踊るシンガーソングライター久保田利伸の功績を松尾潔が解説
かっこいい!と声をあげずにはいられない踊るシンガーソングライター久保田利伸さんが61歳の誕生日を迎えた。その彼の足跡を、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演した音楽プロデューサーで、久保田さんと親交が深い松尾潔さんがたどった。
踊りながら自分で曲も作る「センセーショナル」な登場
7月24日は久保田利伸さんの61歳の誕生日です。
去年60歳になられた時も「久保田さんって還暦なの?」と各方面から聞きましたけど、今年は当然ながらプラス1歳の61歳になられました。年々、音楽の説得力は増していくのですが、イメージとしてはもうタイムレスな存在になっていることを痛感します。LIVEに参加したことがある人は分かると思うのですが、とにかく彼は歌うだけではなく、よく動くんです。ここがまさに新しかったところで、一応分類としては「シンガーソングライター」なのですが、あんなに踊りながら自分で作った曲を歌う人はいなかった訳じゃないにしても、やっぱりセンセーショナルな登場だったんですよね。
久保田さんは1962年生まれ。大学を卒業した後の1986年に歌手デビューしました。デビュー前から田原俊彦さんのヒット「It's BAD」の作曲家として注目される存在でした。そのセルフカバーや、いろんなR&Bアーティストの歌真似を含む「すごいぞ!テープ」という自主制作デモが、デビュー前にマスコミ関係者にばらまかれたんです。まず曲を作れる、もうびっくりするほど歌がうまい、加えて軽快なダンサーでもあるという、つまり1人で全部できちゃう人が日本にも出てきたんだ!という、センセーショナルな登場だったんです。それまでは曲を作る人は何となく「先生」と呼ばれるようなイメージがあったわけですよね。別の言い方をするなら、踊りながら歌う人には、自分で曲を作っているイメージがなかったということでもあります。
全米デビューを経て、「ネオソウル」を日本に定着させる
久保田さんというと、ダンサブルな歌のイメージが強いと思いますが、「Indigo Waltz」や「Missing」はR&Bの世界でいうところのスロージャムと言われる、トロトロの感情を呼び起こすような甘~い曲も作って歌いこなす人なんです。
彼のキャリアが大きく変わったのは、1990年代の半ばにアメリカデビューしたことだと思います。日本でデビューされてほぼ10年後の1995年に「Toshi Kubota」名義で全米デビューを果たします。アルバムを3枚リリースし、黒人音楽シーンにおけるレジェンド的なテレビ番組「ソウルトレイン」に日本人歌手として初めて出演したんです。僕みたいに音楽を生業にする人間からすると、大谷翔平選手がMLBオールスターゲームに出るぐらいの感慨が当時ありましたね。僕自身も90年代にR&Bジャーナリストとしてロサンゼルスでの「ソウルトレイン」収録に何度か行きましたが、まさかそこで、普段東京で他愛もない話をしている久保田さん(笑)が歌うなんて! 本当にすごいことだなと感動したものです。残念なことにアメリカでの商業的な結果がすごく良かったわけではありません。でも特にこの「Breaking Through」が収録されている「Time To Share」という3枚目のアルバムは、リリースした2004年よりも20年近く経った今の方がネオソウルの名盤として評価が高いです。
ネオソウルという、その後のR&Bの世界的な潮流をいち早く日本で成功させたということも、このアルバムにタイムレスな価値を与える理由なのかもしれませんね。
プロデューサーとして音へのこだわりを追求
久保田さんの曲は新譜として出た時にまず「かっこいい!」と思うんですが、5年10年寝かせて聞いてもかっこいいんですよね。彼がシンガーソングライターとして素晴らしいのは勿論ですが、実はプロデューサーとしての才覚も高くて、音全体に対しての目配りがむちゃくちゃ厳しいんですよ。僕が仕事をしてきたアーティストの中でも一番と言ってもいいぐらい、こだわりの音作りをします。ああ見えて、自分でデモの打ち込みなどもやる方ですからね。本当に誰もが羨むようなスキルと才能を併せ持った久保田利伸さんが本日61歳になられたということで、最後に僕自身、気に入っているリミックス「LOVE RAIN ~恋の雨~(松尾潔リミックス)」を聞いていただきたいと思います。(YouTubeはオリジナルバージョン)
人を踊らせるために、必ずしも歌手が踊らなくてもいいんですよ。でも踊りながら歌う人に身を預けると「こんなに気持ちいいんだ」と思いますよね。久保田さんには、プロデューサーとしてのクールな視点とパフォーマーとしての肉体性の高い両立を感じます。彼と出会ってから、こんなに才能あふれる人がいるのかとハッピーな驚きの連続です。
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