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大丸創業70周年 特別インタビュー 福岡の和菓子の名店『鈴懸』代表取締役 中岡生公✖️ UMAGA編集長 弓削聞平

暮らしグルメ

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創業70年の博多大丸と創業100年の鈴懸の出会い

写真右 鈴懸 代表取締役 中岡生公氏/左 UMAGA編集長 弓削聞平

弓削編集長(以下、弓削) 博多大丸さんは、今年で創業70周年だそうです。私が編集長を務めている福岡の食文化を紹介するwebマガジン“UMAGA”では、年間を通して大丸さんが展開する「コトやモノ」について紹介してきました。今回、このシリーズの最後の企画として、福岡の豊かな食文化を牽引する和菓子の老舗『鈴懸』の中岡社長にご登場いただきました。中岡社長とは仕事の席で何度かお会いしていますが、基本お酒の席以外でお話しするのあまりないですね。(笑)

中岡社長(以下、敬称略) 年に数回、お互い行きつけのバーで弓削さんとお会いしますけど今日は妙な感じですね。

弓削  博多大丸さんは70周年ですが、鈴懸さんは今年創業100周年だそうですね。100周年の大々的なイベントや宣伝などをあまり見聞きしない気がしますが記念事業などはなさってないのですか?

中岡  おかげさまで創業100年です。強いこだわりがあって100周年事業をやらないということでもないのですが、去年も来年も変わらず同じことを一生懸命やるだけだよという気持ちがどこかにあるのかもしれません。いつものことをいつもの通りに過ごしていけることに心より感謝しています。
弓削  そんなところも鈴懸さんのかっこよさですね。博多区呉服町で和菓子づくりをはじめられた鈴懸ですが、70年前に鈴懸のすぐ近くに博多大丸さんが開業されたのですよね。大丸さんとのお付き合いは?

中岡  博多大丸さんと鈴懸のお付き合いは、大丸さんの創業当時から70年来のお付き合いになります。当時、大丸さんの売場には、和菓子の店が2軒あったそうですが、そのうちの1軒は弊社でした。呉服町の工場でつくったお菓子を自転車で大丸さんまで運んでいたと聞いています。

1953年創業当時、博多区上呉服町にあった博多大丸

弓削 私も呉服町にあった頃の博多大丸を記憶していますが本当に近所だったのですね。

中岡 当時の大丸さんは呉服町の交差点にありました。うちの工場からは2区画ぐらいの距離ですね。

全館完成記念の奉仕セール告知ポスター

2023年、大丸福岡天神店の鈴懸がリニューアル

弓削 今年は、コロナ禍の様々な規制も解除され人々の行動も日常に戻った年でした。鈴懸さん、中岡社長ご自身にとってはどのような一年でしたか?

中岡 鈴懸としてやっていることに特別変わったことはないのですが、コロナ禍の3年は、われわれにとっても大きな経験でした。そもそも和菓子は、ご進物であったり、お茶会であったり、誰かを訪ねる時のお土産であったりと、人が集う生活文化に寄り添うものですから人との交流がなくなった日常に当初は大きな戸惑いがありました。しかし、和菓子は、誰かに贈るものだけではなく、自分に買って食べるものでもあります。実際、コロナ禍の間、ありがたいことに自分のためのお菓子を買って帰るというお客様が大変多くいらっしゃいました。コロナ禍の約3年間は、われわれの仕事の原点を改めて気付かせてくれた時間でもあったと思っています。


弓削 私も甘いものが大好きですが、確かにコロナ前までは和菓子を買う理由のほとんどは、人に会いに行く時に手土産として持っていくケースが多かったですね。それが自身で買って食べる機会が増えたというのは仰るとおりですね。売れる商品もその時期は変わりましたか?

中岡 定番の大福やぼた餅、どら焼きや最中などが特に好まれましたね。ご自分が買って食べるとなると昔からある定番のお菓子が売れることにあらためて気付かされました。だからより一層、古くからある定番のお菓子の味を極めることが大事だと認識しました。その他、その日につくってその日のうちに食べていただく朝生菓子は、私が社長になった頃、最初に力を注いだものでしたがあらためて季節の朝生菓子の様々なアイデアを考える期間でもありました。


弓削
 大丸福岡天神店の鈴懸の売場が拡張し、リニューアルされましたね。

中岡
 大丸福岡天神店、地下2階の鈴懸はこれまでより広いスペースになりました。私たちが大切にしている季節を通した和菓子づくりの世界感をより表現できる売場になったと思っています。広くなったことによりお菓子の種類も増えましたし、お客様の様々なご要望にお応えできる接客のオペレーションを整えることもできるようになりました。

福岡天神大丸の『鈴懸』

弓削 私もよく大丸さんの地下には行きますが、鈴懸さんの売場は見ているだけで楽しくなります。

中岡 ありがとうございます。ディスプレイに並んだ和菓子を見て日本の四季の美しさをお客様に感じてもらいたいのです。日々の営みを重ね季節が変わって行く、和菓子がその営みの側にあったらいいなと思っています。


弓削 今年は、博多大丸創業70周年の記念和菓子も考案されたそうですね。どのようなお菓子ですか?

