2023年8月、新たな挑戦の場を求め、一軒の寿司屋が佐賀から福岡にやってきました。同業者やグルマンの間では、移転前からその名が囁かれていた「鮨 多門」です。2014年と2019年にはミシュラン一つ星を得た実力派。24,000円のおまかせ1本で勝負するその店は、どんな一夜の夢を見せてくれるのでしょう。
薬院のマンション1階にある「多門」は、まず洗練された内装で客の心をつかみます。白木のカウンターが引き立つ眺めは、まるで“引き算の美”を極めた空間芸術。凛とした空気と穏やかな温もりが、掛け値無しの非日常を醸しています。
そして、この居心地をつけ場で支えるのが店主の田中健さん。客たちを癒す紳士的なもてなしが「多門」に与えた価値は計り知れません。田中さんは、久留米の人気店「鮨処 徳」の味に感銘を受け、そのまま弟子入りした寿司職人。30歳のとき故郷で開業した「多門」は、その後14年の間に県内指折りの名店となりますが、昨年、持ち前の冒険心と好奇心から福岡移転を決めたと言います。
そんな気概がこもるコースは華のある小鉢3品から始まりました。思わず破顔したのはマグロのヅケで、とろりと絡む卵黄がリッチな甘さを増幅。長年出し続けている定番で、なるほど貫禄のうまさです。
が、存在感では五島産タチウオのたたきも譲りません。ミョウガ、大葉、タマネギを乗せた白身は脂たっぷりで、瞬時に舌がとろける美味でした。
さらにお造りを挟み、白甘鯛の西京焼きが登場。これまた脂の乗りが完璧で、味蕾が歓喜に震えます。あまりに素敵なアテの連続に、気づけば徳利も空になり、即追加を頼みました。なにしろ約10種が揃う日本酒は1合900円からと、このクラスの店としては実にお値頃。これなら心置きなくお代わりできますね(笑)。
このように料理を彩る魚はどれも絶品。移転にあわせて仕入れ先を拡大し、現在は福岡、豊洲、大阪の業者を使い分けつつ上質な天然魚介を仕入れています。ネタケースに目をやると、その努力の結晶が誇らしく輝いていました。
続くつまみ2品を平らげ、いよいよ真骨頂の握りに突入です。熊本産ヒラメの優美な弾力に嘆息し、淡路島産のサヨリは木の芽やスダチとの組み合わせに感服。宮城・塩釜産の中トロのうまさときたら言わずもがなでしょう。
ネタの種類で硬軟を握り分けるシャリも申し分がありません。大分産ヒノヒカリに米酢と砂糖を少量あわせたシャリは、田中さんが「どんなネタも受け止める懐深さ」を模索したもの。どこか店主の人柄を思わせる、丸みを秘めた鮮烈な酸味が、それぞれの握りに色や深みを与えていました。
素材の力を100%引きだした茨城産ハマグリも印象的な一貫です。一度茹でた煮汁を凝縮させ、再度ハマグリに含ませる技法で調理。噛んだ途端に立ち昇る、濃厚な潮の香りがたまりません。
かくして粒ぞろいの12貫を美味しく完食。その余韻にふけっていると、ここで小粋なサプライズが! シメのデザートに、寿司店では珍しい洋菓子が供されたのです。実はサービス担当の女性スタッフがパティシエでもあり、和を取り入れた自家製スイーツは昔からの名物。今宵は後口すっきりの塩ミルクアイスモナカを愉しみました。
洗練された雰囲気と、旬の悦びに満ちた寿司、そして極上の接客が調和する佐賀の星付き店は、福岡でも衆目を集める“大型新人”になりそうです。
移転後は料理のグレードも上がりましたが「心機一転、ルーキーの気持ちで頑張ります」と微笑む田中さん。この謙虚さと向上心が、「多門」の魅力であり強さなのでしょう。一人でも多くの方にこの門をくぐってほしい──屋号にはそんな願いをこめたそうですが、それが叶う日は、もうそこまで来ています。
この記事は積水ハウス グランドメゾンの提供でお届けしました。
ジャンル:寿司
住所:福岡市中央区薬院2-4-39 New La luce 1F
電話番号:080-4288-4641 前日までに要予約
営業時間:18:00~22:00
定休日:日祝日
席数:カウンター9席
個室:なし
メニュー:おまかせコース24,000円、日本酒1合900円~
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