食の街・福岡がこっそりと誇る路地裏の名店3選 |食の専門サイト”UMAGA”セレクト
カウンターで多彩な鍋から“一人一鍋”選ぶ新スタイル 鍋ばた 新川橋
桜十字病院裏の路地にある「鍋ばた 新川橋」。目印は古民家に掲げられた「佐竹会館」と屋号書かれた小さな看板です。福岡市で人気の「炉ばた 雷橋」「炉ばた 三光橋」などを営む佐竹孝雄さんが開いた、雷橋系列6店目となる酒場で、オープンは昨年12月。福岡市を代表する炉端焼き店を営む佐竹さんが鍋メインで勝負する同店。どんな店なのか行ってみました。
こちらのメインは鍋料理。炉端焼きをヒントに鍋を1人前からカウンターで楽しめるのが特徴です。
鍋のメニューは「基本鍋」(1人前1,500円)を柱に、ほうれん草と豚肉のみとシンプルな「常夜鍋」(時価/取材時は1人前1,000円)、「ねぎま鍋」(時価/取材時は1人前2,000円)、「かき鍋」(時価/取材時は1人前2,500円)など季節の鍋が常時10種程度があり、追加具材も豊富にそろいます。基本鍋以外の鍋メニューは仕入れにより価格が変動するのでスタッフに確認してみてください。
「基本鍋」の具材は天草大王、鹿児島豚、魚介類1種、鶏つくね、おすすめ野菜6種。出汁が選べるのがポイントで、あっさりとしたかつお醤油、天草大王のガラを炊いたこってり系の鶏ガラ味噌など6種から好みの味わいをチョイスできます。この日は堀田舜介店長おすすめのかつお醤油をお願いしました。
鍋がメインの店ですが、単品料理の品数も豊富です。魚介の刺身、野菜料理など多彩なメニューがそろっていて悩みます。この日はメニュー表に赤線が引かれ、さらに堀田さんのおすすめでもある「天草大王レバー刺」(600円)をいただくことにしました。
聞くと「基本鍋」にも使う天草大王は丸々一羽仕入れる必要があるそうで、レバーも部位の一つに含まれているとのこと。ゆえに手頃に提供できるらしいのですが、それにしてもこれで600円とは太っ腹な価格です。
レバー刺を食べ終わるころに「基本鍋」ができあがりました。最初は天草大王のムネ肉とモモ肉、豆腐をいただきます。天草大王はプリプリとした弾力のある食感で、噛むほどに旨味が染み出してきます。醤油系の出汁には自家製ポン酢をかけて味わうのですが、これがとてもよく合います。白菜やキノコ、白ネギもペロリと食べてしまいました。野菜や魚介類、肉など追加具材をはじめ、炊きたてご飯にこだわる「雑炊」(400円)、「うどん」(300円)などシメのメニューもあるのでお腹に余裕があれば頼んでみるのも良さそうです。
こちらは人気の「鴨鍋」(時価/取材時は1人前2,500円)です。青森県産の鴨肉の皮目を焼き、出てきた脂で白ネギを炒めるところから調理スタート。ジュージューと香ばしい音が食欲をそそります。鴨肉は皮目を焼いたら一度取り出し、スタッフが包丁でカット。ほかの具材を煮込んだ後、その肉を出汁に浸し、しゃぶしゃぶ風に味わいます。
鍋メニューは豊富かつ、季節ごとに少しずつ変わるので、その時の気分で選ぶ楽しさもぜひ体験してみてください。
「鍋ばた 新川橋」の詳しい情報はコチラ
シェフの想いと素材の力ほとばしる!昼夜各1組限定、とっておきの隠れ家へ Agriculture(アグリキュルチュール)
南区の閑静な住宅街に、ひっそりと佇むレストランの名は「Agriculture」。「アグリキュルチュール」とはフランス語で「農業」を指す言葉です。「農」は生産者、「業」には自身の仕事(料理)という意味も込め、「生産者と料理人の垣根を超えて農業に目を向け、未来に繋がる料理を……」との思いで名付けたそうです。
「Agriculture」では、「世界三大珍味」と呼ばれるような高級食材を使いません。九州の自然栽培や固定種在来種、無農薬野菜をはじめとした元気いっぱいの素材を主役にコースを組み立てます。
オープンキッチンでイキイキと腕を振るうのは、オーナーシェフの小島智典さん。“料理の鉄人”でもその名を轟かせた「KOJIMATEI」の小島孔典シェフを父にもち、父の姿に憧れてこの世界に飛び込みました。父の元や日本料理店で下積みし、浄水通の「フランス料理KOJIMA」では15年に渡りシェフとして活躍。しかし、段々と“自分の料理を作りたい”との思いが高まっていったと話します。
「大きな転機は約6年前です。当時の僕には健康的な食事という概念はあまりなく、体重も増え体調を崩し、薬に頼る日々が続いていました。そんな僕を心配した妻が“普段の食事から見直してみよう”と言ってくれたんです。そこで、改めて食材について勉強することに……。やがて『この野菜や肉は、どんな人がどんな風に育てているのだろう?』と自分の目で確かめてみたくなり、そこから生産者の方々を訪ねるようになりました」「そうして真摯な作り手の方々に出会い、“農法、土壌によって食材の味は変わる”ということを知り、感銘を受けたんです。食材を見直すことで体調も良くなったことから、『身体の中から喜びを感じる料理』という自分の目指す道が決まりました。コースでお出しする食材、調味料、器をはじめとしたテーブルウエアに至るまで、思いを込めて作られたものばかりなので、一つひとつ楽しんでいただけると嬉しいです」。
