キネマの月巷に昇る春なれば
この一節は、大正から昭和の時代にかけて飛行機や天体、少年などをモチーフに、モダンな小説を発表した稲垣足穂(イナガキタルホ)の短編小説に添えられたサブタイトル。そんなタルホの世界観を表現した小宇宙的な空間が、ギャラリー&ワインバー「キネマの月」です。
オーナーは自然派ワインバーの草分けでもある天神南の「Yumekichi Wine」で店長を務めた増田百合花さん。ワインを片手に美術や文学、音楽などの芸術を愉しむサロン的な店として、2020年12月に独立オープンしました。
春吉の細い小路にある店のドアを開けると、三角屋根の傍らに登る月とシルクハットにマントを着た人物を描いた油彩画が迎えてくれます。作者は百合花さんの父親である画家の大月雄二郎氏で、タイトルはズバリ「キネマの月」。学校の同窓であるタルホの代表作「一千一秒物語」に着想を得た作品で、さらにその画題を店舗設計に落とし込んだ空間がワインバー「キネマの月」というわけです。
グラスワインはシャンパーニュ1種類、白・赤それぞれ5種類ほどで、すべて自然派のラインアップです。百合花さんのオススメによる1杯目は、ドイツ西部ファルツ地方の若手生産者が造る「SECKINGER」の白。ドイツワインでは珍しいシャルドネ100%で、かなり酸味を立たせたピュアな味わいの中に、ドイツらしい硬質なミネラル感があります。
お通し(チャージ500円)に出てくる突き出しは日替わりで、この日はロシア版ポテサラともいえる「サラート・オリヴィエ」。この店では福岡では珍しいロシアとその周辺地方の東欧料理を食べることができます。
料理は黒板メニューのみで、「ペリメニ」(ロシアの茹で餃子、サワークリーム添え)、「ドラニキ」(ベラルーシのじゃがいもお焼き、サーモンのクリーム添え)、「バドリジャーニ」(ジョージア風ブルスケッタ、茄子とクルミペースト)など、初めて聞くメニューばかり。せめて、"茹で餃子"という多少はイメージできそうな「ペリメニ」(900円)を注文してみました。モチモチとした皮で挽肉の餡を包んだシャッポ(帽子)を思わせるロシア風の包子は、サワークリームをつけていただきます。
この料理に合わせて百合花さんが選んでくれのが、旧ソ連邦の構成国だったジョージア産の白ワイン「TETRIS」です。オレンジワイン発祥の地といわれるジョージアらしいしっかりとした芳香と果実味があり、やはり料理にはその土地のワインを合わせるという鉄則に間違いはありません。
ワインバーであると同時にギャラリーでもある店内の壁には大月雄二郎氏の作品の他にも百合花さんと親交があるアーティストの作品が展示され、販売も行っています。2階の倉庫には数多くの作品が所蔵されており、今後は積極的に企画展も行っていく予定だそうです。
もうすぐ中秋の名月。キネマの月が巷に昇る秋なれば、春吉の小路にあるワインバーでお月見ワインと洒落てみませんか。
キネマの月
福岡市中央区春吉2-2-37
092-753-7954
ジャンル:ワインダイニング・ワインバー
住所:福岡市中央区春吉2-2-37
電話番号:092-753-7954
営業時間:18:00~24:00
定休日:火・水曜
席数:カウンター8席、テーブル6席
個室:なし
メニュー:チャージ500円、グラスワイン1,000円~、オリーブのスパイスマリネ700円、ペリメニ900円、ボルシチ1,300円、チーズ800円~
URL:https://kinemanotsuki.com
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