2024年に創業50周年を迎える辛子明太子でお馴染みのやまや。そんな福岡を代表する企業が立ち上げた「やまや総本店」が、2023年3月27日(月)遂に開業します。「Made in KYUSHU」への思いを掲げた新スポットとは? UMAGAではその全貌を3部に渡りレポートします。
第2回目は、完全予約制の日本料理店「膳」にフォーカス。「膳」を監修するアジアンナンバーワンシェフ・長谷川在佑さんと料理長・安部大志郎さんのインタビューも交え、その魅力に迫ります。
九州の魅力を伝える日本料理店「膳」へ
「やまや総本店」は「“食”に向き合う“やまやの姿勢”を体現する場所」として生まれた旗艦店です。福岡の中心地、天神や博多駅の近くでありながら、閑静な雰囲気のある白金に堂々オープン。四季の彩りに満ちた中庭をぐるりと囲むように店舗スペースが築かれています。店内は2エリアに分かれており、一方は自慢の辛子明太子や九州の旬をランチやスイーツで楽しめる「白金小径」。そしてもう一方が、今回ご紹介する完全予約制の日本料理店「膳」のエリアとなっています。
「膳」は夜のみ営業のお店で、建物の左側にある門扉(写真)がその入口です。この門扉は、この土地に元々建っていた昭和期の邸宅の一部を大切に利活用したものだそう。優しく灯る明かりと風情ある佇まいに誘われて、中へと歩みを進めます。
案内された店内を見て、思わず“素敵!”と唸りました。カウンターを主体に構成された店内はシックでモダン。しかし、木の温かみや和の趣がそこかしこに散りばめられており、心安らぐ空間となっています。ガラス張りとなった右手奥にはライトアップされた中庭が広がり、春は桜を愛でながら食事やお酒を味わえるというのも粋です。
「膳」にかける意気込みをインタビュー
店を共に創るパートナーとして監修を手掛けるのは、東京の日本料理店「傳(でん)」の店主・長谷川在佑さん。料理長として店を盛り立てるのは、京都の懐石料理店や割烹、九州の郷土料理店でも経験を積んだ安部大志郎さんです。九州をテーマにした割烹料理でゲストをもてなす「膳」にかける意気込みや、九州に対する熱い思いを伺いました。
「僕のような九州ファンを増やしたい」(長谷川在佑)
やまやと共に取り組むことになったきっかけや信念を、長谷川さんはこう話します。
「山本社長の“九州の魅力を世界に”という思いに共感しました。僕は東京出身ですが、九州の食材や九州の人に魅せられて今ではすっかり九州が大好きに。僕のような“九州ファン”を増やすお手伝いならできると考えました。
それに、“この店にまた行きたい”と思う一番の決め手は、魅力的な人がそこにいるからだと思うんです。僕自身、剛さん(『Goh』シェフ・福山さん)や拓ちゃん(『藁焼 みかん』店主・末安さん)に会いたい、元気をもらいたい!と、福岡を訪れますし、“人に魅力を感じる場所が好き”という方は海外にも本当に多い。九州の人の魅力を伝えられたら、もっと世界中の方を福岡や九州へ呼び込めると思います。『膳』を“安部ちゃんに会いたい”と思ってお客様がやってくるような店にしていきたいですね」
「僕は“お客様の笑顔を最優先にするホスピタリティ”を最も大切にしており、その思いは空間にも反映されています。『膳』には完全個室を作らず、半個室やテーブル席からもカウンターに立つ安部料理長の姿が見える造りにしました。スタッフはすべてのお客様に目を配ることができ、お客様にも調理中やサービスの姿をお届けできます。互いに姿が見え、話ができ、良いことも悪いことも言ってもらえるような空間が僕は好きなんです。そこに温かみを感じるし、そんなやりとりから人の魅力が伝わり、お客様の笑顔に繋がると信じています」
「チーム一丸で全力のおもてなしを!」
研修生として「傳」に入り、約1年間長谷川さんの元で修業を積んできた安部料理長。“在佑マジック”とも呼ばれる世界屈指のホスピタリティをその身に叩き込んできたと話します。
「『傳』の料理人、女将さん、スタッフはみんな『お客様に全力で応える、絶対に満足していただく』という気概を強くもっています。一人ではなく、各自が100%の力を出す。そんなチーム力で、あの“世界一楽しいレストラン『傳』”を創り上げているのだと体感して学ぶことができ、ものすごくエネルギーをいただきました。僕だけでなくスタッフも共に研修させていただいたのですが、今後は『膳』チームとして、学んだことを全力で出していきます!」
「また、料理は “タイミングと温度帯を逃さないこと”も重要。お一人ごとに異なるペースや食べられる量をしっかりと見極め、お客様のタイミングに合わせて料理を最高の状態に仕上げることも改めて心に刻みました。『膳』では『Made in KYUSHU』をテーマにしたコース料理をご用意しています。月替りといった大きな括りではなく、その時期に最も美味しくなる食材や採れたての素材を九州各地から選りすぐり、その日ごとの旬をお届けします」
生産者の元へ伺い、アクティブに表現!
