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松尾潔が「満点に近いミュージシャン」と評した72歳のロッカーとは?

イギリスの伝説のバンド・ポリスのメンバーだったスティングが10月2日、72歳の誕生日を迎えた。「満点に近いミュージシャン」と評するのは、音楽プロデューサー・松尾潔さんだ。同日、出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』でスティングの魅力を興奮気味に語った。

スティング以前と以降でロックの定義も変わる

きょうはスティング72歳の誕生日です。元々「ポリス」というイギリスの3人組の凄腕バンドのメンバーとしてデビューしました。ポリス自体、僕にとってカリスマでした。実は高校3年生の時に学校の文化祭で、スティング気取りでベースを弾きながら、ポリスの曲を歌いましたからね。


それから約40年経った今、こうしてスティングの話をしています。彼の名前は過去のものとして忘れ去られるどころか、一層レジェンドとしての厚みを増しているところに改めて、感嘆せざるを得ません。

ポリスは「ホワイトレゲエバンド」ともいわれました。イギリスは、ジャマイカとの関係性もあって、大変レゲエが盛んなところです。メンバー3人とも白人ですが、レゲエのリズムやジャズの素養が深く、単にロックバンドという一言では収まらない、広がりのある新しいロックを提示しました。


そしてさらに、スティングがソロ活動を始めたあと、実験性と商業性の化学反応というものが、すごく高いところでスパークしたんですね。まるで「スティング以前」と「スティング以降」で、ロックの定義も変わった、というぐらいです。

満点に近いミュージシャン

スティングはベースを弾きながら歌うので、ソロ活動のときはベース以外のミュージシャンを集めることになるんですが、そこに参加したのは主に若手のジャズミュージシャンたち。その中には、後にジャズの大物になっていくブランフォード・マルサリスやケニー・カークランドといった人たちが含まれています。


のちにポリスも再結成し、僕からするとソロとグループ活動とが、いい感じでガスがたまらないようにやっている印象です。なんといってもスティングはやっぱりかっこいいですね。ルックスもセックスアピールに溢れているし、あの鋼のような高い声、そしてタイトなリズムをキープするミュージシャンとしての腕の確かさ。満点に近いミュージシャンだと僕は思います。

社会的な発言も

トップスターとしての華というものを絶対的な担保として、彼は社会に対してものを言うことも意識的に増やしています。「Russians」という、ロシアの人々について歌った曲が有名ですが、ことあるごとに、国や地域の間に横たわる経済格差や戦争、人種差別というものにどんどんコミットしていきました。


日本でも坂本龍一さんが社会的な発信をしていましたが、スティングは歌い手でもあるので、その分発信力が大きい。U2のボノと並んで、今現役で活躍するミュージシャンとしては最も社会的な「声」が大きい方ですね。


そういう発信をする人だからこそ、音楽が頭でっかちになっちゃいけないと思うんですが、一時期スティングは、音楽的にちょっと難しいことに行きかけたかな、というときもありました。


けれども今考えてみると、それも緊張と緩和のひとつだったのかなという気がします。実際スティングを通して、ジャズにはまった人は世界にたくさんいるわけで。本当に代わりのきかない存在だなと思います。

「かっこいいロッカー」のイメージ

日本で一番愛されているスティングのナンバーは「Englishman in New York」でしょう。僕も数年前、JUJUさんのジャズアルバムをプロデュースしたときに、久保田利伸さんとのデュエットでこの曲をカバーしました。曲の骨組みが強いから、ジャズアレンジでも様になるし、「Jamaican in New York」というレゲエカバーもありましたね。これもスタンダードナンバーとして残っていくと思います。


スティングは今年3月に来日公演をしました。僕は残念ながら行けなかったんですが、参加した人からは「昔と遜色ない声量で歌っていた」と聞きました。


おまけにずっと体の線も綺麗なまま。スティングとミック・ジャガーの体の線はずっと変わらなくて、我々が今抱いている「かっこいいロッカー」のイメージ形成にかなり寄与していると思います。

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