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ロシアのメドベージェフ前大統領が12月12日、中国を訪問し習近平主席と会談した。間もなく年を跨ぐウクライナ戦争のさなか、両国が会談した背景について、東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長が12月16日に出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で解説した。
「ロシア安全保障会議副議長」が中国訪問
「非常戒厳」を出した韓国の尹錫悦大統領に対する弾劾訴追案が12月14日、韓国の国会で可決された。2度目となった訴追案で、大統領職務は停止された。罷免の可否は、憲法裁判所の弾劾審判が判断する。韓国の混乱、朝鮮半島の南北間の緊張が続きそうだ。
そのことと無関係と言えない動きが、朝鮮半島の外でも起きている。
中国の習近平国家主席は12日、北京の人民大会堂で、ロシアの政権与党「統一ロシア」のメドベージェフ党首と会談しました。
これは中国メディアの報道だ。メドベージェフ氏は「ロシアの政権与党『統一ロシア』の党首」という肩書で紹介されが、我々には、別の肩書の方がわかりやすい。メドベージェフ氏は、現在のプーチン大統領の前に、大統領を務めた。「前大統領」と言った方が、「ああ、あの人か」となる。
プーチン氏が1回目の大統領を務めたあと、メドベージェフ氏は2008年から2012年まで大統領の職にあった。その間、首相だったプーチン氏が大統領に復帰した。
すべて絵を描いたのはプーチン氏だ。メドベージェフ氏は、プーチン氏のサンクトペテルブルグ時代からの部下。プーチン氏の指示通りに動いてきた。メドベージェフ氏は現在、与党「統一ロシア」の党首という肩書とともに、「ロシア安全保障会議の副議長」として紹介されることが多い。
北朝鮮兵の派遣について中国に説明か
さて、この時期の、メドベージェフ氏の中国訪問はどのような意味を持つのだろうか?
それは「プーチンからの使者」(=遣いの者)という役割だ。ロシアには中国との協力関係を確認したい、切迫した背景もいくつかある。朝鮮半島に関するテーマも、その一つだろう。ロシアは北朝鮮の兵士を招き入れている。北朝鮮、ロシアとも北朝鮮兵のロシア派遣について説明していないが、米国や韓国は10月以降、1万人を超える北朝鮮兵が派遣されたとみている。
ウクライナのゼレンスキー大統領は14日、「かなりの数の北朝鮮兵」がロシア軍の戦闘に加わっていると述べた。ゼレンスキー大統領は、「ロシア兵の弾よけ」とも言っている。ロシアにとって、北朝鮮の兵士は「欠かせない存在」になりつつある。
一方で、ロシア政府は自国の兵を募集する際の金銭的待遇をアップさせている。長引く戦闘で、兵隊の数が足りなくなっているから、一方で北朝鮮兵を受け入れ、また一方で待遇改善を進めているとの分析がある。
その待遇改善を含め、自国の兵士との契約を統括するのが、「安全保障会議の副議長」メドベージェフ氏とされる。メドベージェフ氏は今年1月から7月までの半年余りの間に19万人を兵士として契約したと明らかにしている。
言うまでもなく、中国は北朝鮮をさまざまな形で支援してきた。それもあって、ロシアと北朝鮮の最近の連携について、中国はよい感情を持っていない。メドベージェフは習近平主席らに、ロシアが招き入れた北朝鮮兵士の件について説明したのではないだろうか。
習近平氏の会談での発言を読み解く
さて、その会談はどのような内容が協議されたのか? 報道された表の部分だけだが、習近平氏はウクライナ戦争を「ウクライナ危機」と表現して、次のように評した。
「『戦火が戦場から外へ拡大することもないこと、戦闘が激化しないこと、そして外からの攻撃があってはならないこと』。中国は、この3つの原則を遵守してきた」
ここで考えたいのは2点。ひとつは、依然として「ウクライナで起きていることは戦争ではない。危機だ」という位置付け。もう1点は「外からの攻撃があってはならないこと」と指摘している点だ。
つまり「戦争ではない、この危機はロシアとウクライナの当事者の間で解決すべき」というスタンス、そして「外から攻撃をするな」というのは、NATO(北大西洋条約機構)をはじめ、「部外者が『口出しするな』」という意味と受け取ってよい。
中国は、ロシアのウクライナ侵攻を非難していない。結果として、国際社会は当然、「中国は支援している」と理解するのではないだろうか。習近平氏はメドベージェフ氏との会談で、ほかにもこう言っている。「中露両国は手を携えて、新しいタイプの国際関係の模範、そして隣国同士の大国関係の模範を示してきました」。
シリアの政権崩壊はロシアの戦略的にダメージ
そのロシアが肩入れしてきたシリアのアサド政権が崩壊し、アサド大統領はモスクワに亡命した。
ロシアは2015年からシリアに軍事介入した。反体制派などを空爆し、アサド政権にとって救世主だった。一方で、見返りとして、シリア国内で海軍、空軍の2つの基地を借りてきた。その基地はNATOをけん制する役目を担ってきた。基地を失えば、ロシアの中東、さらにアフリカに及ぶまで、戦略的なダメージはとても大きい。
ロシアは北朝鮮に兵士の派遣を頼るほど、ウクライナでの戦争で手いっぱいだ。シリアに兵力を使う余裕はなかった。アサド政権崩壊で、軍事介入を主導したプーチン氏の威信に傷がついた。その文脈で読めば、窮地にあるロシアは中国との緊密な関係を再確認したい。それを国際社会に見せつけたい。プーチン大統領の側近、メドベージェフ氏の訪中は、そのように演出された。
中国も、ロシアの弱みはわかっているのではないだろうか。したかたに利用している。一方、中国にも事情がある。12月11、12日に北京で、来年の経済運営の方針を話し合う重要会議「中央経済工作会議」が開かれた。習近平氏も演説し、檄を飛ばした。
その会議で、来年2025年も「より積極的な財政政策」を実施することを決めた。中国経済はかなり重症だ。だから、財政出動によって、景気を下支えする方針を明確にしたわけだ。
米トランプ次期政権との間で貿易摩擦が想定される。打撃を減らすためには内需を拡大しなくてはいけない。製造業の“エンジン”を回すにはロシア産の原油を安い価格で、安定して輸入していくことが欠かせない。ロシアの窮状を突き、サポートしながら、自分たちに優位な関係を築き、中国の利益につなげていくという戦略だ。
ウクライナ戦争の陰に中国の存在
最後に、メドベージェフ氏との会談で、習近平氏が発した言葉を、もう一つ紹介しよう。
「中国とロシアは、国際的な公正と正義を共同で守っていく」
今の中露のどこが「国際的な公正と正義」なのかは、理解できないが、間もなく年を跨ぐウクライナ戦争の陰に、中国の存在を忘れてはならない。そして、中国とロシアの力関係はよる大きく変化していきそうだ。
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この記事を書いたひと
飯田和郎
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。