「作っている人に惚れ込まないと、その食材を真に引き出すことはできないと思うんです。現地へ足を運び出会った人、作られているモノ、その思いも含めて『膳』で伝えていきたいですね。生産者の方にも僕たちの顔も知っていただき、単に野菜を作るのではなく、チームの一員として一つの料理に携わっているという感覚になってもらえたら嬉しいですね。『膳』も九州全体も、どんどん面白くなっていくと思います」と長谷川さん。
長谷川さんに続き、安部料理長も声を弾ませます。
「先日はスタッフ全員で、糸島の『おき農園』さんへ伺いました。箱に入って調理場に届けられる野菜を見るのと、畑で育てられている野菜を見て話をするのでは大違いです。『傳』のスペシャリテの一つである野菜料理『畑の様子』を受け継ぎ、『膳』では野菜を多く取り入れたメニュー構成を考えています。さらには玄界灘の天然魚や糸島豚、島原の海苔、特Aランクのさがびよりといったお米、僕の実家で育てている原木椎茸をはじめとした故郷・大分の食材も。魅力的な食材をどんな風に楽しんでいただこうか、ワクワクが止まりません」
随所に散りばめられた九州の魅力
大分県の安心院ワイン、九州各地の地酒、八女のお茶、陶芸家の飯田隼人さん(唐津)や北岡幸士さん(福岡)による器をはじめ、料理を引き立てる飲み物や器にも九州の魅力が満載。有田焼の窯元「安楽窯」に特注したという炊飯用の赤い土鍋の持ち手は、何と“明太子の形”になっていました!
さらに空間を見渡せば、鹿児島県霧島の赤い土壁に、左官職人さんが1万4000粒もの赤い石を埋め込んで削り上げたという床まで……。やまやのイメージカラーである赤をさり気なく取り入れた職人の意匠にもグッときます。
「“この場所に来てよかった”と言っていただけるように、料理、空間、サービスも全力で! チーム一丸となってお客様に心から楽しんでいただける店を造っていきたいです」と、安部料理長。
「京都などでしっかりと日本料理の経験を積んでいる安部料理長なので、料理に関して僕の方から“こうしてほしい”というような要望は一切ありません。食べ手のことを思いながら料理を作る、そんな安部料理長の良いところを出しながら、スタッフ全員で楽しみながら『膳』を盛り上げていきたいです。そうして、僕のような“九州ファン”をどんどん増やしていきたいですね」と長谷川さんも笑顔に。
――広げた枝葉に蕾が付き、この春ついに花を咲かせる『膳』。心躍る九州の味や空間、おもてなしが待っています。
※左:「傳」店主・長谷川在佑(はせがわざいゆう)
家庭の温もりを大切にしながら、伝統的日本料理を洗練と親しみやすさを合わせ持つガストロノミーへと昇華。“和食”の魅力を世界に発信する第一人者。2022年「世界のベストレストラン50」にて20位、同年「アジアのベストレストラン50」で1位に輝き、「ミシュランガイド東京2022」において二つ星を獲得。著書に『普段着の和食がおいしい理由』(新星出版社)など。
右:「膳」料理長・安部大志郎(あべだいしろう)
山に囲まれた豊かな地・大分県宇佐市院内町生まれ。母の昔ながらの丁寧な手料理で育てられ、日本料理に興味を持つ。京都の懐石料理と割烹での経験を経て「いつかは九州で」との夢を叶えるべく2020年福岡へ。九州の郷土料理店を経て現職に就任。
*第3回「白金小径」のご紹介記事は、3月27日(月)を予定しています。
《やまや総本店 膳(ぜん)》
福岡市中央区白金1-5-5
092-406-8820 ※完全予約制。電話受付時間12:30~17:30(定休日を除く)
この記事はいかがでしたか?
リアクションで支援しよう