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ミャンマー拠点の特殊詐欺集団、日本を結ぶもう一つの「点と線」

飯田和郎

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ミャンマーにあるオンライン詐欺組織で働かされていた日本人が保護された。その中には男子高校生も含まれており、驚きと衝撃が広がっている。東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長が2月24日、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演し、日本とミャンマーを結ぶ「点と線」についてコメントした。

ミャンマーで保護された日本人

2月20日の衆院予算委員会で、外務省はタイ当局によって拘束、または保護された日本人は計7人と明らかにしました。7人の内訳は、拘束されたのが成人5人、保護されたのが16歳と17歳の高校生2人です。

保護された16歳の高校生は、「ミャンマーから日本へ電話をかけ、警察官をかたって、詐欺に加担していた」と証言しています。この高校生は、オンラインゲームを通じて知り合った相手から「海外で君の特技を生かせる仕事がある」と勧誘されたということです。実際には、日本に住む高齢者を騙すため、日本語を話せる闇バイトの募集だったのです。

高校生にはノルマが課され、毎日長時間働かされました。特殊詐欺の「かけ子」をさせられていたのです。自分自身が騙され、犯罪に加担させられていることを認識した高校生は、日本にいる家族にSOSの電話をかけ、「今、ミャンマーにいる。中国マフィアによって、詐欺をさせられている」と連絡し、タイ警察によって保護されました。

中国マフィアによる詐欺行為

高校生の証言によれば、「中国マフィアによる詐欺行為」だったとのことですが、なぜミャンマーで中国人の犯罪組織が暗躍しているのでしょうか。高校生が詐欺に加担させられていたタイ国境のミャンマーの街は、ミャンマーの中央政府の統治が及ばない地域です。

中国企業がここに多額の投資をして経済特区を建設し、カジノやホテルなどリゾートを謳ってスタートしました。「ミャンマーの中にある中国」といった感じです。そこに流入したのが中国の犯罪集団であり、カジノなどに紛れて拠点を置いています。

国連の報告では、「人身売買などによって、世界中からミャンマーに集められた12万人以上が、特殊詐欺に加担させられている」としています。かけ子はそれぞれの自分の国に詐欺電話を掛けるよう強要されます。中国の検察当局は、ミャンマーに拠点を置く特殊詐欺グループが、日本円で2000億円以上の詐欺に関わっていたと指摘しています。

ここ数年、国境を越えた特殊詐欺は、ミャンマー、カンボジア、ラオスから電話やインターネットを使って行われるケースが多いです。これらの国はどこも中国との関係が緊密であり、中国の経済圏の一部と揶揄されることもあります。

中国に対する国際的イメージの悪化が懸念される中、中国はミャンマーなど国外での犯罪組織一掃に懸命です。2月21日、中国外務省のスポークスマンは「中国はタイやミャンマーと協力して集中的な取り締まりを行ってきた。オンライン詐欺の拠点多数が排除され、容疑者が拘束された」とコメントしています。

チャイニーズドラゴンの関与も

事件の別の側面として、ミャンマーの国境地帯で多くの外国人が監禁され、詐欺を強要されている問題に、日本の準暴力団「チャイニーズドラゴン」の関連グループが関与していることが新たに分かりました。

「チャイニーズドラゴン」は、日本で暮らす中国残留孤児2世、3世を中心に1980年代後半に結成された組織です。その凶悪性の高さから恐れられ、警察は「準暴力団」「半グレ集団」と位置づけていますが、実態の把握が難しいとされています。

中国残留孤児は、日本の敗戦後の混乱で主に中国にいた日本人の子供たちであり、日本人の肉親と離ればなれになり、そのまま中国人養父母のもとで育てられました。孤児たちは、のちに日本へ帰国し、日本で生まれた2世、3世が「チャイニーズドラゴン」の主要メンバーとなりました。

その一人である残留孤児2世の男性が4年前、毎日新聞のインタビューを受けています。彼は14歳、中学生の時に日本へ来て東京に定住しました。毎日新聞の記事の一部を紹介します。

「通っていた中学校には約60人の中国残留孤児2世らがいたが、皆、貧しさに直面していた。言葉の壁もあり、暴力を振るわれる仲間もいた」

「いじめに対抗するため、残留孤児2世ら日本語学級の12人でグループを作った。これがチャイニーズドラゴンの始まりだった。『元々、暴力を受けていた仲間の集まりだった。いじめられたくないから自分たちを強く見せたかった』」

犯罪は、もちろん環境のせいだけではありません。貧困や差別だけを理由にしてはいけないのは事実です。しかし、そのような環境でも懸命に生きている人が大多数です。一方で、戦前の日本が中国を含むアジアで犯した暴挙が、多くの日本人の運命を変えました。

戦後、日本に帰国したものの社会に溶け込めず、やがて犯罪に手を染めるに至った背景には、戦争が遺した問題があるのです。日本人全員がこの問題に真剣に向き合う必要があります。

ミャンマーでの特殊詐欺と中国マフィアの存在、そして犯罪に加担したとされる中国残留孤児らの組織「チャイニーズドラゴン」の存在。これらに共通するのは「中国」というキーワードです。この事件が示しているのは、単に日本人が被害者であるだけではなく、「犯行に加わった側の日本人」の存在も浮上しているということです。

遠くミャンマーを拠点にしたこの犯行は、戦争が終わって80年を迎える今年、我々が歩んできた戦後の歴史を振り返るきっかけとなります。戦後の日本がどのようにして現在に至ったのか、そしてこれからどのような道を進むべきなのか、考える材料としてこの事件を捉えるべきでしょう。

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この記事を書いたひと

飯田和郎

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める。