中洲界隈を訪れると、ふと「中島町倶楽部」を懐かしむことがあります。洗練された隠れ家的雰囲気と料理が好評を博しながら、惜しくも2019年に閉店した「とり田」系列の和食店ですが、あのDNAが別の場所で芽吹いているのをご存知でしょうか。それが今年1月5日、元料理長の納富健吾さんが早良区飯倉で独立開業した「飯倉 からき」です。
京都の老舗料亭「京料理 本家たん熊」にも9年在籍し、正統な技を修めた温厚な職人=納富さんの次なる挑戦とは? そんな好奇心を胸に、向かった先は早良街道近くの住宅街。「からき」の表札をかけた一軒家は、その静かな一画にありました。築40年弱ながら、どこかモダンな表情には周囲と一線を画す存在感が漂います。
その非凡な設計は屋内も同様で、死角や非対称の多い複雑な造りは眺めるだけで面白く、建築好きな僕には実に眼福。民家らしい温もりと非日常感が混在するバランスも絶品ですが、内装はほぼ手を加えてないと聞いて二度驚きました。そんな「からき」のメイン客席は、板場を囲む8席のカウンター。別室には個室仕様のカウンター4席もありました。
また、左右非対称の風雅な座敷には掘りごたつ8席を完備。子供連れや祝い事に使いやすく、いずれは茶会なども行う予定だそうです。加えて、2階にも雰囲気の良い空間が。天窓越しに夜空を眺めつつ、デザートや締めの1杯をのんびり楽しむのに良さそうですね。
まるで「将来飲食店をやる誰かのために建てた」ようなこの家は、納富さんにとって運命の出会いでした。「当初は都心部に出店するつもりでしたが、ここを見た瞬間に“これだ!”と思って」と目を細めます。
この理想的な城を得て、提供するディナーは8~9品構成の16,500円コース。九州各地の食材を柱に据え、京都仕込みの技で生む料理はいかなる美味でしょうか?
板場の臨場感が伝わるカウンターに着席すると、さっそく3月の旬を閉じ込めた1品目が供されました。桜の葉を豆乳や生クリームと一緒に煮出し、葛で練って固めた桜豆腐です。エンドウやインゲンなどのすり流しと、上部に乗せたウニの風味も絶妙な取り合わせ。「香りを大切に」という納富さんのテーマが、早くも鮮やかに浮きあがります。
2品目は各種山菜と春野菜を素揚げし、アクを抜きしてからおひたし状にしたもの。そこに添えた鰹のジュレと新玉ねぎのドレッシングが、この春の味にさらなる生命力を与えていました。
お造りは基本3種類ですが、鮮度や温度を重視して提供は1皿に1種類ずつ。その1つがこの対馬産の穴子で、梅肉とウドとともに賞味しました。このように小さめなポーションが多いせいか、コース全体に割烹的な気軽さがあり、お酒もいろいろと合わせやすい感じ。日本酒やワインの品揃えが良いので、ペアリングを頼むのも一興でしょう。
鹿児島産タケノコと共にいただく、福岡産ハマグリのお椀の味わいも優雅の極みでした。京都仕込みの手法で、トロトロに仕上げた長崎産ワカメがなんとも忘れ難い余韻を残します。
お椀の後には、椎茸、ゴボウ、ワラビ、カラスミ、ホタルイカなどをシャリに使った蒸し寿司が登場。さまざまな風味が絡まり合い、この日一番のカラフルな味と香りを醸しだします。
続いて甘鯛、アワビを使った2品を挟み、宮崎産黒毛和牛の肩ロースで料理はフィニッシュ。セリと自然薯、生の胡椒の効果で、最後まで香り高い“納富料理”が貫かれました。さらに練りたてのわらび餅と、アイスクリーム&フルーツの甘味をいただき、旬の贅沢が満ちた時間はゆったりと幕を閉じます。
「例えばベスト盤CDのように、1品1品に全力を注ぎたい」との言葉どおり、納富さんの料理はどれも味蕾に快い爪痕が残るものでした。和食の伝統を守りつつ、時折スパイスや洋の要素を加え、ジャンルの枠をひらりと飛び越えるセンスも小粋です。
ともあれ納富さんは、この新たな舞台で確かな手応えをつかんだ模様。「お客様にもここでは気軽に楽しんでもらいたいですね。皆さんの笑顔が僕の一番の喜びですから。ぜひ友人宅に来た感覚でお過ごし下さい」
今後は故郷の三瀬など佐賀県内の生産者と農業振興を目指したり、障害者雇用を支援する施設づくりに関わったりと、「からき」を拠点にやりたいことは山積み。そんな温かい波動が、飯倉からどんな笑顔を広げていくのか楽しみです。
この記事は積水ハウス グランドメゾンの提供でお届けしました。
ジャンル:日本料理
住所:福岡市早良区飯倉6-34-44
電話番号:092-834-5531 要予約
営業時間:12:00~15:00/17:00~24:00
定休日:不定
席数:カウンター8席、掘りごたつ8席
個室:2~4名
メニュー:ランチコース11,000円、ディナーコース16,500円
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