛り上げる「サカナグミ」や子ども達と一緒に料理を楽しむ
「放課後ゴハン倶楽部」なども主催。https://www.plantecook.com
*RKBラジオ「スマイルディッシュ」は2021年3月で終了いたしました
~RKBラジオ弓削聞平スマイルディッシュ(2021年3月に終了)より~
ここ数年でスパイスカレーの店が急増しました。
「8年ぐらい前からかな。天神の『ティキ』、高砂の『ガラム』がはしりで、もう今は追いかけられないくらいです」と、さすがの弓削さんもまだ足を運べていない店もあるそうです。「スパイスは、人を虜にしてしまうものがあります。素人の会社員がカレー作りにハマって、イベントに出店して楽しさを知り、会社辞めてお店出しちゃった、という人が結構いますもんね」
「そうそう! テレビ番組でご一緒しているリポーターのタケルくんもそう。カレー好きが高じて、お店始めてるんです!」と田中アナ。
さて、今回のゲストは福岡市中央区薬院の『回』。経営者の佐野俊彦さん・いずみさん夫妻にお話をうかがいました。大通りの喧騒からは想像できないほどゆっくり時間が流れる店内。「とても落ち着きますね。ちょっと古民家風で。奥に階段があって2階もゆったりとしたテーブルとソファが並びます」と田中アナ。今はスパイスカレーが人気の店ですが、スタートは家庭料理だったそうです。
「お婆ちゃんが作るような、体が喜ぶ田舎料理が好きで。旅行してはその地方の料理を食べ歩きました。そこで素材のおいしさに開眼し、昔ながらの調味料にたくさん出会いました。食べて元気になる料理を作りたいという思いは、当時も、そしてスパイスカレーを出している今も変わりません」
と話す、いずみさんは塩麹を作ったり、スパイスを調合したりするうちに、だんだんカレーを食べに来るお客さまが増えていったようです。そして『回』といえば開店当初から人気だったお茶やお酒。
「お茶やお酒は、スパイスと共通項が多いんです。お茶は味覚を研ぎ澄ませてくれるものですし、香りや味覚を楽しむという点では、ウイスキーなどのお酒もそうだと思います。ですので、今の流れは自然な感じがします。スパイスはちょっとパンチが強いんですけど、微妙な香りを使い分けていくところが面白くて、ずっと興味はあったんです」
佐野さんご夫婦はいわゆるマニアックなものが好きで、希少なお酒など、通好みを喜ばせています。
「こちらではどんなカレーがいただけるんですか?」と田中アナ。
「カレーを始めた頃はグリーンカレーやキーマカレーにアレンジで味噌や塩麴を使っていました。それが今のスパイスカレーのベースになっています。スパイスの使い方や配合を変え、夏はさっぱりと酸味を効かせ、冬はコク、深みが出るよう食材を使い分けています。旬の野菜だけでなく大豆や小豆も入ります。スパイスは作る方も食べる方もハマってしまう危険な食べ物ですね」といずみさんは笑います。
そして、食とそれを取り巻く音楽やファッション、アートなどさまざまな文化の関わりを大切にしてきた佐野さんご夫婦。これまでもたくさんのライブやイベントを企画、発信してきました。
「いろんな面白いものを見つけてきて『回』というフィルターを通してお客さんに届ける。お客さんは、『回』が見つけたものなら、おもしろいはずと参加するんです」と弓削さん。「そう思ってくださるお客さまがちょっとずつ増えたことは、とてもありがたいことですね」と俊彦さんに笑顔がこぼれます。田中アナも「ここではお腹だけでなく心まで満たされそうな感じがします」と言葉をかけます。
「コロナ禍で気持ちが沈みがちな今だからこそ、スパイスの力で元気になってもらいたいんです」と話すいずみさん。スパイスへの探求はカレーだけではありません。メニューを見つめる弓削さんと田中アナ、声を揃えて......、「スパイスコーヒー!? 初めて聞きました! 」
「はい。『Roaster's Coffee 焙煎屋』(福岡市中央区平尾・警固)の平山さんにご協力いただいて作りました。フルーティーなタイプのコーヒー豆にジンジャーやコリアンダー、チリ、花山椒を入れてブレンドしています。喉の奥で少しピリッとしますが、香り良く仕上がっています」話を聞くだけで一度飲んでみたくなりますね。
さらに2人の目を引いたのがクラフトコーラです。「まずは飲んでみてください」と目の前に出てきた茶色のドリンクを興味深く見つめる田中アナ。色がついているので何かスパイスが溶け込んでいるのが分かります。レモンとジンジャーの香りがすごくいい。一口飲んだ弓削さんは「新鮮ですね! スパイスの香りが複雑で爽やか。いわゆるコーラなんですけど、ジャンクな感じが全くしませんね」とにんまり。2人の表情がほぐれます。このコーラの複雑な味わい、決め手はやはりスパイスのブレンド。ナツメやクコの実、花山椒、コリアンダーなどのスパイスと紅茶を一緒に煮詰めたところに、レモンのシロップ煮や生姜もたっぷりと合わせています。
「このコーラなら朝から飲みたい! 体に良さそう」と田中アナも気に入ったようです。
佐野さんご夫婦は『回』を始める以前から大名で小さなバー『ベンフェート』を経営していました。弓削さんとは当時から20年のお付き合いがあり、お2人の店を幾度も取材したそうです。
「大名にこんな路地があるのかっていう場所に古いアパートがあって、そこを改装した隠れ家的なバーでしたよね」と弓削さんは当時を懐かしみます。現在は『SPICE STAND & GALLERY BEM』と名前を変えました。こちらでもクラフトコーラやチャイなど、スパイスドリンクが飲めます。
「幅広い世代間で交流ができる場所としてのカフェ、貸しギャラリー、バー。いろんな要素を取り入れていきたい」と俊彦さんは話します。いずみさんも「飲んで元気に。スパイスを食べて元気に。そしてアートを心の刺激として元気に。この3本柱でこれからも面白いことができたらいいなと思っています」お2人の新しい発信はまだまだ続きます。
最後にこれから飲食業界を目指している若い人へメッセージをいただきました。
「今はコロナなど本当に大変な時代なので、道の途中でちょっと心が折れそうになることもあるかと思います。けれど、自分がやりたいことをしっかり見据えて、身近な人の意見も時には聴きながら、絶対に諦めないでください。そうすることで素晴らしいものが生まれ、周りから認められ、喜んでいただけることになります。頑張ってください!」
常に時代の先を歩いて来られた佐野さんご夫婦。温かいメッセージをありがとうございました。
RKBラジオ「弓削聞平スマイルディッシュ」番組公式Twitter @rkbyuge 2021年2月放送
#回 #スパイスカレー #佐野俊彦 #弓削聞平 #田中みずき
ライタープロフィール:本田淑子
フードディレクター
食の企画あれこれ。魚食を盛り上げる「サカナグミ」や子ども達と一緒に料理を楽しむ
「放課後ゴハン倶楽部」なども主催。https://www.plantecook.com
*RKBラジオ「スマイルディッシュ」は2021年3月で終了いたしました
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