中岡 今年の3月に発売しました。博多大丸さんの70年の歴史とこれからの未来を雪が溶けて新たな生命が芽吹く様子に見立てた『翠(すい)』という名前の和菓子です。大丸さんのイメージカラーの緑は八女茶を使用した羊羹で表し、雪色は鹿児島県産のつくね芋を使って蒸しあげたかるかんです。上に抹茶のもとである甜茶(てんちゃ)がのっています。


博多大丸創立70周年記念として発売した『翠(すい)』雪のように白いかるかんに新緑を思わせる美しい緑色と豊かな風味を持つ抹茶羊羹を合わせた和菓子

弓削 大変好評だったお菓子ですね。12月にも大人気の大丸さん限定のお菓子が発売されるそうですね。

中岡 はい。30年来、年に2回程、大丸さんと一緒に行っている企画で大変好評です。季節によって変わる和菓子を9種類詰め合わせた箱菓子です。2日間のみ大丸福岡天神店での限定販売ですが、発売日になると開店前に整理券をお出しするぐらいの人気企画です。






大丸天神店『鈴懸』限定のお菓子( 雪景色、椿、藪柑子、山茶花)の4種類の詰合わせ

弓削 鈴懸さんには色々な和菓子が揃っていますが、個人的に私は鈴懸さんのお赤飯も大好きなんです。

中岡 ありがとうございます。私も大好きで、幼い頃は工場で蒸しあがったお赤飯をよくつまみ食いをしていました。(笑)今でも手土産を持って行く時には、うちのお赤飯をよく持っていきます。

弓削 以前、私が編集した雑誌の表紙にも鈴懸さんのお赤飯の写真を使わせていただきましたが、その時も「これはどこで買えるの?」と多くの反響がありました。「鈴懸さん」と答えたらみんなびっくりしていました。

中岡 和菓子屋でなぜお赤飯?と若い方は思われるかもしれませんが、和菓子屋には良い小豆と餅米がありますから、昔は和菓子屋さんにはお赤飯が並んでいたものです。

鈴懸のお赤飯は、5日前からの事前予約で承っております

変わって行く街福岡と変わらない街の魅力

弓削 現在、福岡の天神地区の大改造が進行中です。福岡の街の大きな変化についてどのような視点をお持ちでしょうか?

中岡 いわゆる天神ビッグバンについては多いに期待していますし楽しみでもあります。と同時に、こうして大きく変化していっている時にこそ今まで培ってきた伝統や習慣を大事にしたいと思いますね。そして、改めて鈴懸も変化を進化に変えていきたいと思っています。

弓削 最近の福岡の都市圏には、国内はもとより海外からも多くの観光客が訪れて随分賑やかになりました。県外や海外からのお客様も増えてきたのではないですか?

中岡 地元のお客様はもちろん、遠くからわざわざ鈴懸にお越しいただくお客様も多くなりました。私は博多出身ですので人々に愛される街に成長する福岡が誇らしいですよ。福岡は新しさだけではなく歴史もあり懐の深さがある街ですので、そんな魅力も来福される方に気づいてほしいですね。

弓削 一昔前の福岡を知っているわれわれとしては、この目まぐるしく変わる街の変化に圧倒される時もあって福岡がリトル東京のような街になりつつあることを危惧する気持ちもあります。天神や博多駅のような中心部にメガカンパニーばかりが集結して、逆に個人商店で地道に商いをしてきたお店が中心からなくなり、おまんじゅうなど王道の和菓子はどこで買えばいいの?と思う時もあります。そういう時に鈴懸さんの存在が際立つ気がします。

中岡 ありがとうございます。伝統を守ることは本当に難しいことです。うちの和菓子職人ともよく話すのですが、100年前の鈴懸にも今と同じ大福という商品はあったわけです。しかし、今の大福が100年前と同じ味であったはずはない。ずっと変わり続けてきた結果の今があるわけです。進化というのはそういうことだろう、試行錯誤をしながら和菓子づくりをやり続けなくてはいけないと思っています。

弓削 中岡社長は一貫してつくる現場が一番かっこいいというお気持ちが強いですよね。

中岡 子どもの頃から工場に潜り込んでお菓子づくりを見てきましたからね。出来立ての和菓子がどんなに美味しいのかは身に染みて知っているつもりです。どんな食材も料理もそうですが「採れたて、作りたて」が一番贅沢です。

生産者さんとのコミュニケーションに手間暇をかける大切さ

弓削 現在、飲食業界では食品ロスなどの問題も深刻ですし、SDGsなどの取り組みも声だかに言われています。そのような、環境の変化に対してどのような考えをお持ちですか?

