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那珂川の一軒家。川のせせらぎを背に、創意とサプライズに満ちた料理を

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「大切な人と特別な時間を過ごしたい」そんなハレの日には、料理、空間、そしてロケーションまでも記憶に残る、唯一無二のレストランへ足を運びませんか? 天神から車を走らせること40分ほど。たどり着いたのは、那珂川の上流「中ノ島公園」のほど近く、清らかな川沿いに立つ「イタリア料理 吉越」です。

那珂川 イタリア料理 𠮷越 外観

今年6月に開店したまだ真新しい一軒家は、オーナー夫妻それぞれが営む2つの店舗と自宅が複合した造りになっています。駐車場の正面にあるのがパティシエの猪野千寿穂さんによる焼き菓子専門店「pasticceria CINO」。そして向かって左側、川沿いにあるのが今回お邪魔するレストラン「イタリア料理 吉越」です。暮れなずむ空に川のせせらぎ、鳥や虫の声……なんて素晴らしいロケーションなんでしょう。まるで日本料理店のような佇まいにも驚きながら、店内へと足を進めます。

那珂川 イタリア料理 𠮷越 内観

靴を脱ぎ上がった先で目に飛び込んできたのは、凛とした和の空間、8席の掘りごたつ式カウンターです。中心には白いコック帽とコックコートに身を包んだオーナーシェフの𠮷越謙二郎さんが立ち、笑顔で迎えてくださいました。まずは𠮷越シェフの経歴をご紹介しましょう。
日本におけるイタリア料理の先駆者・落合務氏に師事したことから、𠮷越シェフの料理人人生はスタート。イタリア料理の基礎を学び、その後は「ひらまつ」へ入社。29歳で東京・代官山の「リストランテASO」のシェフに就任し、そこでミシュランガイドの二つ星を獲得しました。その後も福岡天神や銀座のASO系列店のシェフを務め、奈良の「リストランテ オルケストラータ」ではオープンから僅か半年で一つ星を獲得。箱根のホテル「THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 仙石原」の立ち上げも手掛けるなど、約28年にわたり「ひらまつ」のイタリア料理部門の統括シェフとして腕を振るってきました。

では「そんな有名シェフがなぜ那珂川に? なぜ和の趣の店を?」そう思ったのは、私だけではないはず。食事をいただきながら、その秘密を紐解いていきましょう。

那珂川 イタリア料理 𠮷越 料理

夜は「季節のディナーコース」(21,500円)のみで、前日までの予約制となっています。最初に供されたのは、那珂川の川べりの情景を表現したという突き出し。花鉢に川の石や苔を敷き、小枝や花を生け込んだ盆栽のような一品です。枝に下げられたフリットを摘み取るようにして頬張ると、中からは天草岩牡蠣と「まるちーず」のペコリーノチーズの旨味がとろり。那珂川産のプチトマトには、キャラメリゼしたナッツやエピスを付けてあり、甘味や香りが弾けます。
ちなみに、用いる器のほとんどは唐津焼「三藤窯」の三藤るいさんに焼いていただいたものだそうですよ。

那珂川 イタリア料理 𠮷越 料理

「奈良でシェフを任されていた時、地元生産者の方との距離の近さや地産食材の力強さに心を惹かれました。独立するなら、生産者の方と密にやり取りできる、良い関係を築ける場所がいい! そう考えてたどり着いたのがこの那珂川市です。九州、福岡、そして那珂川は本当に食材に恵まれた土地。それにこの『まるちーず』のペコリーノチーズは、近所に住むマルコさんが、トスカーナから輸入しているものなんですよ。これがミルキーで美味しくて!」
𠮷越シェフはそう言って目を輝かせます。

那珂川 イタリア料理 𠮷越 料理

続く2品目は流しそうめんから着想を得たという冷たい一品。箸にカッペリーニが巻き付けてあり、その上にはオシェトラ キャビアも。ゲストの目の前で削った鰹節をふわりとのせて供されます。器の中には、シジミをベースにしたアクアパッツァのソース、じゅん菜、オクラ、トマト、キュウリなどの夏野菜もふんだんに。土台のソースがしっかりとしたイタリア料理の技法で作られているため、見た目は和の趣なれど、口の中は確かにイタリアン! 太陽の光を感じるような夏の涼味に、思わず白ワインが欲しくなります。

