10月27日に投票・開票された衆院選では、女性の当選者が過去最多となった。一方で、「票ハラ」と言われる、投票をちらつかせた有権者からのセクハラが女性の政界進出を阻むという問題も依然として残っている。2023年の大阪府知事選挙に立候補した法学者の谷口真由美さんが、10月28日に出演したRKBラジオ『田畑竜介Grooooow Up』で、自身の体験も交えながら女性議員が増えるために必要なことについてコメントした。
「女性議員が過去最多」となるも割合は全体の15%
今回の衆院選について知ってほしいことが2つあります。「女性の当選者が過去最多になりました」ということと「選挙において女性候補者が抱える大変な状況」についてです。
まず、「女性の当選者が465人中73人になりました」というニュースが出ました。これまで最多だったのは2009年の54人だったので、大幅に増えたんですが、これ、女性の割合は15%程度しかいないってことなんですね。
選挙もそうですし、議会のあり方というものも、男性しか見えない景色の中でずっとされてきたので、女性がそこに入るという意識とか、配慮とかそういうものがほぼ欠けていると思うんですね。
そもそも選挙には勇ましいというか戦闘用語がたくさんあるじゃないですか。「陣営」っていう言葉にしても「戦(いくさ)」「必勝」とかもそうですよね。
私も去年4月に大阪府知事選に出るとき「出馬会見」って言われて「私、馬ちゃうねんけど」とか「なんで馬扱いやねん」って思ったんですよ。それが戦闘用語かどうかは別として、何となく昔の言葉をずっと引きずったままで、マインドがそうなんだろうなと思うんですよ。
全体の30%にならないと少数の意見は通らない
今回、女性議員が増えたのは良いんですが、政府は35%程度まで女性議員の割合を増やしたいという目標を立てているんです。何で35%なのかと言うと、35%を超えないと少数者の意見が通らないからなんです。
これをクリティカル・マスと言います。30%を超えて初めて「数の少ない方がその場にいる」という気持ちになる、35%を超えた頃にようやく意見が通り出す、ということが起きるんです。
たとえば、友達10人が集まったとき「1人が焼肉行きたい、9人が寿司に行きたい」となった場合、寿司に行くんですよ。「2人が焼肉で8人が寿司」だとどっちに行きますか? 寿司に行くんですよ。でも「3人が焼肉、7人が寿司」ぐらいになったところで「焼肉行きたい人いてんねんな」という気持ちになるんです。
そして「4人が焼肉、6人が寿司」になると「どうする?」ってなるんですよ。5対5になったらイーブンなんで、「本当にどうする?」っていうことになるんですね。皆さんの感覚そのもので言っても3割から4割のところで変化するんですよ。
だから女性が女性のことをちゃんと政策として言えるようになるのは、実のところ30%から35%超えないと無理で、それまではアリバイなんですよ。数の多い方に迎合しないと生き延びられない。だから今の女性議員は生き延びるために、自分が本当に思っているかどうかは別として、男性のやり方に合わせないとやっていけないっていう状況があるんですね。
女性候補者の4人に1人が選挙期間中にセクハラ被害
そういう状況が何をもたらすかっていうと、いわゆる票ハラスメント(票ハラ)というのが出てくる構造になるんですね。男性議員ももちろんハラスメントを受けている方が沢山いると思います。
候補者になったから分かるんですけれども、路上でものすごい扱いを受けます。「こんなにひどいこと言われんのか」っていう体験をするんですけど、女性の場合はそれがセクハラに繋がるんです。
内閣府が2021年に行った調査では、女性候補者の4人に1人が「選挙期間中にセクハラを受けた」と回答しているんです。
どんな内容かというと「毎日のように様々な男性から抱きつかれて尻を触られた」「握手の数が票に繋がると言われるので、握手をしたら色々触られてくる」「街頭で差し出したビラを受け取らず舌で舐めた男性がいた」という身体的接触があったり、「付き合っている人はいるのか」「結婚はまだか?子供はいるの?」「若いんだから選挙に出るより子供を産む方が社会貢献になるよ、あんたが立候補するより」と言われたり…。そういう酷いことがあるんですね。
各政党でハラスメント撲滅のための委員会が設置されてはいるんですが、例えば私も「2児の母、シングルマザー」って書いてたら、「てめえが勝手に子供産んどいて、勝手に何かしたことを偉そうに言うな」と言われたりするんですよ。
大阪で「てめえ」なんて言葉は一般的に使わないんですね。江戸の言葉みたいな感じで言われるんですね。だから私は「なんでそんなことあんたに言われなあかんの! 私はあなたにそんなこと言われる覚えはない」って言うんです。
でも、それを言えない女性候補者も多いし、ましてや選挙のやり方そのものが「ものすごく追い詰められた男性のあり方」から始まっているんです。例えば、負けたら全部失う、仕事も収入も全部絶たれるから、それはみんな必死でやるわけですよね。
女性議員が増えることで変わること
選挙運動で、女性がトイレに行く時間を計算せずにスケジュールを組むことがあるんです。私が出馬したときはちゃんと言いましたけども、他の政党の女性候補者から「私、オムツ履いてやっています」というのを聞いたことがあります。つまり、トイレに行く時間がないと。
「行きたい」って言ったら「いや、そんなん行ってる暇ない」と言われるんです。選挙カーに乗ってどこかに移動しているときにトイレに行くことってないので。ウグイスさんと言われる、名前を連呼する女性がいますけど、彼女たちもオムツしてるって言うんですよ。
女性というのは男性に比べて尿道が短いので、トイレに行きたくなることは多くある、しかも暑いときだったら脱水症状になるから「水飲んでください」って言われる、そうすると当然トイレ行きたくなるわけで。
オムツを履いて訴えをするって、非人道的な扱いを受けていると思うんですよ。候補者そのものが。だから、選挙で当選したらマインドが「見とけよ」「見返したるぞ」「お前ら見とけよ」みたいな気持ちになる人もいるんじゃないかなと。
選挙のあり方そのものをやっぱりちょっと考えなきゃいけない。それは、女性候補者とか女性議員が増えることで見えてくる景色とか、上がる声の種類が変わってくることってあるし、若い人が立候補したいと思える環境を整えるということに関しても、同じように変えていかなきゃいけない。「まずは女性議員を増やしましょう」というところから入ったらいいんじゃないかなと思います。
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この記事を書いたひと
谷口真由美
法学者。1975年、大阪市生まれ。2012年、政治談議を交わす井戸端会議を目的に「全日本おばちゃん党」を立ち上げる(現在は解散)。元日本ラグビーフットボール協会理事。専門は、人権、ハラスメント、男女共同参画、女性活躍、性教育、組織論、ジェンダー法、国際人権法、憲法。