中岡 とても大事な問題だと思います。われわれが手がける商品の原材料の多くは自然の恵みからきているものです。その事実だけでも、現在の気候変動やそれに伴う自然災害などの環境問題の影響を危惧しています。実際、土を肥やし天候を見極めながら仕事をしているお取引先の生産者さんの声は深刻です。


弓削 鈴懸さんで使用される食材を扱う生産者さんとは頻繁にやり取りされているでしょうから、生産者さんの声を直接聞く機会も多いでしょうね。

中岡 一例をあげれば、鈴懸で使用するいちごは毎日、福岡市内から八女まで取りに行っています。

弓削 毎日ですか?!

中岡 はい。送っていただく方が楽なのは承知していますが、送ると店頭に商品が並ぶまでに1日多く時間がかかります。そのせいで鮮度も落ちる。それだけで味は全然違います。それに毎日農家にいちごを取りに行くことで得られるものがたくさんあります。この手間はとても大事です。他には、鈴懸のお米は、山形に古くからある彦太郎糯という一度途絶えた品種です。小さな田んぼから始めたのですが、今は東京ドームの半分ぐらいの規模になりました。これも農家さんと二人三脚で長い時間をかけて取り組んできた成果です。


弓削 大変な手間暇をかけてひとつの和菓子ができているのですね。

中岡 手間暇かけることはとても楽しいことでもあります。昔から受け継がれてきた知恵が大地にはたくさん詰まっています。それを生産者さんなどに教えてもらいながら、ああでもないこうでもないと職人たちとお菓子づくりに夢中になれる時間はかけがえのないものです。大切なことは、鈴懸のお菓子は、手間暇かけてつくっていますよと言葉で説明しなくても、美味しいとその価値をわかっていただくことが我々にとって幸せなことだと思います。


これからの大丸、これからの百貨店

弓削 鈴懸さんは九州では福岡だけの出店ですね。(他、東京に3店舗のみ)他県からの引き合いもありますよね?

中岡 ありがたいお話をいただくことはあります。ただ、職人が手作りでつくっているので1日につくる量には限界があります。手を広げて質が落ちるのは本末転倒ですしね。鈴懸は大きくなりましたねとおっしゃっていただくことがあるのですが、店舗数は昔からそんなに変わってないのですよ。


弓削 最後の質問です。博多大丸さんがある天神の街も変わっていきます。これからの博多大丸さんに期待することはありますか?

中岡 私も百貨店の食品売り場に行くのが大好きです。大丸さんには楽しい天神をつくっていただきたいですね。福岡天神の大丸さんには福岡の人だけではなく、九州各地、日本全国、海外からもたくさんのお客様が来られていると思います。大丸さんに行ったらいつも楽しいなという売り場をつくっていただきたい、それが「また来たいな天神に」「福岡はいつも楽しいな」へと繋がれば素晴らしいですよね。

弓削 私も海外や県外に行った時には、地元の市場や百貨店やスーパーマーケットに行きます。地域性を感じられるのはやっぱりその土地の食文化ですからね。

中岡 おっしゃる通りです。ただ新しいビルがたくさんできるだけでは寂しいですよ。福岡の地域性、魅力を大丸さんと一緒に発信して行きたいですね。これからも福岡で上質な日常を提供できるよう和菓子づくりに励んでいと思っております。

中岡 生公(なかおか なりまさ)株式会社鈴懸 代表取締役 1969年福岡県生まれ。大阪の菓子店で修行したのち、1991年株式会社鈴懸に入社。2010年代表取締役に就任。

この記事は大丸福岡天神店の提供でお届けしました。

店舗名:大丸福岡天神店
ジャンル:複合施設
住所:福岡市中央区天神1-4-1 大丸福岡天神店 本館・東館エルガーラB2F
電話番号:092-712-8181 (代表)
営業時間:10:00~20:00 
定休日:なし
URL:https://www.daimaru-fukuoka.jp/

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この記事を書いたひと

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