九州産食材と伝統技法の麗しきコラボ。癒し系イタリアンを今泉で愉しむ

イタリアの権威ある料理雑誌「ガンベロロッソ」が、日本のリストランテで最高点を与えた「ポンテ・べッキオ」。その大阪の名店の元料理長が店を構えたと聞いて、「aga-ri」を訪ねたのは３年前でした。その時過ごした時間は、今も記憶に快い余韻を留めています。
が、コロナ禍を経て店のスタイルに少々変化があった模様。オーナーシェフ・上里（あがり）克彦さんの笑顔が懐かしくもあり、久々に再訪してみました。

店の大半を占めるのは４席のカウンター。一見カジュアルですが、深紅のチェアや鮮やかな生花、蓮のレリーフなどが独特の気品をもたらしています。非日常に浸りながらリラックスできる、硬軟のバランスが絶妙な空間です。

他にも２名用テーブルと、最大４名収容の個室を完備。どの席にもそれぞれ良さがあり、その辺も記念日などの大事なシーンで選ばれる理由でしょう。

けれども一番の理由は、上質な料理と温かな接客で常連の心を捉え続ける上里さんの存在に尽きます。しかも前述のように、コロナ禍に仕事のあり方を見つめ直し、癒しの空間をさらに磨きあげようと努力中。例えば３種類あったディナーコースを13,750円のみにして満足度を高めたり、もてなしの精度を上げるため予約を１日２組に絞ったり──「aga-ri」の目指す「美味しく楽しいレストラン」は、そうした試みの先にあると上里さんは語ります。
「年に数回“生きてて良かった”と思う瞬間がありますよね。ここに来れば常にその１回があり、明日に向かう元気が得られる。僕はこの店をそんな特別な場所にしたいのです」。職人の誠実さが滲むその言葉は、ほどなく美麗な料理に姿を変え、忘れ難い時間を演出してゆきます。

こちらのディナーコースは、全10品に小菓子・コーヒー等が付く構成。伝統技法と国産食材を組み合わせ、日本ならではのイタリアンを表現する──というテーマは「ポンテ・ベッキオ」譲りです。とくにこだわるのが、九州各県で出会った生産者から直送される見事な食材だとか。
「実は大阪時代から九州産の食材が大好きで」と上里さん。「それが福岡で独立する決め手になりました。朝まで植わっていた野菜が午後には皿の上にあるなんて、こんな幸せな環境はないですよね」と微笑みます。

家庭菜園さながらの野菜をチーズフォンデュ風にいただく、３品目のサラダにはそんな九州の恵みがたっぷり！　ソースは春らしく軽いエスプーマ仕立てで、チーズは嘉麻市在住のイタリア人が作ったものを使用しています。

手品風のパフォーマンスとともに供された４品目に続き、５品目にも遊び心が潜んでいました。蓋を開けると煙が立ち込め、その奥からスッポンやナツメなどをあしらった薬膳スープが登場。体に良い玉手箱＝「浦島逆太郎」と命名された滋味深い一杯です。旨味は濃くとも味付けは淡く、癒し系と呼べるヘルシーな仕上がり。他の料理も同様で、これなら10品を楽しく完走できそうです。

メインはイタリア産仔牛ロースの炭火焼き。これも「ポンテ・ベッキオ」仕込みの技術を応用した珠玉作です。肉と皮の間の脂を巧みに焼き切ることで、しっとりした舌触りと極上の歯応え・野性味を両立。その味わいに寄り添う、フレッシュな佐賀産アスパラのミラネーゼ風も名脇役でした。

料理の末尾を飾るパスタは好みの量で茹でてもらえます。この日は糸島産アスパラの軸部分をピュレにし、九州産小麦と広島産の卵で打つタリアテッレに絡めた一皿。春の香りと豊かな風味が渦巻く逸品は、彩り豊かなディナーを最高の形で締めくくりました。他の料理と同様、その味から伝わるのは、まぎれもなくレストランでしか出逢えない幸福。そうした一品一品の積み重ねが、そう、「生きてて良かった」との感動をつむぐのでしょう。

謙虚で献身的な店主が作る、食材への慈しみが溢れた料理。そこから生まれる優しい波動は、今回も無類の気持ち良さを与えてくれました。だから日常に素敵な何かが欲しくなった時、きっと僕はまた上里さんの笑顔を思い出します。それほどまでに、ここは“心に効くレストラン”なのですから。

なおソムリエでもある上里さんが選ぶ、ハイコスパなペアリング（４杯6,600円、６杯8,800）もかなりお勧めですよ。

この記事は積水ハウス グランドメゾンの提供でお届けしました。

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