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食べても減らない「牧のうどん」。“麺が増える”のは錯覚なのか!?

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食べても食べてもなかなか減らないどころか、スープを吸って〝増えるうどん〟として知られる「牧のうどん」は現在、福岡・佐賀・長崎で合計18店舗を展開している。
 母体は糸島市にある「畑中製麺所」。従業員のまかないとして提供されていた、水で締める前の茹でたてのうどんが「たまらなく美味しい」と話題になり、近所からはどんぶりを持って食べに来る人もいたという。
 1973年、加布里に1号店をオープン。製麺所があったところの地名が「牧」だったことから「牧にあるうどん店」=「牧のうどん」という店名になった。
 開店時にはキャンペーンで3日間限定「四十五円で食べ放題」を打ち出した。(※1)それが評判となり店は大繁盛。その後、今宿、周船寺、唐津と西を制覇し、今では福岡空港の近くや博多駅バスターミナル内など中央や県外にも進出している。

牧のうどん 店内

 株式会社釜揚げ牧のうどん取締役本部長・齊藤秀雄さん曰く「通常、うどん一玉は240g前後ですがうちの麺は500gあるんです。安くてうまいだけではなく、うちは量が多くて安いのが特徴です」
 そう、〝増えるうどん〟はもともと量が多かったのだ。量が多く、食べてもなかなか減らないから「増える」と錯覚するのだろう。
 いや、やはり増えているのではないのだろうか。
 「牧のうどん」は福岡では珍しい釜揚げうどんの店なので冷水で締めるという工程はない。(※2)
「水で締めた麺はスープを吸いませんが、釜からあげたままの麺は生きてますので、どんどんスープを吸うんです」(齊藤さん)

牧のうどん スープ追加

 今はうどんと一緒に運ばれてくる小さなヤカンでスープを注ぎ足す方式が定着しているが、30年前までは大きなヤカンをスタッフが抱え「スープはいかがですか」と声をかけてまわっていたという。
 このスープという呼び名も「牧のうどん」独特の文化である。ダシでもなく、すめでもないスープは本店裏にある工場で一日1万食分をまかなう。なぜ独特の呼び名になっているのかというと、そこには作り手の自負が隠されていた。「牧のうどん」のスープは仕込みに3時間半はかかる。西洋料理でじっくり仕込んでつくる「スープ」のイメージから、そう呼ばれるようになったのだ。巨大な釜で出汁用利尻昆布を湯がき、カツオ節とうるめ節、さば節を入れて煮立たせると香り豊かで味わい深い「牧のうどん」のスープが完成する。こうしてつくられたできたてのスープを毎朝、全店舗に車で届けているのだ。

 もう一つの特徴は、店舗には必ず製麺機と大きな茹で釜があること。延ばした生地がその場でカットされ次々と釜へ入っていく様子は他では見られない光景だ。店内ではこの茹で釜が常に稼働しており「やわ麺・中麺・かた麺」の3種が茹でられている。麺は同じものだが茹で時間によって硬さを調節。オーダーが入ると釜から麺をあげてどんぶりに入れるシステムだ。
 麺のやわらかさはお客自ら記入する注文書で指定する。昔は「中麺」をオーダーする人が多かったが、今では「やわ・中・かた」どれも同じくらいの比率に変化したという。中には「中かた」「中やわ」と絶妙な加減を求める客もいる。その細かい希望に応えられるのも、店内に〝小さなうどん工場〟があるからなのだ。

※1「四十五円で食べ放題」という打ち出しには「始終、五円(ご縁)がありますように」との想いが込められていた。
※2 一般的なうどんは、茹で→冷水で締める→ざる上げ→再度軽く茹でる→ダシかけという工程だが、釜揚げうどんは冷水で締めずに茹でたらそのままダシをかけたりタレをつけて食べる。

【釜揚げ 牧のうどん 加布里本店】
糸島市神在西2-23-1
TEL.092-322-3091

この記事は「福岡グルメトリビア~ン」(2020年・聞平堂刊)から転載させていただきました。
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