AIが可能にしたビートルズ27年ぶりの新曲について松尾潔が解説
ビートルズのオリジナルメンバー4人が揃った27年ぶり、かつ最後の新曲「Now and Then」がリリースされた。27年前には不可能だったジョン・レノンの歌声の抽出を可能にしたのは、進化したAIの技術だった。11月6日にRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演した音楽プロデューサー・松尾潔さんは「AIのハッピーな使い方として歴史に残る」と、この奇跡の一曲を讃えた。
27年ぶりの新曲
世界で最も有名なロックバンド、ザ・ビートルズの27年ぶりの新曲「Now And Then」がリリースされました。この曲、ずっと存在が確認されていながらも、きちんとした形で世に出なかったものです。
ビートルズはご存知のように、ジョン・レノンが1980年に襲撃され亡くなっています。そのとき、すでにビートルズは解散していましたが、常に復活が期待されていたバンドでした。でも、ポール・マッカートニーと並ぶソングライター、フロントマンだったジョンが亡くなったことで、復活は幻となりました。
ところが、それから14年後の1994年、ジョン・レノンが残したデモテープを元に、他の3人のメンバーがそこにオーバーダビング(多重録音)することで、ビートルズの新曲として発表しようというプロジェクトが実行されます。
それが「Free as a Bird」と「Real Love」、これが2曲続けてリリースされました。特に「Free as a Bird」は「新曲」ということで、世界的なヒットになりましたね。
AIの登場で…
1994年当時の技術でジョン・レノンの歌声を、テープから抽出するということをしたんですが、そのとき一緒に、今回リリースされた「Now And Then」も発表する予定があったそうです。
実際に、存命だったジョージ・ハリスンも含む3人でレコーディングに臨み、音を重ねていたんですが、やはり当時の技術では限界があり、断念したんです。ジョンが遺したテープは、自宅でピアノを弾きながら録音したカセットテープだったんです。
そのカセットテープからピアノの音とボーカルを分離させようと思っても、90年代の技術では無理だったんです。それがテクノロジーの発達、すなわちAIの技術で、ボーカルだけを抽出できたんです。
ショートフィルムを2000万人が視聴
感動的ともいえるメイキングビデオができていて、YouTubeで公開されています。11月3日に公開されたばかりですが、2日後には世界中で2000万人が視聴しています。
原曲をジョン・レノンが70年代に、ニューヨークの彼の自宅(ダコタ・ハウス)で録ってから今まで、どうやって日の目を見たかというのを12分半ぐらいにまとめています。
2年前『Get Back』という、ビートルズのドキュメンタリー映画があったのをご存知ですか。Disney+で配信され、今ではブルーレイやDVDも売られています。
『ロード・オブ・ザ・リング』で知られるニュージーランド出身のピーター・ジャクソン監督が作りました。
今回もピーター・ジャクソンが「Now And Then」の映像化で活躍しています。ポールとリンゴ・スター、そしてオノ・ヨーコとの間に厚い信頼関係があることが、映像から伝わってきます。
AIのハッピーな使い方として歴史に残る
「Now And Then」はビートルズのプロデューサーだったジョージ・マーティンの息子にあたるジャイルズ・マーティンがストリングス(弦楽器)のアレンジを重ねています。ひとつ面白いエピソードがあって、このプロジェクトを極秘で進めるために、バイオリンなどの演奏者に、これがビートルズの新曲だとは言わずに、ポール・マッカートニーのプロジェクトの一つであるかのような体裁で収録したそうです。
それぐらいずっと秘密裏に進めてきて、やっと日の目を見たプロジェクトなんです。ただ、デモテープの存在は、ずっとあると言われていたし、1回レコーディングも試みていたものでもあるわけで、しかも当時、そのときの音源の一部が流出してるんです。
その当時の音源にあった曲の構成のうち、Bメロの部分が今回カットされてシンプルな形でリリースされています。「そこが良かったのに」と言うマニアの人たちが世界中にたくさんいて、YouTubeには、ファンがBメロ部分を勝手に補完したロングバージョンも公開されています。
「カットされた部分こそ、ジョン・レノンっぽい」という言い分もわからなくもないので、こちらの方も聴いてみてください。いずれにしても、テクノロジー、AIの本当にハッピーな使い方ということで、今後も語り継がれていく歴史的な1曲です。
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