そう笑顔で話す小島シェフの目の前には、野菜や果物、米、調味料がズラリと並んでおり、これがどんな料理に変わるのかワクワクが止まりません。
現在はランチ、ディナーともに各1組限定(各4名以上は要相談)で、2日前までの予約制となっています。コースの所要時間は2時間半から3時間ほどで、ゆったりと食事を楽しめますよ。今回は約11品が登場する「ディナーコース」(16,500円)をいただきました。
最初に供されたのは、サクッと弾ける食感と香味がたまらないアミューズです。
「成清海苔店」(柳川市)謹製の優等海苔に、無肥料・無農薬で育った「かえるすたいる」(鹿児島)の緑米を重ね、上には「なかむら耕作所」(熊本)の新生姜で作ったピクルスと長崎産のヤリイカが。緑米は50度洗いして「玉名牧場」(熊本)の仔牛のボーンブロス(出汁)で炊き、薄く伸ばして焼いて、提供前に「堀内製油」(熊本)のなたね油で揚げて……と、見えないところまで何とも手が込んでいます。
続いては、車海老と帆立を使ったオードブルを。サッと湯通しして甘味を引き出した車海老とホタテの美味しさもさることながら、主役となるのはその上。在来種の野菜を育てる“種採り農家”「岩崎農園」(長崎)の「黒田五寸人参」で作るムースと「玉名牧場」の仔牛のコンソメジュレです。
続く肉料理は、イギリス・ウェールズで放牧されている最高級ラム「ウェルシュラム」のロースト。雑味のない上品な旨味にうっとり……ですが、共に主役を張る「日本ほうれん草」の美味しさにも驚きました。このほうれん草は、「池松自然農園」(福岡)にて無農薬・無化学肥料で栽培されているそうで、根っこまで食べられるのは健康な証。甘く、香り良く、とにかく味が濃くて、オーガニックのディションマスタードを効かせたクラシカルなソースに負けることなく光っていました。
店内の一角では自家製のラー油やグラノーラに加え、「なかむら耕作所」や「マルマメン工房」といった縁のある生産者さんの商品も販売していますよ。
単に素材を押し出すのではなく、コンソメや重奏感のあるソース、食材の火入れといった確かなフランス料理の技で食材の味や香りを一層高めている小島シェフの料理。満腹になっても食後感は軽やかで、何より「カラダが喜んでる!」を実感できるはず。大切な人との食事や、自分を労りたい時に訪れたい一軒です。
「Agriculture」の詳しい情報はコチラ
酒肴を作らせたらピカイチ!八女愛にあふれた創作居酒屋 米と葡萄 信玄酒店
高宮通りから一本路地に入った住宅街にたたずむ「信玄酒店」。店の外壁に彫られたブドウと稲穂、家紋のような模様がインパクト大です。店主の大谷さんのお名前が信玄であることが店名の由来で、“米と葡萄”と冠すように、日本酒とワインに合う料理をコンセプトに掲げています。
席に座って、最初に提供されるのが「信玄酒店のこだわりお通し」(500円)。10種以上を用意するお通しの中からお好みで3種選べるのが特徴で、豆皿の美しさも相まって、見た目からテンションが上がります。浅漬、珍味、おひたし、自家製ハムなど、料理のバリエーションも豊富で、まずはこの3品をアテに1杯目を楽しむのが「信玄酒店」流。
魚料理に定評がある「磯ぎよし」で働いた期間が約7年と長かったこともあり、大谷さんは目利きに優れ、魚をよりおいしく食べさせる術にも精通しています。ゆえに、ほとんどのお客が注文するのが「信玄酒店の刺し盛り」(1人前1480円・注文は2人前~)。その日おすすめのネタ7種がのり、この日はカンパチ、アナゴ、サワラ、マグロ、カマス、鯛の昆布締め、イカをいただきました。
次にいただいたのは人気メニューの一つ、「らんらんらん」(1300円)です。だし巻き玉子の上にイクラ、トビッコをのせ、3種の卵を使っていることがメニュー名の由来。卵3個を使ったフワフワ食感のだし巻き玉子は、一口目からだし汁が染み出し、玉子焼き好きにはたまらない完成度の高さ。イクラの塩気があることから、だし巻き玉子自体は薄味に仕上げており、一緒に食べるとちょうどいい塩梅になります。トビッコのプチプチ食感もアクセントになっており、これはお酒との相性抜群! 日本酒や白ワインが飲みたくなること請け合いです。
日本酒とワインに合う創作料理をコンセプトに掲げていますが、実は裏テーマもあります。それが大谷さんの故郷である八女の食の魅力発信です。日本酒のラインナップには必ず八女市の老舗酒蔵「繁桝」の銘柄を取り揃え、さらに「八女上陽豚のロースト」(1800円)、「八女上陽豚の自家製ソーセージ」(2本1400円)、「八女玉露と焙じ茶の生チョコ」(500円)など、八女の逸品を使ったメニューも用意しています。
2014年に薬院でオープンし、2020年4月に現在の平尾に移転した「信玄酒店」。コロナ禍を機にテーブル席をすべて個室仕様にするなど、お客さん想いの姿勢も好印象。個室は全5室なので、事前に予約しておくのがベターです。
「米と葡萄 信玄酒店」の詳しい情報はコチラ
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