「箱根・仙石原のホテルは朝食に日本料理を出していて、そこでは和食の料理長に日本料理の技を習いました。それと同時に、平松宏之社長のフレンチのソースについても学ぶことに。イタリア料理とはまた違う素材の引き出し方を知り、これを取り入れたい、もっと自由に自分の料理を表現したいと考えるようになりました」と𠮷越シェフ。

この日のコースはさらに、蒸しアワビ、車海老、“きみえおばあちゃんの”里芋にサルサヴェルデとバルサミコのジュレをかけた冷前菜、焼き切った鳩ガラを粉砕し、まるでコーヒーのようにドリップするスープと続きます。小鳩のモモ肉を使ったトルテリーニ(詰め物パスタ)、ローストした小鳩の胸肉とカチョエペペ風のリゾットを有明海苔で巻いて食べる温前菜にも、これまで味わったことのない美味しさがありました。

そして魚料理にも思いがけないサプライズが! これは動画でお見せしましょう。博多織の包みを開くと、中には庭で育てているというハーブのブーケが差し込まれたパイ包み焼きが。そこへマグロ節の一番出汁を注いで料理は完成。パイをサクッと割った中には、サフランなどで香り付けたハマグリ、穴子、渡り蟹でとったスープと、蒸し焼きされた甘鯛の身が入っていました。那珂川市「坂井農園」のパプリカや大根を始めとした野菜も名脇役。目で見て香って、味わって、パイを割る音や食感までも楽しい……、五感に響くとはまさにこのことですね。

那珂川 イタリア料理 𠮷越 料理

肉料理には大分県産の豊後牛ヒレのローストが登場。赤身の旨味をしっかりと感じられるよう、あえて脂身のくどさがないA4ランクを選んでいるそう。上には卵黄、赤ワイン、エシャロットなどで作るサバイヨンソース、底にはパルメザンチーズやベーコンを加えた生クリームソースが敷かれています。食べ心地は軽やかながらも味わいはぐっとクラシカル。正統派なイタリアンの美味しさを感じさせてくれます。

さらに𠮷越シェフが「お肉同様に野菜も主役なんです」と言う通り、添えられたアスパラガスとタマネギの美味しいこと! 「坂井農園」のアスパラガスはその新鮮な風味を活かすためにサッと茹で、那珂川で循環農法を行う「ふじもり農園」のタマネギは皮付きのまま塩窯で2時間ほどじっくりと焼いて甘味を引き出しています。肉料理を提供する前に、塩釜の状態(写真)を見せてくれるというプレゼンテーションにも、素材や生産者の方へのリスペクトを感じました。

コースはこの後、日替わりのパスタ料理、甘味、「pasticceria CINO」の焼き菓子と食後のドリンクが供されて終了。甘味をいただく際、もう一つ心踊るサプライズがあったのですが、それは実際に出かけてからのお楽しみです。

那珂川 イタリア料理 𠮷越 シェフ

座右の銘は「守破離」と話す𠮷越シェフ。
「道の世界は料理の世界とも繋がっていると考えています。『守』は師匠の教えを守り、型や技を確実に身につけること。『破』は他流派を覚え、良いものを取り入れ発展させること。『離』は師や流派を離れ、これまで学んだことを忘れずに自分独自の一流を編み出すことです。守破離のどの位置にいるのか、常に自分に問いながらではありますが、この地でイタリア料理をベースにした“𠮷越料理”を作り上げたいんです。人の縁が料理の幅を広げると私は考えているので、この地でやりたいこと、出会いたい方はたくさん! 楽しみは尽きません」。

創意に富みながらも、根底にはしっかりとイタリア料理の世界が広がっている――。そんな𠮷越シェフの料理は、まだまだ進化を続けていきそうです。ディナーに加え、3種類のランチ(5,770円~)も用意されていますよ。記念日には「pasticceria CINO」にケーキをオーダー(3日以上前に要予約)することもできます。このレストランなら、きっと忘れられないひと時を過ごせるはずです。

イタリア料理 吉越
福岡県那珂川市市ノ瀬615番
092-408-1989 完全予約制

店舗名:イタリア料理 吉越
ジャンル:イタリア料理
住所:福岡県那珂川市市ノ瀬615番 イタリア料理 吉越
電話番号:092-408-1989  完全予約制
営業時間:11:00~OS13:00/17:00~OS19:30
定休日:日曜、第1・3月曜
席数:カウンター8席
個室:なし
メニュー:Pranzo A 5,770円、Pranzo B 8,860円、Pranzo C 11,550円、ディナー:21,500円、グラスワイン1,200円~
URL:https://yoshikoshi.jp

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この記事を書いたひと

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