リラックスした空気の中で、美味しいフレンチが食べたい──。不意にそんな欲求が湧いた時、訪ねたいのが高砂の「La cuisine de KAWAMURA」です。場所はホテルニューオータニ博多近くのビル2階。古めかしい階段や通路はどこかダンジョンめいて緊張しますが、こういう感じ、嫌いじゃありません。掛かる看板も控えめで、まさに知る人ぞ知る趣の一軒です。
店内にはカウンター6席と、4名までのテーブル1卓を完備。狭苦しさはまるでなく、むしろ温かい繭(まゆ)のような雰囲気が居心地よさを物語っています。
そして、キッチンには歓待の笑みを浮かべる河村健志さんの姿が。かつて磨いたイタリアンのエッセンスも織り込みながら、理想の美味を追求するオーナーシェフ兼ソムリエです。最初に出会って10年以上経ちますが、料理への情熱と人好きする柔和な物腰は昔のまま。きっと「河村さん目当て」の常連も多いことでしょう。
さて、こちらでは7,700円と11,000円のおまかせコースを用意。記念日利用の場合は、客の要望を反映できる16,500円~22,000円のスペシャルコースがお勧めです。今宵、僕が予約したのも16,500円コース。まずはスペイン産栗のポタージュで幕を開け、次に温菜の甘鯛鱗焼きが供されます。ソースがわりに添えた、モン・サン・ミシェル産ムール貝のクラムチャウダーも格別でした。
そして3品目にはお待ちかね、店自慢のフォアグラが登場。ソテーした半生状のフォアグラを、マデラ酒の甘いソースでいただきます。卵黄と組み合わせるのが斬新で、甘み&とろみの相乗効果は想像以上。すき焼きにも似た口福が包み込む珠玉の一皿です。なお、このスペシャリテはすべてのコースに付きますよ。
続く魚料理は、旬のポルニーチ茸とトラフグのパイ包み。単体で調理せず、あえて手間のかかるパイ包みにしたところに河村さんの“古典料理愛”を感じます。
パイを破ると立ち込める、茸の豊かな香りがたまりません。具材もシンプルにマリネすることで、逆に食材のインパクトを強めていました。「1皿に乗せる要素は3つまで。そのトライアングルが僕の料理の基本です」と河村さん。「食材への敬意もありますし、ただ“美味しい”だけじゃなく、お客様には“何が美味しかったか”を記憶してもらえたらと願っています」
また、一緒に出された自家製フランスパンもかなり印象的。10年以上試作して到達した味だそうで、パンマニアはこちらにも乞うご期待!
終盤の肉料理は、見事に火入れした広島産の猪でした。河村さん曰く「広島~岡山エリアは餌の質が良く、うまいジビエが多いんです」。その言葉に嘘はなく、上品な旨味と野生味が凝縮するヘルシーな赤身は絶品至極。ジビエという大自然の恵みに胸打たれる逸品でもありました。
ここまでのボリュームも満点ですが、不思議と「まだまだ行ける」気もします。バター類を惜しまず使うクラシック寄りの料理ですが、不思議と食後感が軽いのは、ソースなどの酸味で巧みにバランスを取るからでしょう。「KAWAMURA」に熟年ファンが多いのは、この快い余韻にも理由がありそうですね。
そんな充実のコースも、このバスク風チーズケーキで終幕。隠し味のゴルゴンゾーラが、酒にも良く合うアダルト感を醸していました。すべてを完食して思うのは、本当にどの料理も存在感が抜群なこと。河村さんが生むピースな空気も含め、なんとも忘れ難い一夜になりました。
3,800円のコースを提供する「グリルかわむら」として開業して17年。月日と共に進化を重ね、今や様々な目的で使えるレストランとなった「KAWAMURA」ですが、当時の親密さが不変なのは嬉しい限り。料理にも河村さんのたゆまぬ努力や信念が窺え、改めてエールを送りたくなります。
「食材高騰は続いてますが、なるべく原価をかけて皆様に喜んでほしい。その姿勢はずっと変わりません」。7,700円の値頃なコースを残したのもその現れで、特に「若い世代がフレンチや外食文化に触れるきっかけに」との想いを込めたとか。そうした慈しみが満ちる“気取らぬ隠れ家”に、一度足を運んでみませんか?
この記事は積水ハウス グランドメゾンの提供でお届けしました。
ジャンル:フランス料理
住所:福岡市中央区高砂1-22-1 アーク七番館2F
電話番号:092-210-4673 前日までに要予約
営業時間:18:00~22:30
定休日:日曜、他不定
席数:カウンター6席、テーブル4席
個室:なし
メニュー:おまかせコース(前日まで要予約)7,700円・11,000円、スペシャルコース(3日前まで要予約)16,500円~22,000円、グラスワイン1,100円~、ワインペアリング3,300円(3杯)
URL:https://www.instagram.com/la_cuisine_de_kawamura/
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