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台湾総統選の「もう一つの舞台」は石川・能登半島!?迅速な支援の理由

飯田和郎

台湾総統選は与党・民進党の頼清徳氏が、野党の2人を下して初当選した。その直前に起きた石川県能登半島の地震は、総統選にとって「もう一つの舞台」だったという。東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長が、1月18日に出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で理由を語った。

特別な意味を持つ「台湾と石川県」

台湾といえば、能登半島地震発生直後にいち早く支援を表明した。日本円で6000万円の支援金を贈ると台湾外務省が発表すると、これに呼応するように、民間からも義援金がどんどん寄せられ、1月5日から10日までの6日間だけで、日本円で約12億円を超えたという。

これとは別に、今回は「選挙が終わった今だから」という話をしたい。元日に、能登半島で地震が発生したことを受けて、日本にある台湾の代表処(=大使館に相当)は、緊張に包まれた。

もちろん、北陸地方で、地震に遭遇した台湾からの旅行客を、どのように無事に保護するかという問題もあった。だがこれから話すことは別の視点からだ。前提として、台湾の人たちにとって石川県は、日本の中でも二つの理由で特別な意味を持つ。

一つは戦前の土木技師・八田与一だ。与一は日本の植民地時代の台湾でダム建設に従事し、当時東洋一といわれたダムを台湾の南部で造った。合わせて水路を整備し、干ばつに苦しんでいたこの一帯を穀倉地帯にした。いわば恩人である八田は石川県金沢出身。台湾では歴史の教科書に登場する。

もう一つの理由は、能登半島の和倉温泉にある老舗旅館「加賀屋」だ。日本で指折りのこのホテルは、台湾の人たちにとっても「一度は泊ってみたい旅館」であり、それが高じて、台北郊外の温泉地には加賀屋の系列ホテルまである。

「加賀屋式のおもてなし」が人気を博し、加賀屋という名前は台湾でも有名だ。そもそも金沢をはじめ、石川県は人気の観光地のひとつだが、これらの理由で台湾との結びつきがあり、台湾からの旅行先として人気が高い。

失態が許されなかった能登半島地震の対応

その石川県で、大きな地震が起きた。おそらく台湾の旅行客も大勢いただろう。東京と大阪にある台湾の出先機関は、迅速に台湾の旅行客の安否を確認し、安全を確保しようと努めた。

これまで述べた通り、石川県で起きた地震は当然、台湾での関心も高い。台湾政府の対応がもたもたすると、台湾のメディアから叩かれ、インターネット上で政府への非難があふれてしまう。しかも地震が発生したのは、総統選挙の直前というタイミングだ。もし失態とされれば、政権=与党・民進党への攻撃材料になる。

特に、日本にいる台湾のトップ、駐日代表(=駐日大使に相当)は、民進党の重鎮が務めている。かつて、行政院長(=首相に相当)を経験し、2008年の総統選挙にも民進党から出馬した人物だ。その民進党の重鎮がトップを務める日本で、対応にもたつくと、一層攻撃材料になりやすい。

台湾にとって、日本はアメリカとともにとりわけ重要な国だ。だから東京、それにワシントンに置く代表だけは、与党の重要人物=政治家が務めている。次の副総統に就任する蕭美琴氏は昨年11月まで駐米代表(=駐米大使)だった。日本と米国以外の国に置く代表は職業外交官を派遣している。日米だけは別格なのだ。

過去の日本の災害では悲劇も

現在の蔡英文政権には苦い思い出もある。2018年9月、台風の影響によって大阪の関西空港への行き来ができなくなった。関空では大きな浸水被害が発生、滑走路が閉鎖され、ターミナルも機能を停止した。また、風に流された貨物船が空港の連絡橋に激突、破損した。台湾人や中国人を含む数千人の旅行者が空港内に取り残された。

この時、台湾人旅行客への支援が十分ではなかったとして、台湾の出先機関の対応が批判された。デマも出回った。大阪の中国の領事館が大型バスを手配して中国人を優先的に避難させたとの虚偽の情報もネット上にあふれた。

とても悲しいことに、その直後、台湾の大阪代表が自ら命を絶った。関西空港での対応をめぐり、台湾で議論が巻き起こり、それに責任を感じたため、とされている。私の友人であり、とてもショックを受けた。

外国で起きた事件・災害であっても、その対応について台湾の市民の目は厳しい。しかも、能登半島地震は総統選挙戦の最終盤に発生した。台湾旅行客への対応がまずいと、メディアが騒ぎ、ネットが騒ぎ、野党側も与党への攻撃材料に使う。

中国側が総統選に利用しかねない

そして、今回の総統選挙で警戒されたのは、中国からの介入だった。中国は台湾の有権者に対して、優遇措置を適用するというアメ、一方で、優遇措置を突然、停止するというムチ。いわゆる「目に見える形」の介入があった。

同時に、インターネット上に、世論を惑わすフェイク情報を流し続けたという指摘もある。当然、中国と距離のある与党・民進党の頼清徳氏を攻撃する内容であり、中国と融和的な野党候補への援護射撃とされる。

つまり、台湾の与党からすれば、能登半島地震での対応を、「中国側が選挙戦に利用しかねない」、そういう懸念もあった。中国側がどのように利用したかどうかは、わからない。ただし、有権者の投票動向に大きな影響を与える可能性もあったのだ。

台湾の与党側は、マイナス材料にならないよう、ピリピリしたムードだった。それもあって、日本にある台湾の出先機関の外交官や職員は元日から懸命に動いたわけだ。つまり、台湾総統選挙の舞台は、台湾だけではなかった。日本、能登半島など石川県も舞台、いや舞台だったと、私には見えた。

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この記事を書いたひと

飯田和郎

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。