年に数軒、福岡グルメを次のステージへ導いてくれそうな新星に出逢います。2023年、そんな意味で記憶に残ったのが日本料理の「渡辺通 あなん」でした。丁寧にこしらえた美味はもちろん、流れる時間も快適至極。この純度の高い癒しを、多くの人にも知ってほしいと感じた一軒です。
2023年8月にオープンした「あなん」の入居先は、福岡の日本料理店では珍しいビル3階。「人目を忍ぶような立地が気に入りまして」と微笑むのは店主の阿南優貴さんです。カウンター・掘りごたつ・テーブル席を備えた“大人の隠れ家”には、19,800円のコースを振る舞う店とは思えぬ自然体な空気が漂います。
この好ましい居心地の発信源は、言うまでもなく阿南さんです。穏やかな物腰、礼節を知る言葉遣い、人柄を表す柔和な笑顔。この店主の存在が、「あなん」の魅力の核心なのは間違いありません。
今年41歳を迎える阿南さんは、22歳で南麻布の名店「分とく山」に入門。18年間在籍し、最後の5年は料理長を務めた練達の職人です。学生時代に雑誌で見た料理の美しさに魅かれ、「分とく山」に弟子入りを決めたそうですが、そこで得た最大の財産は「料理よりも人間的成長を目指せ」という師匠の教えでした。
「師匠いわく、人間の味=人間味こそが料理の良さを決めるからです。師匠自身も、仕事を終えると“お疲れ様でした”と弟子たちに一礼する方でしたね」。阿南さんの人間味を映した料理も、さぞや温和な美味であることでしょう。
19,800円のおまかせコース全8品は、そうした期待に120%応えます。九州産中心の食材は持ち味が完璧に引きだされ、季節を愉しむ日本古来の喜びを体現。食材の風味を重んじて、鰹を少なめに用いる師匠直伝の出汁も見事な出来です。
3品目の前菜は、そんな和の悦楽が凝縮した大満足の一品です。この日は辛子蓮根ならぬ明太蓮根、海苔の餡を乗せた牡蠣のあられ揚げ、博多和牛ローストビーフの和風薬味添え、イクラの飯蒸しという山海の幸4点盛り。絶妙な濃淡で描く味わいが、澄んだ旨味を浮き上がらせます。
これに続くお椀は白味噌と酒粕仕立て。心をほっと和ませ温める、芳醇でまろやかな一杯でした。
また、この時期限定のふぐの唐揚げはたっぷりの量で提供。骨付き部分は手づかみでかぶりつき、クリスピーな衣と旨味の強い白身を満喫しました。衣に加えた生姜醤油の香ばしさも食欲を掻きたて高得点!
そしてこの夜の最高潮は、やはり「鮑の肝小鍋」に尽きます。阿南さんが独立開業に合わせて編みだした、活きアワビ1個を丸々使うスペシャリテです。まずは濃厚な香りが鮮烈で、それをアテに一杯飲めそうですが、肝と卵黄と出汁を合わせたソースがまた妙味。そこへ黒胡椒と有明の海苔を加え、異次元の酒肴に仕上げています。これはかなり“魔性”を秘めた名品ですよ。
シメの炊き込みご飯も含め、どれをとっても旬と伝統美が満ちる美味でした。とりわけ季節感への目配りは細やかで、「四季をさらに六つに分けた“二十四節気”を常に意識しています」と阿南さん。「温暖化で食材の旬が不安定な昨今、昔ながらの日本料理の表現は難しくなる一方です。けれども創意や努力を重ねていけば、それがきっとこの店だけの個性になる。そう信じて日々取り組んでいます」
となれば、いずれ「あなん」が次世代日本料理の新基準になるのかも。そんな期待を抱かせる実力派の登場です。未来の“福岡の名店”を、ぜひご記憶あれ。
この記事は積水ハウス グランドメゾンの提供でお届けしました。
ジャンル:日本料理
住所:福岡市中央区渡辺通2-9-9 ニューガイア渡辺通BLDG. 3F
電話番号:090-6180-0823 前日10:00までに要予約
営業時間:12:00一斉スタート(水・土曜のみ)/18:00~最終入店20:00
定休日:不定
席数:カウンター6席、テーブル6席、掘りごたつ8席
個室:なし
メニュー:昼のコース13,200円・19,800円、夜のコース13,200円・19,800円
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