『不適切にもほどがある』小泉今日子が登場したその日彼女が語ったこと
3月15日に放送されたTBSドラマ『不適切にもほどがある』には、小泉今日子さんが登場する場面があった。実は同日、東京都内では小泉さんが登壇したトークイベントが開かれていた。同月18日、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演した音楽プロデューサー・松尾潔さんが、そのトークイベントで語った彼女の言葉を紹介した。
小泉今日子・和田靜香とトークイベント
今年1月に出版した僕の著書「おれの歌を止めるな ジャニーズ問題とエンターテインメントの未来」の刊行記念トークイベントが、3月15日に東京・下北沢の書店で開かれました。
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000385411
ゲストに迎えたのが、僕と30年近いお付き合いになる小泉今日子さんと、ライターの和田靜香さんの2人。和田さんはもともと作詞家で、音楽評論家の湯川れい子さんのアシスタントを経て、音楽ライター、相撲ライター、今では政治ジャンルでも活躍しています。小泉さんと和田さんは58歳、僕が56歳という、ほぼ同世代の3人でした。
「自分たちの声でもっと社会のことを語ろう」
テーマは「自分たちの声でもっと社会のことを語ろうよ」。この「おれの歌を止めるな」という本は「ジャニーズ問題とエンターテインメントの未来」というサブタイトルが付いています。
僕は例えとしてよく「ガザ・パレスチナの話を語ったその口で、エンターテインメントの話をしてもいいじゃないか」と言っています。逆のことも同じで「さっきまでエンターテインメントの話をしていた同じ口で、社会や政治のことを語ってもいいんじゃないか」と言えます。
社会の話、政治の話ってとかく「そういうのは大人の人たちがやることだから」って、まるで神棚に置いておくような雰囲気がこの国にはあります。それも、いい年をした大人でさえ、話さないことに対して恥ずかしがることもないし、違和感も抱かない。もっとカジュアルに社会のことを話していいんじゃないの? と思います。
「50代だから言い続けるしかない」
小泉今日子さんは言うまでもなく、戦後の日本芸能史を代表する女性タレント・歌手の一人です。最近は俳優や演劇プロデューサーとしての活躍も目立っています。大手プロダクションから独立して事務所を立ち上げてからは、社会に対して言及することも辞さないスタンスです。トークイベントの中でもこんなことを言っていました。
「女である私が社会や政治についてのことにちょっと声を発するだけで『付き合っている男性の影響ですか?』って聞かれたりする」
確かに、そういうふうに尋ねられるのは女性ばかり。メディアの記者が直接本人に質問することもあれば、市井の人々がSNSでそんな投稿をしているのかもしれませんが、昔ながらの「女・子供は、つべこべ言わずに黙っていろ」というような思想が見え隠れして、僕は本当に嫌になります。マッチョな思想というか、それを支える家父長制のパターナリズムというか、そういうものの存在は感じるからです。
小泉さんは、この国の政治に関してこんなことも言っていました。
「今の世の中って、どう考えてもおかしいでしょ」
「怒らない方がおかしいと思うんだけど、普通にそういうことを思っているんだけど、その怒りとか、もっと言うとただ単に思っていることを素直に口にするっていうだけで、『売れなくなったから左に寄りやがった』みたいなことを言われたりする」
それに付け加えて「私、まっすぐ立っていますけど!」って、会場の爆笑を誘っていました。
そういうときに彼女は、“どうにかしてそういう声をしょぼんと、ちっちゃくさせようっていう意地悪な感じ”を感じるのだそうです。じゃあ声を上げないかっていうと、「私は『黙れ』って言われても黙りませんよ」と力強く語っています。
さらに、この国の若者と未来を案じてこんなことも言っていました。
「50代だから我々は言い続けるしかない。命をかけて」
「自分の人生考えると、そんなにこの先長くもないから、次の世代のためにちゃんと立ってなきゃって思うんですよ」
僕はこの発言に、非常に共感しました。
「若い連中が幸せになるまで見届けないと」
小泉さんと最初に出会ったのは1996年で、彼女のアルバム制作のお手伝いをしていました。でも、その頃の僕らは政治の話をすることは全くありませんでした。もちろん、そういうことを何も考えていなかったわけではなかったんですが。
その後しばらく疎遠だったんですが、小泉さんと僕は、よくネット上で意見がハモることがありました。じゃあ一緒に仕事していた頃と今とで、何か違っているかというと、小泉さんも僕も全然変わっていません。ずっと日々を重ねてきて、この歳になっただけです。
実はたまたま、このトークイベントがあった15日の夜にオンエアされたTBSドラマ『不適切にもほどがある』に小泉さんが出演していましたね。ドラマは38年の時の隔たりを行き来する話。僕が小泉さんと知り合ったのは、それよりも短い28年ですが、ドラマのシーンにもあったような「キョンキョンという穴を通り抜けてタイムスリップしたような気分」をちょうど味わいました。
あのドラマがそうであるように、阿部サダヲさん演じる主人公の小川市郎という人がそうであるように、やっぱりその人自体は大きくは変わりません。先週のドラマの中で、市郎は面白いことを言っていましたね。
「今の時代、俺みたいな異物が混入してないと駄目だと思うんだよな」
「不適切なやつだよ」
「若い連中が幸せになるまで見届けないとさ」
これもイベントで小泉さんが話していたことと見事にシンクロしたし、僕が本の中で言いたかった「若い人たちがこの国で声を上げてもダメなんだ、っていう諦めを与えない社会を、僕らは作る責任がある」というところとも見事に一致しています。まさに「一緒におれの歌を歌い続けましょう」ということを確認しあった金曜日の夜でした。
この記事はいかがでしたか?
リアクションで支援しよう