空気を震わせるような歓声が響く。
1カ月前、北九州市で開催されたサッカーU23の日本対ウクライナの国際親善試合。チケットは完売、1万人超えの観客の一人として私はいた。ミクニワールドスタジアム北九州を本拠地とするJリーグクラブチーム「ギラヴァンツ北九州」の試合の実況を担当することも多い私にとっては、この日もなじみのある景色が目の前にあった。
ただ、抱く感情が違う。観衆の中にいると、応援するチームの好プレー時にあがる歓声の迫力は普段の何倍にも感じられ、ピンチの際には両隣の観客が不安から生つばを飲み込む音まで聞こえてくる気がしてくる。「今、この場の人たちと喜怒哀楽を共有している」。芽生えたそんな感情は、スタジアムの5階にある放送席では決して抱くことができないものだった。
試合は日本2-0で勝利した。雨が降り、決して好天に恵まれたとは言えなかったが、観客の晴れやかな笑顔が印象に残った。
ギラヴァンツ北九州は現在J3リーグで戦っているが、いつの日か国内最高峰のJ1リーグに昇格し、満員のスタジアムで感情を共有する観衆を見てみたい。そして、その試合を実況したい。新たな夢が生まれた夜だった。
4月27日(土)毎日新聞掲載
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