国内外で、さまざまな課題が山積みの2025年がスタートした。1月6日にRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演した飯田和郎・元RKB解説委員長が、中国や台湾のリーダーが年末年始に発したメッセージから、2025年を占った。
プレミア12の優勝を「チーム台湾の勝利」にしたい台湾総統
台湾の経済・文化の中心、台北に「TAIPEI 101」という101階建て、高さ500メートルを超えるランドマークがある。ここで毎年、年越しのカウントダウン・イベントが開かれる。101階建てのビル全体から、花火が打ち上げられるのだが、今回のイベントテーマは「Team Taiwan Champion」。冒頭には、英国のロックバンド「Queen」の名曲「We Are The Champions」が流れ、集まった市民で大合唱した。
そして、夜が明けた1日朝、頼清徳総統が新年のメッセージを発した。総統は2024年を振り返る中で野球の世界大会「プレミア12」に触れた。
「私たちは栄光を分かち合うことができました。それは台湾が手にした『プレミア12』優勝です」
国連をはじめ、国際組織のメンバーになれないケースが多い台湾にとって誇りであり、大きな自信になる出来事だった。だから、頼清徳総統は「自分たちは出来るんだ!」ということを、台湾市民に訴えるため、改めて紹介したのだろう。そして、頼総統はこうも訴えた。
「親愛なる同胞の皆さん。私たちは共に涙を流し、喜びを分かち合ってきました。私たちは家族です。私たち全員が『チーム台湾』です」
昨年5月に就任した頼清徳総統にとって初めての新年のメッセージ。当然、中国を意識したものもあった。
「台湾にとって民主主義とはなにか? それは私たちの自由な権利や、社会の多様性を、強力に発展させる原動力というだけではありません。国際社会で得た、信頼というブランドでもあるのです」
「台湾がどのような脅威や困難に直面しようとも、民主主義こそが台湾の唯一の道であり、これからも前に進み続け、絶対に後戻りはしないのです」
さらに、新しい1年の始まりに際して、こう決意を述べた。
「台湾海峡の平和と安定は、世界の安全保障と繁栄にとって不可欠な要素です。台湾は、平時の危険に備え、国防予算を増額し、国防力を強化します。国家を守る決意を示さなければなりません」
全体として、中国=習近平政権を刺激する文言はない。穏健な内容だ。防衛予算の増額は明言したが一方、「台湾の住民の団結がなにより大切。中国に比べて優位性のあるもの、それが民主主義。動揺しないように」というメッセージだろう。
台湾社会には多様な価値観が存在し、政治的立場もさまざまだ。台湾の内部での対立が、中国による台湾統一工作のスキをもたらす。そういう中、昨年のプレミア12での優勝は、まさに「チーム台湾の勝利」。野球にとどまらず、選手も市民も、ワンチームとなった「チーム台湾」を、中国と対峙する上でも、大きな材料にしたいわけだ。
国民にさらなる「努力と覚悟」を求めた習近平主席
一方、中国の習近平主席は新年の挨拶。こちらは大晦日の夜、国営テレビを通じて、2025年の年頭所感を発表した。終始、穏やかな表情で語っていたが、特徴的なのがこの文言だ。
「2024年。私たちは春・夏・秋・冬を共に歩いてきました。風も、また雨にも遭い、虹も見てきました。その特別な1年の、その一瞬一瞬に感じたそれぞれを、忘れることはできません」
「夢は遠くとも、追いかけるものです。 難しくとも、叶えることができます。中国式近代化に向けた旅路は、誰もが主人公であり、それぞれの貢献が大切。そして、それらすべてが輝くのです」
キーワードは「夢」。習近平主席は就任時から「中国の夢」という言葉を好んで使っている。それは自身の力によって、米国に並ぶ、さらに米国を追い越して、世界の真のリーダーになるという「中華民族の偉大な復興」という夢だ。
その夢を叶えるためにも、まずは目の前の課題を克服しなくてはならない。それが経済。経済運営を巡り、国民にこのように訴えた。
「今日(こんにち)、新しい状況が生まれ、外部からの不確かな課題、新旧の圧力に直面しています。しかし、これらは努力によって克服できます。私たちは風、雨といった洗礼を受けながら成長し、試練と苦難の中で強くなってきたのです。自信を持って歩んでいきましょう」
習近平主席が国民向けに行なってきた、過去の演説に比べると、表現がかなり情緒的な印象だ。「外部からの不確かな課題、新旧の圧力に直面」、つまり景気の減速局面にあった2024年、政府はさまざまな景気刺激策を講じてきた。2025年もまさに「試練と苦難」が続く。国民にさらなる「努力と覚悟」を求めた形だ。習主席の新年の辞は厳しい現状を示す内容に思える。
気になる台湾問題についての言及だが、習主席は台湾住民に向けてこう呼びかけている。
「台湾海峡両岸の同胞は一つの家族であり、誰も私たちの血と絆を断ち切ることは、できません。誰も祖国統一という歴史の流れを止めることは、できません」
「中国と台湾に住む我々は同じ家族であり、身体には同じ血が流れる」。先ほど紹介したように、経済の低迷など中国国内の閉塞感から、国民のはけ口を外へ…。つまり、中国のいう「同じ家族」である台湾に、さらに強硬な手段を講じるかもしれない。
そういう中で、戒厳令を発令した韓国の尹錫悦大統領への捜査は、足踏み状態にある。内乱容疑での逮捕状執行ができないままだ。大統領の職務は、副首相が代行している。
韓国では混乱が続き、トップが国民にメッセージを発するという雰囲気にもない。韓国の混乱、今月20日のトランプ米大統領就任式に前後して、北朝鮮が挑発行為に出る可能性もある。石破総理は、このような近隣情勢を目の当たりにして、今年、どのように舵を取っていくのか。まずは、1月6日の年頭会見に注目したい。
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この記事を書いたひと
飯田和郎
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。