春日市の「菊鮨」と言えば、国内外から予約が殺到、1年待ちも珍しくない寿司の名店です。そこで7年研鑽し、二番手を務めた職人が昨秋独立。南区野間で新たな歴史を歩んでいます。その「船越」があるのは閑静な住宅地。修業店を彷彿とさせる“郊外スタイル”ですが、そこに待っていたのは「菊鮨」とは一味違った寿司の魅惑でした。
野間4丁目の一画で、丸い看板に灯をともす一軒家が目的地。白壁が囲む、築70年余の建物はかなりの風格です。駐車場から玄関に向かうと、格子が縦横に走る端正な表情が見えました。ここが昨年11月20日、船越久生さんが構えた「船越」です。この秘めやかな場所で、一体どんな美味に出逢えるのでしょう。
靴を脱ぎ、畳敷きの店内に上がると開放的なカウンター席が現れました。と同時に、店主の船越さんが板場から歓待の第一声。芯のある好青年のような眼差しの、今年33歳になる職人です。「高校球児みたいって、よく言われます(笑)」
当初は和食を志し、石川県金沢市で6年修業。独立のため一旦帰郷しますが、その前に偶然働くことになった「菊鮨」で運命が変わります。大将・瀬口祐介さんとの仕事を通じ、「米とネタだけで勝負する」寿司の虜になったのです。やがて腕をあげた船越さんは二番手を任されますが、在籍7年を迎えた昨年、夢を貫き独立を決めました。
そんな「船越」の魅力の一つが、シンプルな美を極めた内装です。無駄な装飾を排し、つけ台さえない無垢な空間は、茶室のように客の心を綺麗にリセット。「ここは祖父母が住んでいた家で、近々壊す予定でした。でもここでやってみたいと思い、建築士の父に頼んでリノベーションしたのです」。洗練と温もりが調和する店内は、初訪問の緊張を少しも感じさせません。「自宅と同じくつろぎを感じてもらえたら嬉しいですね」。この隠れ家にふさわしい極上の舞台です。
さて、こちらのメニューは22,000円のおまかせ一本。料理が7~8品、寿司12貫+玉子という構成です。まずは1品目の椀物が、胃を優しく温めてくれました。
この日の具材は弾むような食感のアンコウ。それを包む出汁が素晴らしく、優雅なコクに感嘆の吐息が漏れます。用いる鰹節は鹿児島産の特注本枯れ節で、しかも脂が多い腹節のみ。金沢時代のツテで入手する、福岡にはほぼ流通しない希少品だとか。「最高の出汁を引けた日は気分が良いですね」と、船越さんが和食出身の矜持を覗かせます。
続いてお造り2品を挟み、4品目の焼物には糸島産サワラの難波焼きが登場。艶っぽい白身のうまさを、備長炭とネギの香りが巧みに引き立てます。
さらに酒盃が進む珍味、酢の物と続き、いよいよ12貫の寿司がスタート。1貫目は地物のクエで、繊維質までよく分かるキレの良い歯触りがたまりません。
脂の乗りが見事なコハダは天草産。切り身を2枚重ねることで、あらゆる要素をボリューミーに楽しめました。
大間のマグロは赤身・中トロ・大トロの3種で供され、珠玉の美味を余さず堪能! その後も車海老やウニなどの王道&旬ネタが連続し、締めの対馬産穴子まで文句なしの流れです。味にも包容力があり、船越さんの目指す「食後にホッとする寿司」ばかりでした。
そして大事なポイントがもう一つ。「菊鮨」の味=「船越」の味ではない、ということです。船越さんも「シャリと魚の仕入れ先は、あえて菊鮨と変えました」と言い切ります。例えばシャリには大粒の米を使い、赤酢より米酢の割合を増やすことで「菊鮨」よりまろやかな食味を表現。「僕なりに理想のシャリを追求した結果です。噛んで滲みでる米のうまさを楽しんでもらえたら」と言葉に力を込めました。
もちろん“菊鮨出身”の看板に頼り、同じ味で客を楽に増やすこともできたはず。けれども自分の技と感性を信じ、我が道を切り拓く船越さんの覚悟を僕は素敵に思います。そんな気骨を持つからこそ、瀬口さんにとっても船越さんは手放したくない愛弟子だったのでしょう──「お前になら菊鮨の2号店を任せても良いよ」と言わしめたほどに。
それに、無尽蔵に情熱を注ぐ仕事を始め、師匠の心は「船越」の随所に強く生きています。「握る姿が師匠そっくりと言われることも多くて」と微笑む船越さん。「今も悩んだら師匠に相談してますね。本当に人柄が素晴らしい方なので」。今後の夢は?の問いにも「全国からお客様が集まる菊鮨みたいな店になること」と答えた若き大将。名店のDNAを受け継いだ船越さんの挑戦は、今始まったばかりです。
この記事は積水ハウス グランドメゾンの提供でお届けしました。
ジャンル:寿司
住所:福岡市南区野間4-11-27
電話番号:092-541-3533
営業時間:12:00~15:00/18:00~22:00 ※ランチは水・金・土曜のみ
定休日:日曜
席数:カウンター8席
個室:なし
メニュー:おまかせコース22,000円
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