一時の勢いはないものの、いまも新規参入の絶えない福岡寿司界。選択肢の着実な広がりに、愛好家の“嬉し悩まし”はまだまだ続きそうです。そんななか、2023年10月に登場したのが「鮨 一徳」。東京帰りの店主が営むニューフェイスは、そこにどんな口福をもたらすのでしょう。
所在地は春吉橋横のパチンコ店「玉屋本店」裏にある、まだ真新しいビル2階。エレベーターを降りた通路には看板がなく、館内の重厚な空気感もあって緊張が高まりますが、右奥に小さな魚を貼ったドアを発見。脇のインターホンで名前を告げるとドアが開き、店主の久保孝徳さんと奥様が迎えてくれました。ご夫婦の人柄も手伝って、カウンター8席の店内はほんのりあったか。先ほどの緊張も瞬時にほぐれます。ビルの表情がクールなだけに、好ましいこのギャップは高得点。“隠れ家マニア”にもお勧めですよ。
そんな「一徳」のメニューは16,500円のおまかせコースのみ。つまみ7~8品、握り13~14貫を交互に出す満腹確実の構成です。「味でも量でも満足して欲しいので」と微笑む久保さん。東京で江戸前の腕を磨いた33歳の職人は、どうやら結構なサービス精神の持ち主のようです。
その意気を込めたコースは気の利いたつまみからスタート。和食店修業時代の経験が生きた、確かな手仕事を感じるアテ揃いです。この「メカジキのおかき揚げ」と「焼き胡麻豆腐」はその一例。前者は柔らかなメカジキとクリスピーな衣の歯触りに、後者は丹念に練りあげた胡麻とくるみの風味に引き込まれました。海鮮系の素材に極上品だけを使っているのも好印象です。
そうした鮮魚の魅惑は、多彩な江戸前寿司で本格的に開花します。「一徳」開業後、東京時代から味をガラリと変えたそうですが、その理由は素材の主役が九州産天然魚介になったから。「以前は昆布締めにしたような魚も、こちらではそのまま使って十分美味しい。そのことにまず驚きましたね」と久保さん。「それで僕の寿司もよりシンプルにしたんです。元々寿司もつまみも“引き算”が理想なので、福岡で独立したのは正解でした」
その言葉とともに供された、1貫目の長崎産ヤリイカはインパクト絶大な握りでした。極薄に切ったイカを層状に重ね、甘みを数倍に膨らませた名品です。
また、色鮮やかな赤身には大間のマグロを使用。優美な歯触りはもちろん、名産地の逸品に恥じぬ濃厚な甘みに唸らされました。
藁でいぶしたサワラの香ばしさもたまりません。食欲をじわりと促すその香りは、品数豊富なコースの中でも際立つアクセントになっています。
これに続くスダチを振ったコハダは、なんと1カ月も寝かせて臭みを抜いてありました。透明感さえ感じさせる一貫で、砂糖ではなく蜂蜜を加えた赤酢のシャリとも相性抜群!
なお、魚介のほとんどは柳橋連合市場の「いと嘉」で仕入れたもの。店主自ら行う職人技の神経締めで知られ、その下処理を施した最高鮮度の魚介は東京のミシュラン星付き店も欲しがるクオリティです。
珍しかったのがシメの干瓢で、久保さんは巻物ではなく、他の寿司と同様、干瓢を握って出します。「パリッとした美味しい海苔で召しあがってもらうには?」と考案したオリジナル。これはなかなか面白い寿司体験でした。
この内容と立地なら、16,500円は値頃と感じる方もいるかもしれません。「若い方でも頑張れば手が届く、という値段設定にしました。カチッとした高級店でもないので、自然体で楽しんでいただけたら嬉しいですね」
常時30種以上揃う日本酒も、その和やかな時間を後押しするはず。「好みのものが一つは見つかるように」と全国から選りすぐった銘酒は間違いなしのラインナップですよ。
ジャンル:寿司
住所:福岡市中央区春吉3-13-34ザ・ワン・バイ・オーク・ビラ
電話番号:092-791-6311 前日までに要予約
営業時間:18:30一斉スタート
定休日:火曜
席数:カウンター8席
個室:なし
メニュー:おまかせコース16,500円
URL:https://www.instagram.com/sushi_ittoku_fukuoka/
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